不貞がバレたあと、夫は位置情報を妻と共有し…。そのあと夫婦に訪れた、驚きの「ある変化」
人生のステージが変わるたび、女の友情はカタチを変える。
そしてドラマの舞台も…。夜の港区から、昼の港区に変わるのだ。
20代は深夜の西麻布で、30代は昼の麻布で。女たちは時に嫉妬し、時に優越感に浸る。
これは大人になった女たちが港区で繰り広げる、デイゲーム。
◆これまでのあらすじ
リリカの結婚式で再会した、サトミ・優子・菜々緒の3人。優子の夫・平蔵がリリカと浮気していたことが判明し、3人で協力して解決した。その1年後…。
女の友情と夫婦のカタチ
「サトミ！その作業のキリのいいところでランチ行かない？会わせたい人がいるの」
渋谷にあるシェアオフィス。ここで私は、菜々緒と一緒にWEBデザイン会社の役員として働いている。
「うん、あと5分待って」
そう答えて、私は再びPCに向き合う。
菜々緒が立ち上げた会社は、先月で1周年を迎えた。
スタッフは菜々緒の後輩でエンジニアをしている24歳の男の子と、求人で採用した29歳のデザイナーの女の子を入れて4人。
かなり小規模ではあるが、なんとか毎月黒字で、最近は新規顧客も獲得できている。
私は仕事に本気で取り組みたかったため、2歳の息子を保育園に入れた。
最初は離れるのが寂しかったが、私も息子も今の生活にようやく慣れてきたところだ。
― あとは、菜々緒にも幸せになってほしい…。
そう思っていた矢先の出来事だった。
【登場人物】7年ぶりに再会した32歳女たち
菜々緒と向かった店に入ると、席には若手俳優のような爽やかな男性が座っていた。
「どうも、初めまして。南野と申します。菜々緒ちゃんから話は伺ってます！」
私は、状況をすぐには飲み込めないでいた。
「ちょっと。そんなに仰々しく挨拶しなくていいって。恥ずかしいでしょ」
菜々緒が顔を赤らめて言った。
「……もしかして、彼氏？」
「うん」
「そうなの？報告してくれるってことは…？菜々緒、おめでとう〜！」
私は、菜々緒の肩をバンバンと叩いて喜んだ。
「はい。近々、プロポーズしようと思っていて」
「え？そうなの？」
「あっ。ヤベッ！！」
そんなやり取りを見て、私は笑みがこぼれた。
南野は私たちより4歳下。菜々緒がいた会社の元同僚で、菜々緒が退社してから距離が縮まったそうだ。
私たちは3人仲良く本日のオススメを注文し、いろんな話をした。
「もう〜！結婚するかもしれない彼氏なら、もっと早く教えてよ」
ランチを終え南野と別れてオフィスに帰る途中、私は菜々緒に言った。
「だって、久しぶりにできた彼氏だったし、今まで恋愛がうまくいかなかったのもあって。なんとなく…」
仕事に不満があった時は、自分のことが好きになれなかったと菜々緒は言う。
仕事が楽しくないとプライベートも充実しない。それが、自らの魅力を削いでいた気がすると。
確かに、今の菜々緒は毎日が楽しそうでキラキラしているし、さらに美人度が増した気がする。
「よくある言葉だけどさ…」
そう、前置きしてから菜々緒は言った。
「自分を愛せないと、他人も愛せないんだよね」
― 自分を愛せないと…か。
私も、もしかしたら以前は自分のことが好きじゃなかったかもしれない。
SNSから得られる承認欲求だけで自分を無理やり満たし、本当の友達はほぼいなかった。
表面上は仲が良さそうな私たち夫婦も、メッキを剥がせば産後レス。
でも私にも非があった。
育児ストレスから、夫の顔を見れば文句しか出てこない。そんな自分を、誰が愛してくれるというのだろう。
「あ。サトミ！グループLINE見て」
渋谷のオフィスに到着し、エレベーターのボタンを押しながら菜々緒が言った。
『優子：土曜の昼会えない？』
優子からだった。菜々緒の顔を見ると笑顔でOKサインを出している。
それを見て、私は優子にすぐ返信をした。
「はい、これ。宮古島のお土産。悩みに悩んで結局ちんすこうで申し訳ないけど」
優子が指定してきた、月島の『海鮮もんじゃ もへじ』で、彼女は私たちにお菓子の箱を差し出した。
「ありがとう！」
「旅行いいなぁ〜。泡盛たくさん飲んだ？」
