人口の約14%が該当すると言われる、IQ70〜84くらいの人を指す「境界知能」や、それ以外に何らかの問題を抱える「グレーゾーン」。近年までその存在はあまり知られておらず、公的な支援などが受けづらい状態にありました。そこで、最新作『普通にできない子を医療で助ける マンガでわかる境界知能とグレーゾーンの子どもたち5』(扶桑社刊)を上梓した、シリーズ累計150万部超の大ベストセラー『ケーキの切れない非行少年たち』の著者である精神科医・宮口幸治先生に、境界知能とグレーゾーンの子どもたちについてお話を伺いました。

「境界知能」とグレーゾーンの子どもたちはなぜ支援されないのか?

現代の教育現場で、ついつい見過ごされがちなのが、「境界知能」とグレーゾーンの子どもの存在です。そもそも境界知能とグレーゾーンとは、どんなものなのでしょうか。

長年にわたって子どもたちの心をみてきた精神科医の宮口幸治先生は、こう語ります。

「一般的に、知的障害はIQが69以下の人を指しますが、境界知能はIQ70〜84くらいの人を意味し、人口の約14%いるといわれています。1クラス35名ならば約5名はいる計算になりますね。知的障害までいかないけれども一定の支援が必要な人も多いです。一方のグレーゾーンも、発達障害などはっきりとした診断はつきにくいけれども、実生活に何かしらの困難さ抱えている状態と言えるでしょう」

共通しているのは境界知能とグレーゾーンの子どもたちが抱える生きにくさは、なかなか気づかれず支援されづらいという点です。

「知的障害や発達障害などと診断されると例えば学校では特別支援の対象になりますが、境界知能の子どもたちは、ほとんど気づかれず、支援対象外となってしまうことも少なくありません。境界知能の子どもたちは、知的障害とは認識されないことが多々あり、一方で、勉強などで遅れを取ることも多いので、周囲からは『やる気がない』『さぼっている』という誤解を受けがちです」

勉強だけでなく、運動やコミュニケーションが苦手なケースも多いです。大人になってからは、経済面や就労面などさまざまな領域で本来は支援を必要とするのに気づかれない…というケースもよくあるそうです。

●子どもたちの生きにくさを心理検査で気づく

では、境界知能やグレーゾーンの子どもたちが抱えている生きにくさを、どうしたら見つけることができるのでしょうか。じつは、比較的簡易な心理検査から、その状態を大まかに判別することが可能なのだとか。

「たとえば、『ひし形とバツ、三角、丸の図形を書いてみて』という模写課題があるのですが、もし子どもが年齢相応にうまく図形を書けなかった場合は視覚的な認知機能に何かしらの課題があるとも考えられます。仮に視力が正常でも、視覚認知に弱さがあると、正確に形や文字を認識できないこともあります。その場合、ひらがなや漢字などの文字が覚えにくかったり、図形への理解が苦手だったりするため、勉強にも支障が出ることがあります」

大切なのは、何かおかしいなと思ったらその違和感をそのままにしないこと。

「発達に課題がある子や虐待を受け心に傷を負った子、不登校の子、自傷を繰り返す子、摂食障害のある子の中にも、境界知能やグレーゾーンの子どもたちが隠れているかもしれません。各種の心理検査を通じて、その子の発達段階がどうなのかを教員や親が知り、『どんな部分で子どもがつまずいているのか』『どうしたらその状態をサポートできるのか』をきちんと把握することが大切です」

●気づかれないままだと不適切な行動につながる可能性も

その問題を本人や周囲も認識しないままだと、『何をやってもうまくいかない』と自己効力感も下がってしまいます。境界知能やグレーゾーンであることが周囲に気づかれなかったゆえ、不適切な行動につながってしまったケースも見てきました。

「極端な例ですが、たとえば周囲の人がみんなノーベル賞受賞者という環境に自分が置かれたら、みなさん劣等感に苛まれるのではないでしょうか。それと同じように、健常者の中でなんの配慮もない環境に置かれたら、境界知能やグレーゾーンの人々も劣等感が高まるかもしれません。そんななか、悪友と一緒に行動することで安心感や自己効力感が得られるとすると、最悪の場合、非行や問題行動に走ってしまうこともあります」

大切なのは、保護者や学校の教員らが彼らの生きにくさに気づき、たとえば教育や医療などの相談機関とつながったりして、背景を理解される機会を得ること。具体的な支援や治療を受けることで、環境は大きく変わる可能性もあります。

もし自分の子どもはもちろん、身近な誰かに違和感を抱いた場合、本人のやる気や性格だと片づけるのは早計かもしれません。彼らの生きにくさを軽減してあげるため、一度専門機関に相談することを考えてみてはいかがでしょうか。

宮口先生の最新刊『普通にできない子を医療で助ける マンガでわかる境界知能とグレーゾーンの子どもたち5』(扶桑社刊)では、不登校、引きこもり、自傷…など「普通にできない子」のケースや、現実的な対処法などを漫画をまじえて紹介しています。ぜひご一読ください。