84歳がかなえた意外な夢。生き甲斐で手に入れた「心の健康」
80代の両親と50代娘のkikiさんで結成された、バッグをつくる裁縫チーム・G3sewing(じーさんソーイング)。お金もやることもなく、病気でほぼ寝たきりだった80代の父が、バッグづくりという意外な生きがいを見つけたことから、SNSを中心に話題になっています。父とkikiさんがここに至るまでは、いろいろなことがあったと言います。このたび出版したばかりの『あちこちガタが来てるけど 心は元気! 80代で見つけた 生きる幸せ』(KADOKAWA刊)から、その裏側を紹介します。
孫のアイデアで、商品の注文が殺到。家族みんなで叶えた夢
ソーイングチームのメンバーは80代両親と娘のkikiさんの3人。おもに、職人の80代の父(=G3・じーさん)のつくったがま口バッグ、トートバッグ、お茶碗型ポーチ、お薬手帳がま口などをネットで販売しています。
もとはG3が趣味として始めた裁縫。しかし、生地やファスナー、スナップなど、材料にもお金がかかります。G3の年金は月3万円ほど。病院代や薬代でほぼなくなってしまうので、自分では買えません。
そこで、G3の娘の三姉妹でお金を出して生地を購入。しばらくG3の生き甲斐を続けられることになりましたが、でき上がったものを売って材料費を捻出しないと、いずれは行き詰まります。
G3のミシンの腕が上がって、kikiさん自身が買ってもいいと思うようながま口バッグが完成。せっかくつくったがま口バッグをもっと広めたいのですが、どうしたらいいのかわかりません。そこで…。
●Twitterにアップしたところ、想像以上の反響が
kikiさんは苦しい事情を、18歳の息子(G3の孫)に打ち明けました。
「今まで親に無関心だったので、何かを期待して話したわけではありません。でも、ちょうど反抗期を抜けた時期だったのか、息子は『おじいちゃん、その歳ですごいな。Twitterを使ったら、もっと広がるよ』とアドバイスしてくれました。さらに、『がま口バッグは私がつくっていることにしよう』と言ったら、『そんな人たくさんいるから売れへんよ。おじいちゃんがつくっていることを、ちゃんと出したほうがいいよ。名前はG3sewingな』と、アカウントもつくってくれたんです」と、kikiさん。
息子の若い感性を信じ、G3の写真とともにがま口バッグをTwitterにアップしたら、思いがけずにバズりました! そして注文が殺到したのです。
それがきっかけで、G3とB3とkikiさんの3人で、本格的にG3sewingを始めました。
G3はこう言います。
「何もしないとボケてしまう。どうやって死のうかと、死ぬことばかり考えていた。家族には怒られてばかりだし、金を使うのは病院代だけ…。G3sewingをしていなかったら、死んどったと思う」
そんなG3でも、生きる希望を取り戻したのです。
●SNSは外出が難しい高齢者にこそ便利なツール
G3は「がま口バッグを待っていてくれる人がいる」と、ついがんばりすぎてしまい、翌日、体調を崩す…ということが増えました。せっかく注文をしてくれた方々になるべく早く商品を届けるために、G3が無理なく好きなものづくりを続けていくためにどうしたらいいのか、3人で色々話し合いました。
その中の一つが、工場長、専務、社長の役割分担です。ほかにも、ホワイトボードに目標数値を書いてモチベーションをアップさせたり、便利な道具を導入して生産効率を上げたり、工夫をしました。
「Twitterのフォロワーさんには、本当に助けられています。『こういう道具を使った方が便利ですよ』と教えてくれる方々がいて、実際に、布を切るローリングカッター、業務用ミシン、ホワイトボードなどを導入して、作業がすごく楽になりました。G3やB3は、最初は顔の見えない人にものを売ることが理解できなかったようですが、今では、フォロワーさんのコメントを読んで励まされています」とkikiさん。
SNSは若者のツールだと思いがちですが、G3sewingでは販売できる場所、交流できる場所、お知らせできる場所として重宝しています。地方に住んでいて、病気などでなかなか外出できない高齢者には、外の世界とつながることができる便利なツールでした。
●生き甲斐の大きな副産物。体と心の健康に気をつけるようになった
「がま口バッグを待っていてくれる人がいる」と、がんばりすぎるG3でしたが、だんだん無理なくつくり続けるために、生活を整えるようになりました。今は、朝は5時に起床。朝食にB3がつくってくれた具だくさんのお粥を食べて、7時から仕事を開始。途中で昼食、休憩を入れながら、17時ごろまで働きます。
G3sewingを始める前は、なんとなくベッドで寝ていたり、ごはんの時間も不規則でした。仕事のおかげで、規則正しい毎日が送れるようになり、体にも心にもいいようです。
仕事をしていると座りっぱなしなので、「なるべく外に連れ出すようにしている」とkikiさん。週1回くらいは、G3とB3を車に乗せてスーパーに行き、スーパー内散歩をしています。重いものなどの買い物はスーパーの宅配サービスを利用しているので、この買い物は運動&気分転換が目的です。
「月1回お給料日に“がんばりました会”をしています。近所の庶民的な店で昼食を食べながら、その月につくったバッグの個数を発表して3人で拍手。そして、それぞれがんばったことを発表して、褒め合います。だから、反省会ではないんです(笑)」(kikiさん)
3人でいつも『楽しくないといいものがつくれない』と言っているそう。外に持って行きたくなるようなバッグは、製作者の楽しい気持ちが表現されると思うからです。
お金も希望もなく、あるのは命と病気だけ。そんなG3と家族が元気になった物語は、きっとたくさんの方々の生きる希望になると思います。
さらに詳しく知りたい方は、書籍『あちこちガタが来てるけど 心は元気! 80代で見つけた 生きる幸せ』(KADOKAWA)でチェックしてみてくださいね。