世界17か国の空軍が一堂に会して訓練を実施する「ピッチ・ブラック」演習。今回、日本のF-2戦闘機が初参加。その一環で、オーストラリアでデモフライトも実施。現地住民の目には空自の戦闘機はどう映ったのでしょうか。

日本初参加の国際軍事演習「ピッチ・ブラック」

 2022年8月19日よりオーストラリアのノーザンテリトリー(北部準州)において、国際共同軍事演習「ピッチ・ブラック2022」が行われています。この演習は隔年で実施されてきましたが、前回の2020年は新型コロナの感染拡大による影響で中止されていました。4年ぶりの開催となる今回は、17か国の空軍が参加し、軍用機の数は最大で100機強が集結しているそうです。

 演習の目的は、オーストラリア軍がパートナー国との共同航空作戦を行うための関係構築と、参加国との軍事同盟を強化することにあります。近年は中国の軍事的活動が活発化しているため、世界各国が太平洋地域の安全保障にコミットメントするようになりました。

 また、強大な中国の軍事力に対抗するために、一国よりも国際的な軍事的連携を活用する必要があり、演習では近隣のシンガポール、インドネシア、インドのほか、遠くヨーロッパからイギリスやドイツ、フランスなども戦闘機を持ち込み参加しています。


オーストラリアのダーウィン基地内を滑走する航空自衛隊のF-2戦闘機(布留川 司撮影)。

 そういったなか、初参加となったのが日本の航空自衛隊です。派遣されたのは茨城県小美玉市の百里基地に所在する第3飛行隊のF-2戦闘機で、同機6機と人員約150名がオーストラリア空軍のダーウィン基地に派遣されています。なお、これまでにF-2戦闘機が海外に派遣されたのはアメリカのグアムとアラスカのみであるため、それ以外の国の展開は今回が初めてとなります。

 これだけ各国の戦闘機が集まり、演習期間中は離発着が頻繁に行われるため、オーストラリア軍は公式WEBサイトでフライトスケジュールを公表するなど、地元住民への配慮を見せています。

 その一環からか、軍事演習でありながらも一般市民を対象にしたパブリックイベントが用意されており、8月25日にはダーウィン市街にあるミンディルビーチにおいてフライパス&ハンドリングディスプレイというエアショーが開催されました。

 このイベントでは「ピッチ・ブラック2022」に参加する機体が、国ごとに分かれて実際にビーチ上空を飛行。無料開放されたビーチには多くの地元住民たちが詰めかけ、各国の現役戦闘機の姿を直接見ることができました。

ノリは「戦闘機の盆踊り大会」?

 ビーチ近くの駐車場には食べ物や土産物の屋台も出店されており、来場者はビーチチェアやシートを広げて海遊びをしながらのんびりと観戦。さながら軍主催の「戦闘機の盆踊り大会」といった雰囲気をビーチ周辺に醸し出していました。地域住民への説明と、軍の活動のPRという点では、こうした気軽なイベントの方が向いているのかもしれません。

 エアショーでは航空自衛隊を含む13か国の軍用機が飛行。アメリカ海兵隊のティルトローター機MV-22「オスプレイ」はビーチ上空でホバリング飛行を行い、空中給油機を持ち込んだイギリス空軍やドイツ空軍は、戦闘機との編隊飛行まで行いました。


ダーウィン市街のミンディルビーチに設けられたフライパス&ハンドリングディスプレイの会場。多くの人々はビーチでの日光浴をしながらのんびりとしたムードで見ていた(布留川 司撮影)。

 主役のオーストラリア空軍は最新鋭ステルス戦闘機F-35A「ライトニングII」でアクロバット飛行まで実施して、自国の空軍力を爆音とともにアピール。とはいえ、筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)の横で見ていた市民は「アレの燃料代っていくらなんだろうね?」という厳しい意見を投げかけていました。

 航空自衛隊のF-2戦闘機は2機編隊で通過飛行を1度行っただけでしたが、恐らく海外の一般市民の前で展示飛行するのは初めての機会となったのではないでしょうか。F-2の原型はアメリカ製のF-16「ファイティングファルコン」であり、今回のエアショーでもF-16はインドネシア空軍、シンガポール空軍、韓国空軍の機体が参加していたため、一般市民から見ればどれも同じ機体に見えたことでしょう。

 ただ、筆者が現地で感じた印象では、会場のアナウンスから「ジャパン」「ミツビシ(F-2を生産した三菱重工の事)」といったフレーズに反応してくれた人々が多かったように思われます。

 ちなみに、F-2が飛び去った後、筆者の近くにいた男性が「アレがお前の国のジェットか、ミツビシ製なのか?」と笑いながら話しかけてきました。日本の防衛政策といった細かいハナシは伝わらなかったようですが、日本の戦闘機の存在はしっかりと認識してくれたようです。