企業活用にはTikTokが狙い目? 縦型短尺動画の企業活用方法と事例を探ります(画像:東洋経済オンライン編集部)

「こす.くまのYouTubeメタトーク」第5回は、「ショート動画の企業活用法」。YouTube作家として活動する「こす.くま」の代表作家である「すのはら」と「たけちまるぽこ」が、YouTube作家独自の視点で「企業のYouTube運用」にフォーカスします(文中敬称略)。

TikTokやリール、YouTubeショートの違いは?

TikTok、YouTubeショート、Instagramリール……と、縦型のショート動画がさまざまなプラットフォームから登場し、近年トレンドとなっています。縦型短尺動画はスマートフォンの向きをわざわざ変えなくとも視聴できるため完全視聴率が高いとも言われています。

TikTokを生み出した中国では、「TikTok(中国では抖音)」や「快手(Kuaishou)」「愛奇芸(iQIYI)」「騰訊視頻(テンセントビデオ)」など、さまざまな大手プラットフォームが縦型ショートドラマに注力しており、10分や15分のドラマがZ世代を中心に大人気となっています。

日本でもTikTokはもちろん、LINE漫画を筆頭にWebtoon(ウェブトゥーン)が身近になったり、チャット小説のTellerが中高生から絶大な支持を得たりと動画以外の縦型のコンテンツもじわじわと主力になりはじめています。今年の3月にはTikTokでも長尺が投稿できるようになり、表現の幅がさらに広がりを見せそうです。

現状は長尺を使いこなしているTikTokユーザーは少ないですが、TikTok側はYouTubeを見ている層をどれだけとれるかを意識していると思われるので、今後長尺のクリエイターを優遇していく流れも予想されます。

こうした流れから、テレビがYouTubeに置き換わったように、いつ従来のYouTubeなどの横型の動画が縦型に置き換わってもおかしくないと思っています。

TikTokの爆発的なヒットにより、ここ数年さまざまなプラットフォームで縦型短尺動画機能が誕生しています。同じく縦型短尺動画機能として2020年8月に追加されたInstagramリールは、公開アカウントであればリールタブ、発見タブなどにも表示され、フォロワー以外にも届きやすい機能です。

Instagramは拡散がしづらく、フォロワー以外に投稿やストーリーズが届くことは難しいですが、Instagramリールは発見タブで不特定多数の目に触れる機会があります。

Instagramリール独自のトレンドについて特筆できるものは今のところありませんが、TikTokで投稿したコンテンツをInstagramリールにも投稿しているクリエイターは数多くいますし、TikTokへの導線としても使われています。

YouTubeが出しているYouTubeショートはインドで2020年9月に初リリースされました。TikTokがインドから撤退したばかりだったことにYouTubeが目をつけたようです。YouTubeショートは今年の7月にMAU15億人を突破と、順調に利用者数を伸ばしています。依然として縦型短尺動画の主力はTikTokですが、TikTokとYouTubeショートをうまく活用しているクリエイターが増えています。

570万人の登録者数を持つ「バヤシTV」は低糖質メニューを中心に動画をあげているクリエイターです。彼はもともとTikTokでフォロワーを増やし、その後同様のコンテンツをYouTubeショートにも展開し、一躍人気クリエイターとなりました。高クオリティな撮影と、料理という非言語でも伝わる内容から海外の登録者も伸ばしています。

同じく海外にファンを持つ「Sagawa/さがわ」もTikTokとYouTubeショートの両軸で活用して登録者数を伸ばしており、TikTokは300万人、YouTubeは1190万人もの登録者数となっています。「Sagawa/さがわ」は体を張った短尺おバカネタ動画を出し続け、非言語でも伝わるキャッチーさが海外の子どもたちを中心に人気を呼んでいます。

1分前後の縦型短尺動画は、音や表情などの「非言語的」な部分をフックに、海外にも届けることができるのが魅力です。いまは一部のクリエイターが海外でも流行るという実績を作っていますが、今後戦略的に海外向け縦型短尺動画の発信を行う会社や商品も出てくるだろうと思っています。

