会見に臨む元自衛官の五ノ井里奈さん

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「応援してくれた方には、もう“ありがとうございます”しかないですね」

【写真】加害者4人からもらった実際の手紙

 そう話すのは元自衛官の五ノ井里奈さん。今年6月に、訓練中に複数の男性から受けた性被害を自らのSNSで告発し、大きな話題を呼んだ。

実名での訴えも最初は不起訴処分に…

「実名顔出しで被害を訴えたことから、そうとうな覚悟を持ってのことだったのでしょう。“再発防止と加害者からの直接謝罪”を何度も訴えてきました。警務隊には『強制わいせつ罪』で被害届を提出していたものの、一度は不起訴処分に。検察審査会に不服申し立てをして、9月7日付で『不起訴不当』と議決されました」(全国紙記者)

 再調査の結果、9月29日に防衛省が事実を認め、10月17日には加害者4名も五ノ井さんに直接謝罪。同日に行われた会見では、加害者の様子や、今の思いを語った。

「みなさん何度も頭を下げて“この件については事実です”と認めてくださいました。涙を流していた方もいましたし、土下座をしてきた方もいました」

 加害者たちは退職の意思があり、現在は自衛隊からの処分を待っている状況だという。

加害者からもらった手紙の内容に批判も

 会見では、彼らからの手紙を読み上げる場面もあった。

「五ノ井さんに対して距離が近づきすぎ不快に思わせてしまい深く反省しています」

「私の軽率な行動により五ノ井さんを長く苦しい思いをさせてしまい深くお詫び申し上げます」

「五ノ井さんの道を閉ざしてしまい深く反省しています」

 この手紙の内容について、インターネット上では、「性加害という、重く扱われるべき事案なのに“不快に思わせた”“軽率な行動”というだけの軽い言葉で済ませてしまっていいのか」という厳しい声もあがっていたが、五ノ井さんは会見でこう話したのだった。

「実際にお会いしたときは、事の重大さを受け止めていると感じられました。わたしだけが被害者ではない。加害者4名の方にも家族はいます。お子さんや奥さん、みんなが加害者の方々の訓練の帰りを信じて待っている。そのなかでこういう行為をしたことは、信じて待っている子どもや奥さんへの裏切りでもあると思います。“失敗することもあるし、カッコ悪くてもいいんですけど、犯罪というのは絶対にあってはならない。同じ過ちを繰り返さないように”と伝えました」

 今回の直接謝罪を“一つの区切り”と語っていた五ノ井さん。後日、『週刊女性PRIME』の取材に応じ、昨年8月に性被害を受けてから今日までの、長かった約1年3か月間を振り返った。

「告発しようと決めたのは、なかったことにしたくなかったのと、事実を認めて、誠意ある謝罪がほしいという一心でした。被害届は出しましたが、起訴、不起訴という問題ではなかったんです。お金も何もいらなかった。悪いことをしたら謝るって、当たり前のことじゃないですか。同じようなことが2度と起きてほしくなかったので、世間に訴えかけようと思いました」(五ノ井さん、以下同)

Youtubeの大反響に「もっと広がってほしい」

 Youtubeにアップロードされた2本の告発動画は大きな反響を呼び、現在ではあわせて300万回以上も再生されている。

「最初は驚きましたね。でも、世間に伝わらないと告発した意味がないと思ったので、あのときは“もっと広がってほしい”って思っていました。

 ただ、その一方で、実名顔出しだったので、ちょっとした怖さもあったんです。嘘をついてまでこんな話をするわけないのに、“こんなブスがセクハラされるなんて嘘だ”という中傷コメントもたくさん来ました。覚悟はしていましたけど、それでも“こんなに叩かれるならやめようかな”と思ったときもありました。でも、今思えば、あそこでやめていたら、今こうして謝罪をしてもらえていないんですよね」

 メディアの取材に対応しながら、それ以外の作業もこなしていた。

「いちばん大変だったのは、周囲の方の証言集めですね。検察審査会に提出する書類の作成も、ほとんど自力で行いました。本来だったら弁護士が書くような書類なのですが、弁護士を雇っていなかったので自分で書きました。専門用語も多くて、それを全部調べて……。人生で5本の指に入るくらい大変でしたね」

 活動のなかで、記録することの大切さを知った。

「応援してくださった方にも、同じ思いをしてほしくないので、何かあったときにはしっかりと記録を取っておいてほしいと思いますね。少しでも怪しい人に会ったときは、ボイスレコーダーや日記など、毎日でなくてもいいので残しておく。自衛することが大切だと改めて思います」

 悲願だった加害者からの直接謝罪を受けたときは、どのような気持ちだったのか。

「正直、遅いと思いましたが、自分の目的は実現して、謝罪を受けることはできました。ただ、加害者の4名にも言ったことですが、謝罪を受けたから許すという話ではありません。今は許すことができませんが、まずは謝ってもらって、それを受け止めました。ここを区切りにして、前に進もうと思ったんです」

活動中にはたくさんの出会いに支えられた

 活動期間中、励みになったのは“人とのつながり”だったという。

「9月に、明治神宮にお参りをしたんです。絵馬に“調査の結果が出て、謝罪をもらえますように。未来は輝いていますように”と書いて、その写真をSNSにアップしました。すると、応援してくださっていた方たちが、その画像を自分たちのSNSのアイコンにしてくれて。すごくうれしかったです。

 こうして多くの方が署名活動などに協力してくれたおかげで、今回の結果が出ました。1人ではできなかったことだし、世間のみなさんのご協力の賜物だと思っています。本当に励みになりました。心から感謝しています」

 今回の件で、思いもよらない縁も生まれた。

「テレビや雑誌、YouTubeなどのメディアの方はもちろん、同じように性被害の告発を検討されている方とも知り合えて、誹謗中傷の件も含めて支え合ってきました。ほかにもスポーツ選手や議員の方など、本当にいろいろな人が応援してくれたり、言葉をかけてくれました。たくさんの出会いがありましたね」

 ひとまず大きな目標は達成した。五ノ井さん自身の今後やりたいことを聞くと、はにかみながら答えてくれた。

「柔道が好きなんですが、最近はなかなか取り組めていなかったので、道場で身体を動かしたいですね。あとは、人を笑わせることも大好きなんです。これからは被害者としてではなく、ひとりの人間として強く生きて、いろんな人を笑顔にさせたい。私がそうして生きている姿を見て、元気を出してくれる人がいればいいなと思います。将来の夢は……大好きな『世界の果てまでイッテQ!』に出ることですかね(笑)」

 止まっていた時間が、ようやく動き出した。