フランスが計画している新たな原子力空母の新CGが公開。2年前と比べて、甲板に並ぶ戦闘機の描写が、大きく変わっています。ここに、隣国ドイツへの強い不信感を見てとることができそうです。

描かれた艦載機の種類と数がだいぶ変更

 2022年10月19日、フランスの造船企業であるナバル・グループが、フランス海軍の次期原子力空母「PANG」(Porte-Avions Nouvelle Generation)のイメージCGを公開しました。


フランスの次期原子力空母「PANG」、2022年10月のイメージCG。垂直尾翼の大きな戦闘機がラファールM(画像:ナバル・グループ)。

 フランス政府は2020年12月に、現在同国海軍が運用している原子力空母「シャルル・ド・ゴール」の後継艦として「PANG」の建造を決定。フランス軍事省は「PANG」のイメージCGを発表しています。

 2020年12月にフランス軍事省が発表したイメージCGで描かれていた「PANG」と、今回ナバル・グループが公開したイメージCGに描かれている「PANG」には、艦橋上部のアンテナマストの形状程度しか外観上の違いはありませんが、飛行甲板に置かれている艦載戦闘機の構成が大きく異なっています。

 以前のCGの飛行甲板には、現在フランス、ドイツ、スペインの三か国がダッソー・ラファールとユーロファイターの後継機として開発計画を進めている次世代戦闘機「FCAS」(フランスでの呼称はSCAF)の艦載機型が並んでいました。

 しかし今回ナバル・グループが発表したCGに描かれている「PANG」の飛行甲板には、FCASの艦載機型とともに、現在フランス海軍が「シャルル・ド・ゴール」の艦載戦闘機として運用しているラファールの艦載機型「ラファールM」も並んでおり、FCASとラファールMの搭載機数は半々程度になっています。

 ナバル・グループが発表した「PANG」の飛行甲板にラファールMが描かれている背景には、FCASの開発計画の遅れがあるものと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

仏独から3か国共同開発になったFCASの迷走

 FCASの開発計画は2019年6月に開催されたパリ・エアショーの会場で発表されています。

 フランスとドイツは開発計画の発表前に事前交渉を行い、FCASを構成する有人戦闘機の開発はフランスのダッソー・アビエーション、UAS(無人航空機システム)の開発はドイツに生産拠点を置くエアバスがそれぞれ主導し、生産分担もほぼ半々とすることで合意していました。というのも、国際共同開発では参加国の役割分担や、開発に伴って生じた知的財産の所有権、量産機の生産分担の比率などをめぐる駆け引きによって、開発が遅延する傾向があるからです。

 しかし共同開発計画発表前の2018年秋ごろから、スペインが開発計画への参入に関心を示し、2019年6月のパリ・エアショーで3か国の共同開発計画として発表されています。


2020年の「PANG」イメージCG。FCASがズラリと並んでいた(画像:ナバル・グループ)。

 スペインが対等なパートナーとしてFCAS計画に参加したため、前に述べた事前交渉では仏独半々であった生産分担比率や知的財産権の所有の再調整が必要となり、これがFCASの開発計画を遅延させる一つの要因となっています。

 さらにドイツはスペインの加盟後、エアバスにも有人戦闘機のデモンストレーター(技術実証機)を開発させるよう要求しています。FCASの艦載機型を求めているフランスは、空母を持たないドイツとスペインに有人戦闘機の開発を主導させるつもりはなく、これも開発計画の進展を妨げています。

フランスがちらつかせる「プランB」

 2022年10月20日付のロイターは、10月中の開催が予定されていた、仏独両政府が両国間の様々な問題を話し合う会合が、政府間で考え方の食い違いが大きすぎるため2023年1月に延期されたと報じています。

 ロイターによれば、仏独政府間の溝を大きくしている最大の理由は、ロシアのウクライナ侵略に伴って危機的状況にあるヨーロッパのエネルギー政策に対する考え方の違いにあるものの、ドイツがヨーロッパ諸国へアメリカ製防空システムの導入を主導していることに不信感を募らせており、これも会合延期の一因になっているとも報じています。

「PANG」は2038年の就役を予定していますが、ダッソー・アビエーションのエリック・トラピエCEOは2022年6月、仏独両国の思惑の違いを解消するための話し合いには長い時間が必要となるため、FCASが2050年以前に就役することはないとの見解を示しています。


2019年に開催されたパリ・エアショーで展示されたFACSの有人戦闘機のコンセプトモデル(竹内 修撮影)。

 またトラピエCEOはFCASが次世代戦闘機を開発するための最良の手段であると断った上で、フランスには単独で開発する能力があり、「我々(ダッソー・アビエーション)は『プランB』、つまりFCASに代わる新戦闘機の開発も検討している」と述べています。

 うがった見方かもしれませんが、飛行甲板にラファールMが並べられている「PANG」の新イメージCGは、FCASの開発計画でこれ以上勝手な事を言うのであれば、我々は独自路線を行くという、フランスのドイツに対する牽制の意味が込められているように筆者には思えます。