京都市上京区にあるスーパーマーケット「斗と々と屋や」では、生鮮食品を含め700品目を扱いながら、仕入れを含めてゴミゼロを目指しています。サステナブルなスーパーはどう運営されているのか? 時事YouTuberのたかまつななさんが広報担当のノイハウス萌菜さんと対談しました。その模様をお伝えします。

体にいい、環境にいいそして、おいしいも追求

たかまつ:ナッツやドライフルーツなどを量り売りするお店は珍しくありませんが、ゴミを出さない「ゼロウェイスト」はすごいです。

ノイハウス:京都店では生鮮食品を含め700品目を扱っていますが、仕入れの段階からゴミを出さないようにしています。ただ、個包装に慣れているなか、買い物の利便性を保ちながらゴミをゼロにするのは簡単ではありませんでした。テクノロジーを導入したり、デポジット制で気軽に来店できるシステムにしたり。そこがいちばんチャレンジでしたね。

たかまつ:テクノロジーの導入ということですが、どういうシステムでお客さんは買い物するんですか?

 

ノイハウス:商品が入っている容器のフタやレバーにはすべてモーションセンサーがついているんです。レバーやフタが動くと、その商品情報が近くの電子はかりに伝わるので、お客さまはモニターに出た商品のなかから購入したい商品を選ぶ、といったかたちです。このシステムのおかげで、セルフでのお買い物が実現できました。

たかまつ:すごいですね。

ノイハウス:商品の選択ミスを防ぐことができ、こちらとしても損失を防ぐことができます。寺岡精工さんが開発されたもので海外では利用が広がっているのですが、日本ではゼロウェイストな量り売り用のソリューションの導入は少ないのです。

たかまつ:ヨーロッパでは量り売りのお店は多いですもんね。日本の生活に慣れていると、ヨーロッパに行ったときに袋や個包装がなくて「不便だな」と正直、感じてしまいます。

ノイハウス:ゴミを出さない快適さは絶対にあって。斗々屋は「ゼロウェイスト」「オーガニック」「フェアトレード」がキーワードですが、「おいしい」が大前提。体にいい、環境にいいだけでなく、おいしさも追求していますので、いろんな方に来ていただきたいです。

たかまつ:併設のレストランでは、店内の食材を使って料理を提供するほか、お総菜やビン詰めの保存食をつくって販売しているんですね。

ノイハウス:加工の場がないと、どうしても「捨てる」ことになります。飲食店でも小売店でも必ず食品ロスはあって、デパ地下などはそれを前提に利益率を計算しています。でも、食品ロスが当たり前になっていること自体が問題なわけで。食品ロスを出してまでビジネスを成功させる意味はなく、レストランの活用は自然な流れでした。

たかまつ:イギリスで、AIが食品ロスを予測して仕入れる材料の量を変えるというシステムを取材したことがあります。開発したのはコンサル出身の方で、「この分野はブルーオーシャンだ(競合相手がいない)」と言っていました。実際、世界中に導入されていて、もうかっているそうです。

ノイハウス:本来、利益になるものを捨てているわけですからね。ロスをカットするだけで利益が上がるのは当然だと思います。

たかまつ:企業が積極的に参入する分野には未来があります。量り売りのメリットは必要量を購入できて食品ロスがなくなり、容器などのゴミが出ないことですが、ほかにどんな経済的メリットがあるのでしょうか。

ノイハウス:生産者も個包装する必要がなくなれば、パッケージのコストを削減できますし、時間や手間も省けます。仕入れ全体の価格が下がり、小売価格も下がる。それもお客さまのメリットです。ただ、経済的メリットを追うというより、よい循環をつくるためには、経済的メリットとマッチさせないと社会に浸透しにくい、というのが大きいですね。

 

たかまつ:とくにオーガニックのものは高くなりがちですよね。価格はやはりハードルになりますか?

ノイハウス:少し高くても環境にいいから買うという人たちだけでは、社会全体を変えることは難しい。ただ、個人的にはまず買える人、買ってもいいという人から利用してもらえればと思っています。需要を高めることでコストは下げられるので。

たかまつ:私もSDGsの情報発信をしていると「金持ちだからできるんだ」と言われることがあって。伝える難しさを感じます。

ノイハウス:難しいですよね。

たかまつ:実際、エシカルファッションのお店を探すと、東京の自由が丘ばかりだったりしますし。

ノイハウス:わかります(笑)。

たかまつ:エコとかエシカルとか、日本ではどうしても意識高い系の人のもの、みたいに扱われるんですよね。

ノイハウス:私にとってはエシカルなファッションイコール古着。そう考えるとリーズナブルです。だから「エシカル消費」というマーケティングにはモヤモヤするのですが、エコはおしゃれでハイソなもの、というイメージも変えていきたいですね。

ヨーロッパでは通じない「SDGs」という言葉

たかまつ:日本のSDGsの盛り上がりはどう感じていますか?

ノイハウス:私個人の意見ですが、SDGsというわかりやすい共通言語が出てきたこと自体は素晴らしいことだと思います。それを掲げる企業が成果を出すことを期待しています。一方で不思議なのが、ヨーロッパではSDGsという言葉を使わないんですよね。

たかまつ:私もまさにそれを感じています。イギリスやフランスで「SDGsに関心がある」と言っても通じなくて、「サステナビリティのこと」とわざわざ言い直したり。

ノイハウス:言い換えないと、伝わらないですよね。

たかまつ:私の仮説ですが、EUでは早くからレジ袋が規制され、イギリスでは企業が規定量以上のプラスチック製品を提供すると罰金が科せられる法律もある。SDGsという言葉がなくても、対応が進んでいたんですよね。一方、日本はまるで動きがなかった。だからSDGsという言葉に強く反応したのではないでしょうか。

ノイハウス:日本では「SDGsだからやる」的な感じがありますね。ジェンダー平等も17の目標にありますが、女性の活躍に理由が必要? と思います。

たかまつ:私は政治分野の情報発信や取材が多く、女性議員を増やす必要があると言うと、いまだに「能力がないから選ばれないだけ」といった批判がきて、びっくりします。

ノイハウス:どこまで基本に戻って言葉にしなきゃいけないんだろう…と思いますよね。

たかまつ:ジェンダーフリーやエコは明らかな正義ですが、政治問題は立場も多様でトレードオフなことも多い。「利害関係を調整する議論を」と言っているのに双方から怒られたり。

 

ノイハウス:環境問題も同じです。たとえばレジ袋の有料化についても、「プラスチック業界の人はどうするんだ!」という意見が出たり。でも、それもまた、日本特有な気がします。そうしてバランスを取り続けてきて、結局、なにも変わっていないわけです。

たかまつ:この先、斗々屋さんの目指すところはどこでしょう?

ノイハウス:斗々屋の成功はもちろんですが、いちばんは量り売りのお店を増やすことです。私たちの小さいチームで店舗を増やすのには限界があります。思いに共感できる人と、生産者さんを含めたネットワークやレストランのメニューといった斗々屋のメソッドやノウハウをシェアし続けたい。どの街にも量り売りの店があって、当たり前に利用されている、それが理想です。