フィギュアスケーターの浅田真央さんが、長年の夢である自身の名前を冠したスケートリンクを建設する「MAO RINK PROJECT」のメディア発表会を開催した。東京・立川市の立飛駅から徒歩3分の好立地にある9000平方メートルの敷地に、クラシカルな雰囲気のあるスケートリンクが2024年秋に竣工、オープンする予定だという。

 2017年4月の現役引退会見でも語っていたスケートリンク構想がいよいよ本格始動する。現在はプロスケーターとしてプロデュースしたアイスショー「BEYOND」の活動に取り組む浅田さんは、プロジェクトについて次のように語る。

「スケートリンクを作るのは長年の夢でした。選手の頃から、こんな理想のリンクがあったらいいな、という思いがずっとありました。子どもの頃から、スケートリンクの環境がとてもいいとは言えず、一般滑走で練習するのに苦労したし、なかなか自由に貸し切りリンクを取ることができませんでした。


「MAO RINK」の建設予定地でポーズをとる浅田真央さん

 以前、アメリカに住んだ時には、車で15分走っただけでリンクがあって、そこは建物のなかに2つのリンクがあったりして、リンクの数がすごく多いんですね。日本には選手専用リンクが少ないですし、その時に一緒に練習していたコーチが『いつか、マオはスケートリンクを作ったらいい』と言ってくれた。自分ができることは何だろうと考えた時に、自分のリンクを実現したいという思いがどんどん強くなりました。

 あとは、(自分の人生において)常にチャレンジをしたいと思っています。MAO RINKが私の人生をかけた2回目の大きなチャレンジになると思うので、覚悟を持ってしっかりその道に進んでいきたいです」

 その完成予想図を示しながら、リンクにかける思いとスケートリンク内にできる自ら提案した施設の魅力を紹介した。施設は、国際規格のメインリンクとガラス張りのサブリンク、安心安全な食材で提供するこだわりのレストランやジム器具がそろうトレーニング施設、バレエやダンスを練習できるスタジオ、さらに浅田さんが着用したコスチュームや獲得してきたメダルなどを展示するギャラリーなどからなるという。

【厳しい日本のスケートリンク事情】

「選手や子どもたちから、『今日もスケートリンクに行きたい』と思ってもらえるようなリンクにできたらいいですね。そのなかで、自分のリンクから将来、世界で活躍できるようなスケーターを育てていきたいです。たくさんの方にとって、ここで笑顔あふれる思い出に残る場所になればいいですし、このリンクでいろんな経験をして学んだことが、子どもたちの人生の助けになって素敵な思い出になればいいなと思っています」(浅田さん)

 浅田さんは今後、このMAO RINKをベースに、スクールを開催して指導者として子どもたちと触れ合ったり、アカデミーとして選手育成に取り組んだり、さらに常設リンクでのアイスショー興行を行なうことを目指していくという。

 2021年8月現在で日本スケート連盟が把握している情報によると、全国8ブロックのなかで、フィギュアスケートが盛んな3ブロックのリンク数は、関東地方29カ所(うち通年リンクは8カ所)、中部地方25カ所(うち通年リンクは4カ所)、近畿地方14カ所(うち通年リンクは6カ所)となっている。それ以外のブロックでの通年リンクは、北海道3カ所、東北3カ所、中国2カ所、四国は0となっていて、3カ所だった九州には、今年4月1日に通年リンクが福岡市内にリニューアルオープンしている。

 21年1月には、東京都心の高田馬場で40年以上の長きにわたってスケート場として親しまれた「シチズンプラザ」が閉鎖され、東京23区内の通年リンクは「明治神宮外苑アイススケート場」の1カ所のみとなった。閉鎖されるリンクがある一方で、新設の通年リンクもオープンしている。2020年12月に「三井不動産アイスパーク船橋」が千葉県の南船橋駅近くにできた。さらに、2025年秋には東京辰巳国際水泳場が、都立初の通年アイスリンク施設に生まれ変わる予定だ。

 減少傾向にあるとはいえ、新しいリンクのオープンは、フィギュアスケート人気によるものだろう。だが、競技者人口を見ると、必ずしも人気に比例して増えているわけではないようだ。あるフィギュアスケート関係者は、「コロナ禍前まではアイスリンクの教室に通う子どもたちはキャンセル待ちの状態で、なかなか入会できなかったが、ここ1、2年はキャンセル待ちもなく、生徒さんは減っている」と言う。

 そんな状況のなかで、「見るスポーツ」としてだけではなく、「やるスポーツ」としても人気を確立していくためには、新しいモデルのスケートリンクとも言えるMAO RINKが誕生するのは大いに歓迎すべきことだろう。

「スケートと出会い、選手としてスケーターとして、フィギュアスケートの魅力や自分の挑戦を皆さんにお届けしてきました。指導者としては新たな挑戦になるので、こうして大きな挑戦ができることはとても幸せなことだと思っています。それだけではなく、このMAO RINKではたくさんのことに挑戦します。私ひとりではできることではありませんので、たくさんの方々のお力をお借りしながら、頑張って前に進んでいきたいと思っています」(浅田さん)

 フィギュアスケートとともに成長してきた自分を応援してくれた人たちに恩返しをしながら、新たな挑戦を始めると宣言した浅田さん。その笑顔に、日本のフィギュアスケートの明るい未来を感じずにはいられなかった。