また、国内で人気のYouTuberでもYouTubeショートを活用している事例が出てきています。縦型短尺動画さえ作ればInstagramリール・YouTubeショート・TikTokと3つものプラットフォームに展開ができます。現状、TikTokでウケやすいものはリールでもショートでもリーチしやすくなっています。

そのため、ショート動画はプラットフォームによって出し分けするのではなく、すべてのプラットフォームにとにかく出すことが大事です。それぞれの特徴はあまり意識せず、とにかくまずは縦型短尺動画を作って出してみる、というアクションが大切です。

企業活用にはYouTubeよりTikTokから?

もし企業の方にYouTubeとTikTok、どちらから始めたほうがいいですか?と聞かれた場合は、「どちらもやるのがベスト」としたうえで、、強いていえばTikTokから始めるほうがいいと伝えています。YouTubeは動画のクオリティーや伸ばすためのコツが必要で、見られるチャンネルに育てるまで結構な根気がいります。一方でTikTokは、アプリ内でも簡単な編集機能が備わっているので制作コストが抑えられますし、人的リソースも少なくて済みます。

YouTubeは登録者数0人でバズることはなかなかありませんが、TikTokはユーザーに刺さるコンテンツであれば、フォロワーのいない1本目からバズることがありえます。企業担当者が予算をかけてYouTube動画を作るよりも、手軽にスマホでTikTokを撮影してみてどういった動画がバズるのか、興味を持たれるのかを研究するほうがスピードもコスト感もよいと思っています。

例えば前回もご紹介した「大京警備保障」という会社のアカウントは、40〜50代の男性社員たちが踊ったりTikTokのバズネタを再現したりした動画を多数投稿し、現在270万人のフォロワーがついています。ここまでくると企業の活用例というよりかは、TikTokクリエイターとして成立しているのですが、その影響で会社の知名度アップや、採用での問い合わせ増加などは起きていると思われます。

人を軸にするか商品を投稿するか

企業がTikTokを活用するパターンとして、「大京警備保障」のように社員や社長など人軸で発信するパターンと、ユーザーに自社の商品を投稿してもらうパターンが挙げられます。

認知度向上や採用を目的に、自社の楽しさや名前を知ってもらいたい、というニーズに対しては前者が、自社の商品を訴求したい、購買につなげたいというニーズでは後者を狙っていくのがおすすめです。

人軸パターンでは「大京警備保障」を筆頭に、社員をTikTokerにしていく事例が増えてきました。5万6000フォロワーがいる「自在な整骨院」は、女子社員や医師が踊る動画で会社の知名度を上げています。

建築業の株式会社リンクロノヴァの「ながの社長」は、社長がオフィスでご飯を食べたり、部下にいじられたりする場面を投稿し、62万フォロワーがついています。同じく社長系では、部下が「社長、社長!」と質問を問いかける「こまちゃん社長」が17万フォロワー、社員では「全力会社員のよこちゃん」という企業の広報を行う女性が発信しているアカウントが24万人と伸びています。

人軸でTikTokを伸ばすにはTikTokerとしての面白さが欠かせなく、社内から人を出すことのハードルが高く、なかなか参入することの難しさがあります。反面でバズったときにはその人自体にファンがつくので離れにくいという側面もあります。

商品を投稿してもらうパターンでは、TikTokユーザーに遊んでもらえる商品や見た目、効能であることが重要です。

TikTokウケしやすい商品は

・見た目が派手(地球グミのような色が奇抜、見たことないカラーリングのアイテム)

・手に取りやすい、身近(試しやすく、私も投稿したい!と思ってもらえる)

・結果がある(XXを試した結果〜〜などbefore/afterがあるものはTikTokで伸びやすい)

