ここ数年、日本近海で、中国やロシアのフリゲート艦が姿を現すニュースをたびたび耳にします。ただ、ほかの艦種と異なり、これだけカタカナ表記で、なぜか日本語訳がありません。どんな艦種なのか含めひも解きます。

なぜフリゲートだけ日本語訳が存在しない?

 ロシア海軍は2023年1月、最新鋭艦アドミラル・ゴルシコフ級フリゲートに対し、核弾頭を搭載可能な最高速度マッハ9の極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」の本格供給を始めたと発表しました。


日本以外ではフリゲート扱いのもがみ型護衛艦(画像:海上自衛隊)。

 この発表に関しては、国内向けの士気高揚や欧米に向けたけん制など様々な憶測があがっていますが、このミサイルを発射するという「フリゲート」という艦種、軍事に詳しくないとなかなかイメージしにくいものです。空母や駆逐艦、潜水艦などとどう違うのか、その出自や概要について見てみましょう。

 日本では、Aircraft Carrier(空母)、Cruiser(巡洋艦)、Destroyer(駆逐艦)、Submarine(潜水艦)というように、軍艦の英語名を日本語訳した言葉が使われています。しかしFrigateはフリゲートのままです。この理由ついて詳細は不明ですが、日本が明確に艦船種別を明記し始めたのは、明治時代にさかのぼります。

 旧日本海軍が1898年3月21日に定めた「海軍軍艦及水雷艇類別標準」で初めて軍艦の種類が区分けされるようになりましたが、そのときフリゲートという種類の艦は消滅しており、世界の主要海軍にはない状態でした。だからこそ、日本語に訳されなかったのではないかとも言われています。

 なお、1945年に日本の敗戦で第2次世界大戦が終結し、旧海軍が解体されたことで、前出の分類方法は消滅します。その後に創設された海上自衛隊では、水上艦艇を基本的に護衛艦と呼ぶようになっているため、そのまま日本語訳がないまま現在に至っているというわけです。

一時期は消滅した艦の種類だった!

 では、改めてフリゲートとはどんな船なのかひも解くと、元々は帆船時代の艦種で、戦列艦に次ぐ大きさの船であり、戦場では偵察・通報、船団護衛、沿岸警備など多用途で用いたそうです。ただ、19世紀後半に装甲艦が登場すると、フリゲートは巡洋艦へと発展し、以降しばらくこの名は使われなくなりました。


帆船のフリゲート アルゼンチン海軍の「リベルタ」(画像:アルゼンチン海軍)。

 ちなみに、イギリス海軍では、商船を拿捕するのもフリゲートの仕事だったそうで、奪った金品は乗組員にも分配されたため、同艦種での勤務は将兵の人気が高かったと言われています。

 その後、第2次世界大戦中にイギリスが、駆逐艦よりも小さいものの対潜能力を持ち、量産性に優れたリバー級という小型艦を開発し、これをフリゲートと呼称します。戦後、イギリス海軍はリバー級の運用実績に基づき、駆逐艦より小型で速力24〜32ノット(約44.45〜59.26km/h)を発揮、航洋性に富む艦をフリゲートの艦種名で統一したことで、ほかの国も以後、似たような軍艦を作った際は準拠して、おおむねフリゲートと呼ぶようになりました。

 ここで、なぜ「おおむね」と注釈を付けたのかというと、アメリカ海軍では当初フリゲートの解釈が違っており、駆逐艦より大型で対潜・対空戦闘能力が高く、指揮・通信機能を強化した艦を、独自にフリゲートと呼ぶようになっていたからです。その後、アメリカ海軍のフリゲートは大型化していき、巡洋艦並みになったため、1975年に基準排水量5670トン以上の艦を巡洋艦に、それ以下のものを駆逐艦に艦種変更し、アメリカ海軍解釈のフリゲートは消滅しました。

 ただ、大戦中に作られたリバー級が満載排水量1900〜2180トンだったのに対し、戦後はフリゲートのサイズが段々と大きくなっていき。基準排出量5800〜6800トンの艦もフリゲートと呼ぶようになったため、いまではさらにややこしくなっています。そもそも駆逐艦も大型化しており、駆逐艦と巡洋艦の境界も曖昧になってきています。そのため、国や用途によって大きさもまちまちです。

海自「もがみ型護衛艦」もフリゲートの一種

 2000年代後半以降、世界各国ではそれまで補助的な艦船として位置づけられていたフリゲートを、多様な任務に従事する軍艦へと発展させ、積極的に建造するようになっています。たとえば、前述したロシア海軍のアドミラル・ゴルシコフ級は、多数のミサイルを搭載した重武装が特徴です。ほかにも、ノルウェー海軍フリチョフ・ナンセン級は、簡易的なイージスシステムを搭載する艦となっており、同国艦隊の防空の要を務めるほどです。


進水直前の26型フリゲートの一番艦「グラスゴー」(画像:BAEシステムズ)。

 2019年末に公開された日本財団の調査によると、その年に世界で新規受注されたフリゲートは26隻にのぼりました、なお、同時期の駆逐艦の新規受注は2隻のみなので、ここ数年、世界の艦艇トレンドはフリゲートだといっても過言ではないかもしれません。ちなみに、2022年より海上自衛が運用しているもがみ型護衛艦に関しては、海外の分類上だとフリゲートになります。

 2022年8月には、アメリカ海軍がイタリア製フリゲートのカルロ・ベルガミーニ級をベースに久しぶりにフリゲートを建造すると発表し世界の海軍関係者の注目を集めました。イギリスに目を転じると2023年3現在、新型の大型フリゲートである26型フリゲートの一番艦「グラスゴー」が進水を終え、就役に向けて艤装中です。

 フランスやドイツなど他の国でもフリゲートという艦種は増えているため、日本のもがみ型護衛艦含め、近い将来フリゲートは軍艦のなかで今まで以上にメジャーな存在へと昇華しているかもしれません。