「大阪ひだ」はなぜ残った? 新型HC85系でロングラン存続 「直通は便利」が再発見される
高山本線の特急「ひだ」が新型車両に置き換えられ、去就が注目されていた大阪発着の1往復も、新車投入のうえ存続しました。「大阪しなの」は廃止されましたが、「大阪ひだ」はなぜ残ることになったのでしょうか。
大阪〜高山4時間26分 ロングラン特急の使われ方
2023年3月のダイヤ改正で、高山本線を走るJR東海の特急「ひだ」は、全列車がキハ85系から新型ハイブリッド気動車HC85系に置き換えられます。そのうちの1往復、大阪駅に発着する「ひだ25号」「ひだ36号」(以下:「大阪ひだ」)も同様にHC85系が投入されることになりました。
この「大阪ひだ」1往復は、鉄道ファンの間で去就が注目されていました。というのも、東海道本線米原駅経由でJR西日本管内まで乗り入れるのですが、正直、あまり利用者がいなかったからです。
特急「ひだ」に投入される新型HC85系。「大阪ひだ」もこの新車になる(森口誠之撮影)。
関西在住の筆者は、この「大阪ひだ」を朝夕の通勤電車でよく見かけました。キハ85のエンジン音が好きなこともあり、年に数回は利用もしました。東京出張するとき、必要もないのに米原駅や岐阜駅まで25号を利用し、新幹線に乗り継いだものです。
車内を散歩すると、利用者のメインが高山・下呂など飛騨地方への個人観光客だということがわかります。3両編成のうち2両は指定席ですが、観光シーズンは乗車率が50%を超えることもあります。25号の大阪〜高山間は所要4時間26分で、東海道新幹線を利用し名古屋発の「ひだ」で向かう場合より20分ほど余計にかかりますが、直通列車の便利さは実感します。
特に利用が多いのは冬期で、4両編成に増結されているのを見かけます。11月下旬以降、飛騨地方は雪国に様変わりし、ノーマルタイヤのクルマで移動するのは難しい。あえて鉄道利用を選ぶのでしょう。
意外な利用は、大阪・京都駅から岐阜・大垣駅まで使うビジネス客です。コロナ前だと1列車に10〜20人は出張者を見かけました。東海道新幹線の岐阜羽島駅が市街地からかなり離れていて使いづらいためか、1日1往復の「大阪ひだ」がうまく活用されているようです。
ただ、この30年間、利用が徐々に減少していたのも事実です。
長野行き「大阪しなの」は廃止 それでも残った「大阪ひだ」
国鉄時代は急行「たかやま」として大阪駅と高山・飛騨古川駅を結んでおり、分割民営化後もJR西日本が引き継ぎました。夏や年末年始の最ピーク時に、キハ58が10両編成で走っているのを見かけたことがあります。
1999年にキハ85が投入されたとき、特急「ひだ」に格上げされました。ただ、翌2000年に東海北陸道が飛騨清見ICまで延伸して高山への自動車アクセスが劇的に改善されると、「大阪ひだ」の利用は落ち込んでいきました。閑散期の平日だと3両で乗客は20〜30人程度、もっと少ない日も見かけました。
京都駅0番線に停車する大阪発の「しなの」。2016年に大阪〜名古屋間の運転は廃止された(森口誠之撮影)。
2016年には通称「大阪しなの」が廃止されます。中央本線名古屋〜長野間の特急「しなの」にも大阪発着が1往復ありましたが、名古屋以西の利用は本当に少なかった。JR東海としても、東海道新幹線と並行していることもあり、大阪駅までJR西日本との乗り入れを継続する動機には欠けていました。
個人的には「『大阪ひだ』も危ないかな……」と気になり始めました。
「大阪ひだ」息を吹き返したワケ
しかし、2015年頃から、「大阪ひだ」の利用が増えてきました。インバウンド効果が出てきたのです。
海外から日本にくる個人旅行者は全国のJRが乗り放題の「ジャパン・レール・パス」をよく使用するのですが、人気観光地である京都と高山を結ぶ1日1往復の直通特急が、移動手段として重宝されるようになったのです。
高山市は2012年に海外旅行者の開拓のための専門部署を設けたこともあり、4年後に宿泊客数は3倍に拡大。地方都市随一のインバウンド観光地へと変貌しました。高山駅から濃飛バスで50分の白川郷も合掌造り集落に魅せられた海外の方がたくさん集まります。その影響で「ひだ」の乗客の2〜3割は外国人が占めるようになったそうです。駅みどりの窓口や隣のバスターミナルにも長蛇の列ができるようになりました。
コロナ禍前は「大阪ひだ」でも、外国人観光客が20人、30人と乗っている姿を見かけるようになりました。京都〜高山〜白川郷〜金沢、あるいは高山から上高地経由で長野……と続く観光周遊ルートの一つに組み込まれたのです。高山直通列車の存在意義が再評価されました。
今回、「大阪ひだ」が新車投入で存続したのも、将来を見据えての判断でしょう。
冬の高山駅のキハ85。東海北陸道が開通して鉄道利用は減少したが、路面が凍結する冬期は利用が増える(森口誠之撮影)。
筆者は2月の平日、「大阪ひだ」に乗って下呂まで日帰りで往復してきました。指定席の乗車率は8割、自由席は3割くらい。所定の3両編成で増結はありませんでしたが、1、2年前と比べると利用はかなり回復していました。外国人観光客も3組見かけました。
「ひだ」の2022年度お盆の輸送量は2018年度比で103%、年末年始も同81%まで回復しています。関西空港の2023年1月期の国際線旅客外国人旅客数は136万人、2019年比53%まで復調しています。「大阪ひだ」のさらなる活躍を期待したいものです。