といった傾向があります。

これらのポイントの2つ以上を兼ねている商品であれば、若者向け商材でなくともTikTokユーザーにバズを産む可能性を秘めています。

アース製薬「らくハピ マッハ泡バブルーン」は、排水管の掃除用品で、若者向けの商材ではありません。しかし泡で洗浄する体験の面白さが2020年6月ごろにTikTokで話題となり、一時的に品薄状態になりました。商品関連の再生回数は1億回以上、バズりが影響した2020年8〜10月の売り上げは前年比の6倍となったようです。

缶を開けると泡がもこもこ出てくるというアサヒスーパードライ「泡が出るビール」もTikTokで話題に。こちらも泡が動画映えすることや、身近な商品であることがウケた理由です。

また、大塚製薬「ファイブミニ」は「痩せる」「便秘解消になる」とTikTokでバズを産みました。「ファイブミニ」は30年以上発売しているロングセラー商品ですが、若者層の認知は低かったため、見慣れないピンク色の液体がダイエットに効く、というのでたちまち話題になり、1日の売り上げが2倍にもなったそうです。

「過程を見せる」コンテンツが狙い目?

これはTikTokで企業が陥りがちなことでもあるのですが、TikTokはTikTokとしての見せ方やセオリーがあり、商品を売ることに注力して商品をよく見せようとCMのような動画をTikTokに投稿してもまったくといっていいほど伸びません。であればインフルエンサーにお願いして投稿してもらうほうが意味がありますし、それよりも伸びるのは上記のような自発的に投稿してもらうための商品や仕掛けづくりです。

TikTokの主要ユーザーであるZ世代は、#PRのような「大人が透けて見える」動画は避ける傾向があります。YouTubeでも企業案件の動画は再生数が伸びづらいですが、TikTokはYouTubeよりも生の口コミや反応が溢れているため、企業が言ってほしいことを言わせている動画は「これは広告だな」感が顕著に表れます。

僕が今後TikTokの企業活用で出てきそうだな、と思うのは「過程を見せる」コンテンツです。プロセスエコノミーと言われる”商品ができる過程を見せることそのものをコンテンツにし、ファンを獲得する”とTikTokは非常に相性がいいと思っています。

そうした事例で最近話題になっていたのが「70日後にラーメン屋をオープンする大学生」というアカウントです。20歳の現役大学生の男の子が、ラーメン屋がオープンするまでの過程を日ごとに投稿し、1億2000万回再生され、実際に大阪にオープンしたラーメン屋では連日繁盛しているようです。

例えば車企業が新しい車を作るまでの過程を見せたらその工程の新鮮さと驚きで人気が出ると思いますし、そうした努力と汗がみえるコンテンツはTikTokでもYouTubeでも普遍的な人気があります。企業の参入障壁が高くみえがちなTikTokですが、だからこそTikTokウケするアカウントが作れたらうまみがあります。

フォロワー増を狙うのは古い

最近、TikTokではフォローをするという文化が衰退してきたように感じます。ここ半年〜1年ほどは、TikTokerのフォロワー数の増加も顕著には見えなくなっています。TikTok自体の人気は依然として強いのですが、TikTokはいまバズっているおすすめ動画をレコメンドされたり、いいねや閲覧に応じたアルゴリズムで動画がレコメンドされるため、わざわざフォローをするというアクションを取る必要がないのが要因だと考えています。

YouTubeショートもチャンネル登録とは関係なく、おすすめ動画をレコメンドしてくれます。今後の傾向として、フォローする、登録するという文化自体が古くなっていく可能性があるのではないでしょうか。

アカウント自体に数字がつきづらくなってくると、ますます動画単位で面白いかどうかが見られるかどうかの線引きになるだろうと思います。

企業がアカウントを運用する際にも、有名な芸能人を踊らせたらバズるだろう、インフルエンサーに紹介してもらったらOK、と思わずに、いま求められている面白い動画とはなにかを日々研究していくことが大切です。


画像をクリックすると連載一覧ページにジャンプします

(こす.くま : YouTube作家)