ワールドレディスサロンパス杯でメジャー初優勝を果たし、ガッツポーズする吉田優利【写真:Getty Images】

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1年8か月ぶり3勝目の吉田、現状打破へ起こした行動とは

 女子ゴルフの国内メジャー今季初戦・ワールドレディスサロンパス杯は7日、茨城GC西C(6780ヤード、パー72)で最終日が行われた。2打差の首位で出たプラチナ世代の23歳・吉田優利(エプソン)が3バーディー、4ボギーの「73」で回り、通算1オーバーでメジャー初制覇を成し遂げた。2021年9月のゴルフ5レディス以来1年8か月ぶりのツアー3勝目。昨年は2位に5度入りながら優勝を逃していた。現状打破のための行動の一つに、ソフトバンクホークス・王貞治会長との異例の直電話があった。(取材・文=THE ANSWER編集部・宮内 宏哉)

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「私はあまり人に相談しない」と語る吉田が、珍しく頼った人物がいる。3月18日、今季ツアー3戦目のTポイント×ENEOSゴルフトーナメントの第2日目終了後だった。師事する辻村明志(はるゆき)コーチに、LINEでこんなメッセージを送った。

「どうしても王会長に聞きたいことがあります。手紙を出したいのですが、どうすればいいか教えていただけませんか」

 辻村コーチは2016年、当時スランプだった上田桃子とともに、巨人で打撃コーチを務めた荒川博氏の指導を受けている。荒川氏こそ、現役時代の王会長に一本足打法を教えた人物。晩年、「気を沸き出させて打つ」の教えを基にゴルファーも指導していた。同年12月に亡くなったが、上田は翌年に復活の2勝。辻村コーチは「僕の恩師であり、先生」と感謝を胸に、教えを自身のゴルフ指導に落とし込んで吉田らにも伝えている。

 荒川氏の教え子という繋がりで、辻村コーチは王会長と今も連絡を取り合う間柄。2017年、当時アマチュアだった吉田は、上田の優勝祝賀会で王会長と初対面している。

 吉田からのLINEを受け、辻村コーチは王会長に相談。すると「手紙より言葉の方がいろんなことが伝えられるから」と快諾どころか、電話を提案された。時間にして約30分。「迷いがあっても、毎年の変化に自分が付いていかないといけない」など、吉田は様々な角度からアドバイスをもらえたという。

 辻村コーチはこの出来事を驚きをもって振り返る。

「まず(吉田は)勇気あるな……と思いました。偉大な方と話して、腑に落ちたところがあったと思う。優利の凄いところは、一つの出会いを大切にしているんです。運や縁から結ばれるものがあるし、モヤモヤから助けてくれる。コーチとしても、指導も大事だけれど、良い縁を結んであげたいというのが凄くあります」

過去にも王会長から金言「今すぐ気持ちを捨てなさい」

 この頃の吉田は決して調子が悪いわけではなかったが、成績とかみ合わないのも事実だった。昨季は2位に5度入りながら優勝には届かず。本人は5日の会見で「後ろを向く時間も、落ち込む時間もなかった」と語ったが、辻村コーチによると「悔しいの連続」だった。練習で涙を流しながらボールを打ったのも一度ではない。

「(上田)桃子もそうだけれど、あいつ(吉田)の凄いところは負けても『クソー』ってちゃんと立ち上がるところ」と同コーチ。日曜日に最終日を戦った翌日、月曜朝8時に自ら練習を始めるのも当たり前。火曜、水曜も状態を整えて試合会場へ向かうのがルーティンで、シーズン中はほぼ休まない。

 王会長への連絡を願い出たのも、ストイックな吉田が現状打破のために起こした行動の一つだった。過去にも胸を打つ金言をもらった経験がある。

 19年11月のプロテストに合格した後。吉田は再会した王会長に、プロになって通用するか不安があることを質問。「プロとアマチュアは全然レベルが違う。だから今すぐアマチュアという気持ちを捨てなさい」と助言された。吉田の発言の節々に、プロ意識を感じた理由の一端がここにあった。

 1年8か月ぶりの優勝は、吉田自身の努力が実を結んだ結果であることは言うまでもない。ただ、迷える23歳が世界のホームラン王と電話越しに過ごした30分に突き動かされたのも事実。辻村コーチも「王会長の言葉は重い。プラスアルファの力をもらえた」と感謝する。

 全ては辻村コーチ、上田が荒川氏と出会ったことから始まった。繋いだのは、縁を大切にした吉田の行動と王会長の懐の深さ。久々の戴冠に、吉田は「3勝目まで結構長かったけれど、その分、特別な試合で勝つことができた。今まで頑張ってきたことが間違ってなかったと思う」と実感を込めた。

 王会長にも、天国の荒川氏にも、胸を張ってメジャー制覇を報告できる。

(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)