越境ECで日本が勝つためには?写真は2020年の独身の日の様子(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの影響で「越境EC」市場が拡大している。日本の越境ECの2大主要国はアメリカと中国とされるが、経済産業省によると2021年の中国人消費者向け越境ECの販売額は2兆1382億円と前年から9.7%増えた。

中国最大のEC企業で、中国国内で最大級の「独身の日セール」でも名を知られる、アリババグループによると、足元の円安傾向で日本の商品の海外での価格競争力が高まっており、中国の消費者にとっても購入しやすい環境になっている(独身の日の幹部インタビューはこちらから:幹部直撃!アリババ「独身の日」取引額非公表の訳)。

中国経済は高度成長期から成熟期に入りつつあるが、同グループの責任者は、「中国人消費者の好みの多様化や細分化は、日本企業にとってプラス」と語るとともに、日本企業の弱点も指摘した。

ECサイトのコンテンツ化進む


全球探物のサイト(写真:筆者提供)

アリババの越境ECサイトはコンテンツ化が進む。同社の越境ECプラットフォーム「Tモールグローバル(天猫国際)」上のアイコン「全球探物」をクリックすると、ファッション誌の巻頭特集のような画面が表示され、ページをめくるごとに「お勧め商品」が現れる。

「アウトドア特集」ではヨネックスのバドミントンラケット、「お酒特集」ではサントリーの白州、響が紹介されている。

Tモールグローバルのゼネラル・マネージャー董臻貞(ドン・ジェンジェン)氏は、「コロナ禍で中国人が海外旅行に行きづらくなった環境を踏まえ、売れ筋だけでなく、海外の新しいものをリアルタイムで消費者に届けることに注力しています。全球探物は雑誌のように商品のストーリーも紹介し、購入を後押しします」と語った。

全球探物がECプラットフォーム内の「雑誌」なら、「テレビショッピング」に相当するのがライブコマースだ。Tモールグローバルは独身の日セール期間中の11月4日に世界各地とつなぎ24時間ライブ配信を実施、のべ1000万人が視聴したという。

日本からは東京・銀座の中古ブランド販売店「ブランドオフ」と結び、ブランド品を紹介した。日本で流通している中古ブランドは商品の状態の良さに定評があるだけでなく、鑑定や流通の仕組みへの信頼性が高い。状態を詳細に伝え、質問に即時対応できるライブ配信を活用することは、商品を手に取れない消費者の購入を強く後押しする。

董氏と、アリババグループのBtoC事業を統括する劉鵬氏によると、直接商品を確認できない中国人消費者に海外の商品を販売するには、オンラインで買い物の楽しさを体感してもらい、双方向の交流を促すコンテンツ化が必須であるという。また物流の整備にもコロナ禍以降最も力を入れているという。


Tモールグローバルのゼネラル・マネージャー董臻貞(ドン・ジェンジェン)氏(撮影:尾形文繁)

日本企業の強み発揮できる「質的消費」

新型コロナウイルスの感染拡大と、厳格な行動制限を課すゼロコロナ政策、世界的なインフレなどを背景に中国経済は減速している。

しかし、劉氏は、「中国人が買い物をしなくなったのではなく、欲しいものや買う動機が変わったのであり、日本企業にとってはチャンスが広がっています」と話す。

「たとえば最近だと、所得が低い消費者は感染対策グッズの購入額が上がっていますが、中間層や富裕層は環境に優しい商品、ヘルスケア商品といった質的消費に向かっています。世代別にみると、トレンドの発信源であるZ世代の間ではスポーツ・アウトドア用品の需要が急拡大し、サーフスケート、サイクリング、釣りグッズ、バイク用品の売り上げが伸びています」(劉氏)

アリババジャパンによると、中国では新興ジャンルであっても、日本ですでに成熟している業界は日本企業の強みが発揮しやすく、スポーツ・アウトドア分野では「ダイワ」の釣り具や「アライヘルメット」のヘルメットの人気が高いという。

足元では円安も追い風になっている。越境ECを支援するBEENOSグループが今年7月に越境ECを利用する外国人消費者約1900人を対象に実施した調査によると、「円安によって、日本の越境ECで購入する頻度や1回あたりの使用金額のどちらか、あるいは両方が増えた」と回答した人が63%に上った。

同調査の対象に中国人消費者は含まれていないが、アリババジャパンは、「円安とラグジュアリーブランドの値上げの影響で、中古ブランド品へのニーズが高まっており、日本で中古ブランドの買い取り・販売を展開するRECLOが今年の独身の日セールのTモールグローバルのファッションカテゴリーで売り上げ4位に入るなど、躍進している日本企業は少なくない」という。

SNS、デジタルへの取り組みが課題

一方で、日本企業にある程度共通する「弱点」もある。それは「商品のコンテンツ化」だ。董氏は「Tモールグローバルでも日本ブランドの幅広さ、売り上げの伸びはいちばんで、商品力でみると日本製品は最も需要が高い。ただ、ほかの国と比べて弱いのが、商品の良いところを紹介する力です」と指摘した。

劉氏も「日本の企業が成功したのは『良い商品』『良いサービス』をつくれたから。コロナ禍前は中国人が日本旅行でそれを体感し、買って、発信していたのでいい商品をつくっていれば良かったですが、日本に来ることができない今は日本企業がSNSなどで自分たちの良さを発信しなければなりません」と語る。

BEENOSグループの調査でも、日本の商品を購入する際の情報源をSNSから得ていると回答した外国人が多く、「特にZ世代は新しいもの、自分らしい消費を好み、情報収集・拡散手段としてSNSを使い、精神面の充足やストーリーへの共感が購入動機になります。日本にはZ世代に刺さりやすいウィスキー、バイク用品、美容機器、アニメ関連製品、ポップアートと豊富な商品があるので、デジタルマーケティングに力を入れてストーリーを伝えてほしい」(董氏)。

日本は水際対策を緩和し、外国人旅行者の姿も目立ち始めた。中国は今もゼロコロナ政策を続けており、だからこそ越境ECが拡大しているわけだが、劉氏は「それもいつかは終わります。商品のストーリーや品質を丁寧に伝えることは、中国人消費者が将来日本に行くときの導線づくりにもなります。中国人消費者を理解する『窓』として越境ECを活用してほしい」と話した。

(浦上 早苗 : 経済ジャーナリスト)