「BEVのデザイン」比較で見るメーカーの狙い
左上:スバル ソルテラ、右上:ヒョンデ アイオニック5、左下:BYD ATTO3、右下:日産 アリア(写真:SUBARU、HYUNDAI 、BYD、日産自動車)
今や軽自動車からラグジュアリーセダンまでラインナップされるようになった電気自動車(BEV)。しかしながら、車格や価格で見ていくと、多くの車種が集中しているゾーンがあることに気づくだろう。
日産「アリア」やトヨタ「bZ4X」、スバル「ソルテラ」と同等のボディサイズや価格帯の車種が、多いのだ。
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具体的にはヒョンデ「アイオニック5」、テスラ「モデルY」、フォルクスワーゲン「ID.4」、少し全長は短いがBYD「ATTO3」もそれにあたる。
いずれも全長は4.6mあたり、全幅1.85m、全高1.6mぐらいで、ハッチバックやワゴンよりやや背が高い、クロスオーバービークルである。
これ以外に、プレミアムブランドのメルセデス・ベンツやアウディなどからも、同じぐらいの車格のモデルは出ているが、価格が大幅に高くなる。日産やトヨタと横並びで比較できるのは、上記のラインナップになるだろう。
BEVは「デザインが大事」だと考えるワケ
BEV全体に言えることだが、エンジン車やハイブリッド車と比べると、パワートレインの選択肢は少ない。2WDの場合、「前輪駆動か後輪駆動か」という違いはあり、上で紹介した車種では日本勢とBYDが前者、テスラ、ヒョンデ、フォルクスワーゲンが後者になる。
しかし、エンジン車やハイブリッド車のように、排気量や気筒数、縦置きか横置きかという違い、ターボの有無、トランスミッションの構造や段数のバリエーションなどは、現時点では望めない。
テスラはダイナミックでトヨタは穏やかなど、加減速の仕方などで個性は実感しているものの、「3気筒ターボと4気筒自然吸気」「CVTとデュアルクラッチトランスミッション」といったメカニズムの違いを味わうことは難しい。
フォルクスワーゲン ID.4のメカニズム透視図(写真:フォルクスワーゲン グループ ジャパン)
そんなこともあって、BEVはこれまで以上にデザインが大事になると思っている。
実際に上で挙げたラインナップでも、同じブランドのエンジン車やハイブリッド車と比べると、より個性を強調したり異なるキャラクターを与えたりと、多彩な表現を見ることができるからだ。
でも、各車がバラバラというわけではなく、いくつかの傾向があるとも感じている。そこで筆者が勝手に設定したチャートに、上で紹介した車種を当てはめてみた。
チャートは、縦軸を「シンプルさ」、横軸を「モダンさ」として、エクステリアとインテリアを別々に考えている。
エクステリアのチャート
まずエクステリアでは、bZ4X/ソルテラ以外の全車が、シンプルであることを心がけていると伝わってくる。BEVは、エンジン車やハイブリッド車と比べて航続距離が短いからこそ、空気抵抗を小さく抑えることが大事だし、スマートフォンが象徴しているように、最近のデザインのトレンドはシームレスなので、この方向性は理解できる。
さらにこの5台では、アイオニック5とモデルYがモダンさで突出していると感じる。
ヒョンデ アイオニック5(筆者撮影)
テスラ モデルY(筆者撮影)
とはいえ、両車の表現方法は対照的で、モデルYがミニマムに徹しているのに対し、アイオニック5は前衛的なディテールが目を惹く姿になっている。
アリアはこの2台に比べると、伝統的な高級感にも気を配っているうえに、フロントグリルの位置にあるパネルに組子模様を取り入れるなど、日本らしさを控えめに織り込んでいることも特徴として挙げられる。
日産 アリア(筆者撮影)
ID.4とATTO3は、リアクォーターピラーの処理などが似ている。ただし、ID.4は「T-ROC」など、同ブランドにあるエンジン車のクロスオーバーとの近さも感じる。さすがジャーマンブランド、BEVになってもアイデンティティを貫く姿勢は変わらないようだ。
BYD ATTO3(筆者撮影)
フォルクスワーゲン ID.4(筆者撮影)
対するBYDは、日本展開を発表したときに披露された3車種(ATTO3、DOLPHIN、SEAL)で、すべて異なる個性を備えていた。歴史が浅いからというより、車種ごとに独自のキャラクターを与える方針なのではないかと感じている。
残るbZ4X/ソルテラは線が多く、面にはメリハリがあって、伝統的なスポーティさやダイナミックさをアピールしているようだ。トレンドよりも、存在感を大切にした形ともいえるだろう。トヨタ/スバルの差別化はフロントマスクの他、リアコンビランプ周辺などで行われている。
トヨタ bZ4X(筆者撮影)
スバル ソルテラ(写真:SUBARU)
続いてインテリア。こちらはチャートを見ればおわかりのとおり、アリア/アイオニック5/モデルYは、シンプル&モダンというテイストが共通している。
インテリアのチャート
日本らしさを織り込んだアリア、アヴァンギャルドなアイオニック5、ミニマムなモデルYという持ち味も同じ。内外装で統一感が取れていると感じる。
中でも印象的なのは、セダンの「モデル3」に続き、インパネ中央の大きなディスプレイに速度計を含めたあらゆる情報を表示するモデルYだ。エアコンのルーバーもインパネの段差に埋め込まれ、スイッチはステアリングにあるぐらいで、圧倒的なシンプルさを誇る。
テスラ モデルYのインテリア(写真:Tesla)
アリアとアイオニック5は、横長のメーターとセンターディスプレイをつなげた造形こそ通じるものの、それ以外の部分では直線基調のアイオニック5に対して、アリアは適度に柔らかいラインを取り入れていて、これが雰囲気の違いにつながっている。
日産 アリアのインテリア(写真:日産自動車)
ヒョンデ アイオニック5のインテリア(筆者撮影)
bZ4X/ソルテラは、エクステリアと比べるとかなりシンプルな仕立て。ただし、メーターとセンターディスプレイを完全に分けたり、センターコンソールを高めにレイアウトしたりしていて、スポーティな演出をしている点は外観と共通だ。
スバル ソルテラのインテリア(筆者撮影)
インテリアがいちばん目立つのは、ATTO3だ。スポーツジムをイメージしたというインパネ、ギターの弦をモチーフにしたドアポケットなど、いい意味で遊んでいる。縦/横に90°回転可能なセンターディスプレイは、タブレットからの発想だろう。
BYD ATTO3のインテリア(筆者撮影)
新しさとブランドイメージ
操作系では、ドライブセレクターに目を向けたい。エンジン車やハイブリッド車では前席間にレバーを置くのが一般的だが、ここで紹介する車種でこのタイプはATTO3だけ。アリアはマウス風、bZ4X/ソルテラはダイヤルで、アイオニック5とモデルYはコラムレバー、さらにID.4はメーターパネル脇のアイロンのようなノブを捻る。
フォルクスワーゲン ID.4のドライブセレクター(写真:フォルクスワーゲン グループ ジャパン)
個人的には、この部分がBEVデザインの面白さを象徴していると思う。駆動用モーターはエンジンより小さいうえに、多くの操作系を電気信号でコントロールするのが前提の設計なので、デザインの自由度が高いからだ。
いい意味で伝統を断ち切った造形に挑戦できる一方、新しさの中にブランドイメージをどう盛り込んでいくかもポイントになるだろう。これから各メーカーやブランドが、BEVでどういうフォルムやディテールを提示してくるか、楽しみにしている。
(森口 将之 : モビリティジャーナリスト)