「巡航ミサイル」とひと口に言いますが、そのなかでも「トマホーク」はいくつか格上のものでしよう。これを日本が導入することを検討しています。そこには、単なる装備の導入以上の意味合いを見て取ることができます。

「トマホーク」導入にざわめく報道とSNS

 2022年10月末、日本政府が巡航ミサイル「トマホーク」の導入を検討していることが相次いで報道されました。いわく、2020年代後半に予定されている「12式地対艦誘導弾能力向上型」の配備開始が行われるまでの間を埋めるものとして、とのことです。

 この報道に対し、SNS上では大きな反響が見られました。簡単に言うと、「トマホーク」は現状、世界各国が保持している巡航ミサイル類のなかでもかなり格上のもので、これを配備することには大きな意義がともなうからです。


2019年5月、米海軍ミサイル駆逐艦「カーティス・ウィルバー」にて、演習中の「トマホーク」実弾射撃デモ(画像:アメリカ海軍)。

 そもそも「トマホーク」とは、1970年代にアメリカで開発が始まり、1980年代から配備が開始された巡航ミサイルです。「巡航ミサイル」とは、内蔵する小型のジェットエンジンによって飛行するミサイルのことで、よく北朝鮮が発射している弾道ミサイルとは異なり、低高度を比較的自由に飛行することが可能という特徴があります。そして数ある巡航ミサイルのなかでも、現在アメリカとイギリスのみが運用している「トマホーク」は、非常に高い知名度を誇っています。

射程1600km超をピンポイント攻撃可能な巡航ミサイル

「トマホーク」の射程は1600km超と非常に長大で、直線距離でいえば、たとえば東京からウラジオストクがおよそ1000km超、中国の大連が1600km超、同じく上海が1700km超であることを鑑みると、その射程に収める範囲の広さをイメージできるでしょうか。

 これまで、1991(平成3)年の湾岸戦争や2003(平成15)年のイラク戦争、さらに最近では2017(平成29)年および2018年のアメリカ軍(2018年は米英仏による共同軍事作戦)によるシリア空軍基地に対する攻撃など、実戦にも数多く投入されています。

 また、誘導方式も特徴的で、慣性航法装置やGPS誘導装置に加え、飛翔予定地域の等高線地図情報(デジタルマップ)とレーダー高度計で計測された数値とを照合する「地形等高線照合装置(TERCOM)」、さらにあらかじめインプットされている目標周辺の画像情報と、ミサイルの光学センサーがとらえた実際の風景とを照合して目標を狙う「デジタル風景照合装置(DSMAC)」を備えています。


飛翔する「トマホーク」ブロック4(画像:United States Navy、Public domain、via Wikimedia Commons)。

 これらにより、「トマホーク」は非常に高い精度のピンポイント攻撃を実施することが可能となっています。さらに、「トマホーク」の現行バージョンである「ブロック4(タクティカル・トマホーク)」では、データリンクにより飛行中に目標を変更したり、あるいは飛行ルートを即座に変更したりすることを可能にしたほか、位置が判明している目標に対してはGPS誘導による攻撃も可能となりました。加えて、目標上空を旋回することで、搭載する光学センサーが捉えた画像をデータリンクで司令部などに送信し、目標に与えた損害の程度を確認することもできます。

 そして、2021年にアメリカ海軍への納入が行われたばかりの最新バージョンである「ブロック5」では、航法装置やデータリンクが強化されているほか、その発展型である「ブロック5a」では、洋上の移動目標を攻撃するためのセンサーが追加され、艦艇などへの攻撃にも対応できるようになります。

 こうして簡単に特徴を並べただけでも、いかに「トマホーク」が一線級の装備であるかが見て取れるでしょう。

「トマホーク」導入が持つ重大な意味とは

 日本が導入を検討している「トマホーク」のバージョンなどは、2022年11月上旬の現時点では不明ですが、いずれにせよ「トマホークを導入すること」の意味するところのものは非常に重大です。

 まず、トマホークの射程は約1600km超と、これまで自衛隊が保有してきたいかなる装備よりも圧倒的に長い射程を有しています。たとえば、現在自衛隊が保有している中で最長の射程距離を誇る「12式地対艦誘導弾」でさえ射程は約200km程度と見られており、冒頭で触れた射程延伸型であっても、その開発において目標とする射程は約1500km程度と報じられています。

 こうした射程の長い装備を運用するためには、敵の位置情報などを把握するための高度な情報収集能力が求められ、「トマホーク」の場合さらに、前述した特殊な誘導方式を用いるため、衛星がとらえた地理的な情報などを収集しておく必要があります。


米海軍ミサイル駆逐艦「アーレイ・バーク」から発射される「トマホーク」(画像:アメリカ海軍)。

 しかしそうした情報の収集は、日本単独で実行するのは非常に難しく、アメリカの協力が必要不可欠となります。また、たとえば日本が「トマホーク」を用いて中国にある軍事施設を攻撃する場合、その実施は日本単独ではなく、日米+αという形で、複数の国々との協調が前提になると考えられます。そのため、「どの国が、どの目標を、いつ、どうやって攻撃する」という点を各国と調整する必要があり、従って日本はこれまで以上にアメリカを含めた各国との密接な連携が必要となってくるのです。

 もうひとつの重要な意味として、こうした敵基地に対する攻撃を念頭に置いて「トマホーク」のような長射程の装備を急いで導入するということは、それだけ日本政府が台湾有事や朝鮮半島有事の発生する危険性を強く警戒していることのあらわれであるともいえるであろうことが挙げられます。

 このように「日本が『トマホーク』を導入すること」には、非常に大きな意味が含まれているのです。

最大の問題は「何のために使うのか」

 ところで、「トマホーク」であれ、あるいは12式地対艦誘導弾能力向上型であれ、長射程巡航ミサイルを保有することに関しては、「それを何のために使うのか」という点が最大の問題となります。


2020年11月、米海軍ミサイル駆逐艦「チェイフィー」にて、「トマホーク」ブロック5の発射実験が実施された(画像:アメリカ海軍)。

 たとえば、中国が日本に対して軍事攻撃を仕掛けてきた場合を想定すると、単に「撃たれたので撃ち返す」という理屈ではなく、「どのようにして中国側の目的達成をくじくか」ということを念頭に置き、その上で「敵の航空基地や港湾施設を巡航ミサイルで攻撃することにより一時的にその機能を喪失させ、その隙に自衛隊や米軍の航空機や艦船を活動させる」といったような、「日本側の目的(=勝利)を達成するための手段としていかに巡航ミサイルを用いるべきか」という視点が必要になると、筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。

 つまり、本来どのような装備を導入するべきかについては、「こういう場合にはこういう勝ち方を目指す。そのためにこれが必要」という形で、まず目標を設定して、次に必要な装備を選ぶというのが、適切なプロセスだろうということです。

 昨今話題の巡航ミサイルを含めた敵基地反撃能力に関しても、日本がどのような勝ち方を目指しているのかが注目されます。