私が言うと、優子は首を横に振った。
「実は……妊娠したの」
私と菜々緒は、すぐにお祝いの言葉が言えず、一瞬黙ってしまった。
「あんなことがあった後に、よく子作りなんてできるね。って、思われてもしょうがないと思ってる」
「ちがうの！前に、優子に冗談言われたことがあったから、ね」
「うん、早とちりはやめようと思って」
私と菜々緒が言うと、優子は「そうだよね」と笑った。
そして、穏やかな表情でお腹を撫でた。その様子に、私は心から安堵した。
もんじゃ焼きも、妊娠してからなぜか食べたくて仕方がないものの1つなのだそうだ。
優子は去年、夫の浮気のせいで夫婦仲に亀裂が入ったのに今はこんなに幸せそうだ。
私たちは改めて、お祝いの言葉をかける。
あのあと、平蔵は猛省し、今ではすっかり子煩悩パパで、会社の飲み会にも一切行かなくなったらしい。
しかも、優子とは位置情報を共有していて、スマホにパスワードも設定していないという。
「へ〜すごいね。私の彼もそうしてほしい」
「えっ！！？菜々緒、彼氏できたの？」
彼氏とのなれそめを菜々緒が優子に話しているのを聞きながら、私はボンヤリと外の景色を眺めた。
ほんの数年前には、想像もしていなかった。こんなふうに昼間から女友達と笑い合える日が来るなんて。
結婚したら…子どもを産んだら…もう、以前のようには遊べないと思っていた。
仕事だって、諦めなくちゃいけないのだと思っていた。
けれど、ふたりに会って私の世界は変わった。
独身時代と同じように港区で過ごしているが、夜から昼へと活動時間が変わり、それが居心地よく感じている。
「…ありがとね」
私は、菜々緒と優子に聞こえないぐらい小さな声でつぶやいた。
◆
「ただいま〜」
私は、駆け寄ってくる息子に「待っててね」と言いながら手を洗ってうがいをし、アクセサリーを外す。
部屋着になってから、夫がいるリビングに行くと、綺麗に片付けられたテーブルの上に花束が置いてあった。
スモーキーなピンクのバラだけのブーケ。私の好みをわかって買ったのだと一目でわかる。
― 今日って、何の日だっけ？
そう考えながらテーブルの上を数秒見つめていると、夫が私に声をかけた。
「何でもない日に花を贈ったっていいだろう？サトミ最近すごく頑張ってるからさ」
「え！そうなの…？ありがとう」
「うん」
「花器、どこだっけなぁ」
私は棚からお気に入りの花器を取り出し、バラを水切りしたが、内心はとても嬉しかった。
― 私の夫って、こんなことしてくれる人だったっけ…。
結婚してから初めてのサプライズプレゼントに、私は照れてしまい、可愛いリアクションもできなかった。
◆
その日の夜、息子を寝かしつけながら私は思った。
今思えば、夫は私が仕事を始めることに、文句ひとつ言わず賛成してくれた。
今日みたいに息子を預けて出掛ける日も、嫌な顔をせず全力で遊んでくれている。
子どもができても男は何も変わらない。それがずるいと、ずっと思っていた。
でも、子どもを妊娠して出産するという貴重な体験ができるのは女だけだし、専業主婦になると言ったのも私だ。
夫は仕事をこなしながら、父親になろうと彼なりに努力してくれていたことに私は気づけなかった。
外で働くようになって、やっと夫の気持ちも理解できるようになった。
どちらかが大変だと決めつけず、お互いを労っていたら…もしかしたら産後レスも回避できたのかもしれない。
― ごめん…。
息子がすやすやと寝息を立てているのを聞きながら、心の中でそうつぶやいたら涙が頬を伝った。
泣いていたことが悟られぬよう、涙を拭ってからリビングに戻ると、夫がソファから言う。
「サトミ、ちょっとこっち来たら？」
不器用ながらも、今後のふたりの関係を良くしたいという夫の気持ちが見えた気がした。
少しずつでもいい。
この先何十年と一緒に過ごす人と、お互いを思い合って生きていきたい。
そう思いながら彼の横に座り、その肩に頭を預けた。
Fin.
▶前回：夫の浮気相手と直接対決。女に徹底的なダメージを与えた、妻の予想外の一言とは？
▶1話目はこちら：夜遊び仲間の“悪友”に7年ぶりに再会。環境が変わっても女の友情は成立する？
