ついに終焉「国鉄の急行型気動車」キハ58系 何がすごかったのか 全国に急行広めた立役者
国内で唯一現役のキハ58系はいすみ鉄道のキハ28形ですが、2022年11月27日に定期運行を終了します。戦後、看板列車として活躍した急行型気動車の歴史が終わることになりますが、これらはどのような歴史をたどってきたのでしょうか。
最初の優等用気動車はキハ55形
2022年11月27日(日)、千葉県のいすみ鉄道を走るキハ28形が定期運行を終了します。これは改造車を除くと、最後のキハ58系急行型気動車です。1961(昭和36)年に登場後、計1823両が製造され、北海道から九州まで全国を走ったキハ58系列の生き残りが見納めとなるのです。
非電化路線の花形として生まれ、急行列車衰退後は普通列車やジョイフルトレインとしても活用されたキハ58系は、どういった車両なのでしょうか。
国内で唯一現役のキハ58系は、いすみ鉄道のキハ28形気動車。11月27日をもって定期運行を終了する予定(安藤昌季撮影)。
キハ58系の前代に当たるのが、準急用気動車キハ55形です。国鉄では準急用電車の登場に加え、エンジンの騒音や振動などが課題となり、急行用として見劣りしない車両を求めていました。そこで、前年の1960(昭和35)年に上野〜青森間の特急「はつかり」に投入されたキハ80系気動車と同じエンジンを採用した急行形を考案。これがキハ58系です。
キハ58系列では、エンジンの排熱を利用した温水暖房方式を取り入れるとともに、車体幅も2.9mに拡張し、客室に余裕を持たせました。派生型として、エンジン2台のキハ58形、エンジン1台のキハ28形、リクライニングシートを備えた2等車キロ28形があり、これらを基本として北海道用に耐寒性能を強化したキハ56形、キハ27形、キロ26形、碓氷峠通過用に空気ばね台車を備えたキハ57形、キロ27形が製作されています。
ユニークなのは、国鉄乗り入れ用として富士急行がキハ58形を導入したことです。当時の国鉄には存在しない両運転台のキハ58003は、有田川町鉄道保存会にて保存されています。
そのままでは冷房装置を付けられなかったキハ58系
根室本線のキハ56系の急行「狩勝」は、それまでのSL牽引による客車準急よりも所要時間が3割近く短縮され、気動車の高い加速力を示しました。キハ58系は修学旅行用の800番台も製作され、全国各地で活躍します。しかし生活水準の向上により、キハ58系には「冷房がない」という問題点が指摘されます。
広島駅に到着したキハ58系(キハ28形)による急行「みよし」(2007年6月、恵 知仁撮影)。
バスとの競争下にある九州で1963(昭和38)年、2等車から格上げする形で1等車キロ28形に冷房が取り付けられます。その後は1969(昭和44)年より、普通車の冷房化が実施。しかし、2台エンジンのキハ58形は床下にスペースがなく、冷房稼働に必要な電源セットを取り付けられません。
1台エンジンのキハ28形が組み込まれていれば、キハ58形を含む3両に給電できるのですが、勾配の多い路線では高出力とするため、キハ58形だけの編成も少なくありませんでした。中央本線ではグリーン車にまで、2台エンジンのキロ58形が投入されたほどです。そのため、1台でも済むよう出力を500馬力に増強した新型エンジンを搭載し、電源セットも装備できるキハ65形を開発して、冷房化を進めていきました。
しかし国民所得の向上や、新幹線、電化区間の延伸、高速バスの登場などもあり、急行列車は「スピードが遅く、設備が普通列車と大差ないボックス式クロスシート」という中途半端な存在となり、多くが消滅するか、特急に格上げされることになります。
終焉する優等用国鉄型気動車 しかし改造で返り咲く!
時代遅れとなったキハ58系は、1980(昭和55)年の急行「能登路」用ロマンスカーを皮切りに、接客設備向上のために改造を受けたほか、団体観光列車にも転用されました。
「ゆふいんの森」(I世)に使われるキハ71形。キハ58・65形の改造(画像:JR九州)。
特に「急行」で運行される列車では、0系新幹線の転換式クロスシートに換装した車両も多く見られました。その中には、初めての水戸岡鋭治氏デザイン「アクアエクスプレス」もあります。回転式リクライニングシートを採用し、特急形並みの設備となった車両もありました。なお、定期急行列車からの引退は2007(平成19)年。広島〜米子間の急行「みよし」でした。
一方、団体用観光列車への転用は全国で行われました。展望席を備えた「アルファコンチネンタルエクスプレス」(JR北海道)や「サロンエクスプレスアルカディア」(JR東日本)、特徴的な唇を前頭部に備えた「リゾートサルーン・フェスタ」(JR西日本)などです。
最後に観光列車に改造されたのは、2006(平成18)年登場のJR九州「あそ1962」で、2010(平成22)年の運行終了後も2019年の廃車まで、「JRグループで原型をとどめた最後の営業用キハ58系」となりました。ちなみにJRから消滅するのは2020年、JR東日本が訓練車として用いていた車両を廃車した際です。
冒頭で述べた通り、いすみ鉄道に譲渡されたキハ28形が定期運行を終了するため、キハ58系は完全に引退といえそうです。ただし細かい点を見れば、JR九州の「ゆふいんの森I世」で運用されているキハ71形が台車など一部を流用しているため、こちらが「最後のキハ58・65形」ともいえるでしょう。
※一部(急行列車名)修正しました(10月23日13時10分)。