80代の父が、ネットで人気の裁縫職人に。支えてきた50代娘の思いとは
自分の老後はもちろんのこと、今は高齢の両親のことも心配…という人もいるのではないでしょうか。80代の両親と一緒にソーイングチームを始め、ネットで販売したことで一躍人気になった親子がいます。50代の娘さん目線で描かれた『あちこちガタが来ているけど 心は元気! 80代で見つけた 生きる幸せ』(KADOKAWA刊)が話題に。娘であるkikiさんに、80代の両親とのつき合い方を聞いてみました。
お金も希望もなかった80代の父。あるのは病気と命だけだった…
「G3sewing」という名でソーイングチームを組み、物販をしているのは、50歳のkikiさん、84歳の父(G3=じーさん)、80歳の母(B3=ばーさん)の3人の親子。元電気職人のG3が主に製作しているので、G3sewing(じーさんソーイング)と名づけたそう。現在、三重県四日市市の平屋の一軒家で、がま口バッグ、トートバッグ、お茶碗型ポーチ、お薬手帳がま口などをつくって、ネットで販売しています。
●かつては父に対し「今すぐ死んでくれてもいい」と思っていた
会社ではありませんが、商品をつくっているG3が工場長、検品・包装担当のB3が専務、発送、経理、進行管理など、その他何でも担当するのが社長のkikiさんです。
「役割分担が明確にしたら、仕事がやりやすくなりました。G3には職人に徹してもらい、今までの人生で失敗してきた、人との交渉など不得意なことは、私が担当しています」と、kikiさん。
家族で仕事をしているなんて、さぞかし仲良しなんだろうと聞いてみると…。それはここ2〜3年のことで、それまでは今とは真逆だったそう。G3は元職人で腕は確かでしたが、短気で人づき合いが苦手。すぐに人ともめるので、仕事が長続きしません。だから、家族はいつも貧乏暮らし。ぶつかることも多かったのです。
仕事を引退してからは、病気のオンパレード。病気が原因で鬱病にもなり、家出や自殺未遂をしたことも。G3本人も「死にたい。生きていても意味がない。みんなに迷惑かけとるだけや」と言い、家族も「今すぐ死んでくれてもいい」と本気で思っていました。
●80代を過ぎてミシンに夢中に
面倒な存在の父・G3ですが、やはり娘として気にはなります。G3が82歳の頃、kikiさんは壊れたミシンの修理をお願いしました。
「やることもなく、病気のために体調も思わしくないG3は、1日のほとんどをベッドで過ごしていました。ミシンの修理をすることで、長年培ってきたG3の職人魂がよみがえり、少しでも元気になればいいなと思って、頼みました」とkikiさん。実際に、G3はベッドから起き上がり、あっという間にミシンを修理。今まで、ミシンに触れたこともなかったのに、職人魂に火がつき、その日からミシンに夢中になりました。
初めは、kikiさんが初心者でもつくれるようなコースター、ポーチなどを提案しました。そのうち、G3は職人として培ってきた探究心と負けず嫌いの精神で、バッグや財布など難しいものを縫えるようになっていきます。ミシンはすべて独学だとか! でも、ここで問題が勃発します。
「生地やファスナー、スナップなど、材料にもけっこうお金がかかります。G3の年金は月3万円ほど。病院代や薬代でほぼなくなってしまうので、自分では買えません。私が材料費を負担していましたが、だんだん苦しくなってきました。そこで、材料費を捻出するために、できたものを販売しましたが、そう簡単に売れるはずもなくて…。趣味だからやめてもいいのですが、楽しそうにミシンをかけているG3を見ると、なんとか続けさせたあげたいという気持ちに。姉たちからは『ミシンをかけていると大人しいので、私たちもラク。どうにか続けさせてあげて』と頼まれました」
板挟みになり、kikiさんは悩んでいました。
●父の生きがいを続けるために、お金を生み出す仕組みをつくる
kikiさんには、2人のお姉さんがいます。G3とkikiさんの奮闘ぶりを見ていた次女が「新型コロナウィルスの特別定額給付金10万を私ら3人で出して、新品の生地をどさっと買おう」と言ってくれました。長女も「じーさんへの投資やな(笑)。返ってくる可能性が低いけど」と賛成。「『半額なら…』と一番消極的に賛成したのは、私でした」と笑うkikiさん。3人で15万円を出して、G3のために生地を買うことにしました。「これだけ生地があって毎日何かつくっていたら、おとなしく死ぬだろう」なんて、不謹慎な話までしていたそう。
一方で、kikiさんにはこんな思いもありました。
「お金がないG3に、今まで何回もお金を出したことがありました。でも、いつも出して終わり。その後、生かされないので、モヤモヤした気持ちだけが残っていました。だから、魚をあげるのではなく魚釣りの方法を教え、G3自身がお金を生み出す仕組みをつくれないだろうかと、常に考えていました。難しいがま口バッグがつくれるほどミシンの実力が上がってきたので、生きがいを続けるための材料費を自力で捻出できないだろうか…」
崖っぷちのG3に、少しだけ光が差し込みました。
そんな家族の軌跡を描いたエッセイ『あちこちガタが来てるけど 心は元気! 80代で見つけた 生きる幸せ』(KADOKAWA刊)には、バッグづくりのこと、家族が起こした奇跡などが描かれています。ぜひチェックしてみてくださいね。