立て続けに人員合理化を発表したクックパッド。最新の決算資料とともに業績を読み解く(出所:クックパッド公式サイト)

有名な料理サイト「クックパッド」を運営するクックパッド株式会社は矢継ぎ早に人員削減を打ち出している。2023年6月5日も「人員削減の合理化及び営業損失の計上に関するお知らせ」として海外子会社を含む110名を退職勧奨、あるいは解雇するとした。契約終了の派遣社員もカウントされているとはいえ、退職予定日は6月末から8月末と期間も短い。

同社は3月にも同様の合理化を発表していたばかりだった。東証スタンダードに上場しているが、有名企業でこれほど立て続けに人員合理化を発表するケースは珍しい。その前回3月は「グローバルプラットフォームの運営に従事する者が所属している当社の海外子会社において、人員削減を行う」としていたが、今回は国内にも及んだかっこうだ。

クックパッドの業績…の前に

そこで同社の決算資料を見てみよう。通年としては、2022年12月期が最新だ。私は職業柄、さまざまな決算書に加えて、決算説明会資料を読む。そのなかでもクックパッドはきわめて興味深い決算説明会資料となっている。ぜひみなさんも確認してほしい。

2022年12月期の決算説明会資料は全31ページだが、連結業績の説明がはじまるのが18ページ目からであり、その前までは「Our mission」として定款が貼り付けられる。「世界中のすべての家庭において、毎日の料理が楽しみになった時、当会社は解散する。(定款第2条2項)」。


解散のタイミングに言及している定款(出所:クックパッド株式会社 2023年12月期 第1四半期 決算補足説明資料)

次に「Our vision」として「ヒトの健康に必要なのは、食事、運動、睡眠といわれ、世界でもっとも頻度高く行われている社会活動は、家族での食事です」などが書かれている。私はこれらの記述内容に反対ではない。むしろ賛同する。


その他にも資本主義が人間にもたらした変化について綴った箇所なども(出所:クックパッド株式会社 2023年12月期 第1四半期 決算補足説明資料)

ただし、連結業績の説明前に、これら企業の存在意義に関わる内容が、かなり長く貼り付けられることに奇異とともに、面白さを感じる。なお、どうでもいい話かもしれないが、連結業績の説明前に、イラストだけでコメントが付記されていないページすらある。

クックパッドの業績

閑話休題。そこでクックパッド業績に移ろう。

【2022年12月期】
・売上収益:90億円(前年比△9.2%)
・営業利益:△35億円

(※前年も営業損失が生じているため、前年比の表現ができない)

となっている。

コストの構造などもあるが、営業損失が出たもっとも大きな理由は収益の落ち込みだ。同社の運営する、国内レシピサービスにおける会員売上が減少。またレシピサービス広告売上も売り上げが減少している。

分解してみると次のようになる。

・国内レシピサービス会員売上:64億円(前年比△7.7%)
・国内レシピサービス広告売上:15億円(前年比△25.9%)

(※その他売り上げがあるため、合計は前述の収益と一致しない)

前者の「国内レシピサービス会員売上」は個人会員なのでBtoCの領域、後者の「国内レシピサービス広告売上」は企業からの出稿なのでBtoBの領域だ。つまり、同社はもともとのビジネスモデルとして個人と企業でバランスをとろうとしたものだったが、両方とも減少している。

BtoCはのちに語るものの、動画サイトやほかのサービスの台頭が大きい。また、BtoBはそれらの理由に加えて、食品メーカーの出稿意欲は原材料高騰により低下した背景もある。

なお冷静に付け加えておけば、同社は2022年12月期発表時点で「現金及び現金同等物」を168億円ほど有しており、私にことさらに経営危機をあおる意図はない。(※なおこれから書く2023年12月期 第1四半期発表時点では152億円に減少している)

クックパッドの年間ではなく最新の四半期報告書から、その後の状況を読み解く。残念ながら会員売上等が好調とは言いがたい。課金対象の会員数も減少している。各セグメントも出血を止めたとまでは言いにくい。これからも同社の決算に注視していきたいと私は思う。なお、「2023年12月期 第1四半期 決算補足説明資料」においても全28ページのなかで、連結業績は15ページからやっとはじまる。


14ページ目まで、決意表明が続く(出所:クックパッド株式会社 2023年12月期 第1四半期 決算補足説明資料)

ではクックパッドの業績背景は何か。

さきほども触れたとおり、他サービスの台頭がある。投稿レシピのサービスはほかにもたくさんある。アプリも充実する。クックパッドのレシピ情報量は凄まじいが、量が多すぎて選択が難しい。有料課金をしてもいいが、それならば、インスタグラムで有名インフルエンサーの投稿を見たほうが早い。写真とともに簡単なレシピが書いてある。さらにコメント欄から他者の意見も確認できる。

またインスタだけで物足りなければYouTubeでもいい。調理をする人のキャラクターを含めて楽しめる。Twitterならバズった料理のレシピの連投も確認できる。いまでは長文をTwitterで公開する人もいる。

しかしそれでもなお、クックパッドの課金対象が164万人もいることは注目できるだろう(なお前年同期時点では180万人)。レシピと他分野の連携、ならびにほかの付加価値を提供できるかがカギとなる。

現在は苦境に陥るくらい競合サービスが発達

ところで、本原稿でクックパッドの決算説明会資料のユニークさを紹介したが、そこには奇異さを伝えたかっただけではなく、もう1つ理由がある。

この説明資料いわく<クックパッドは、食の世界を良くするには、料理をするひとはもちろん、農家など食に関わるものをうみだす「つくり手を増やすこと」だと考えています。><料理をとおして、他の人とのつながりが楽しみとなり増えていくようにしたい。料理を、ヒト、社会、地球の健康に貢献していると自信をもって続けていけるものにしたい。>などと並んでいる。

ここから書くことは皮肉ではない。ただ、この決算報告資料を読んで強く感じたのは、クックパッドが苦境に陥るくらい競合サービスが発達している現在こそ、クックパッドが思い描いた世界が実現しているのではないか、という逆説だ。

以前は、雑誌とテレビくらいしかレシピを求める手段はなかった。しかしネットが登場し、双方向になり、さらにSNSで莫大に広がった。地球のどこにいても世界中のレシピが手に入り、さらに人気のレシピもすぐにわかる。

つまり料理のレシピ入手における格差はほぼなくなった。誰でも、どのような料理でも調理できる世界が広がっている。これこそクックパッドが求めていた時代ではないだろうか。

そのなかで「世界中のすべての家庭において、毎日の料理が楽しみになった時、当会社は解散する」とまで掲げた会社がどうするか。私は楽しみにしたいと思う。

(坂口 孝則 : 調達・購買業務コンサルタント、講演家)