厳しいマークに苦しみながらも、奮闘を見せた久保。写真:Ricardo Larreina/アフロ

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 スペインは歴史的に対立しているいくつかの民族で構成されている国だ。またジョークが大好きで、自分も笑いの対象にする、たくさんの陽気な人たちが住んでいる国でもある。 そんな中、一般的なのはある地域の人たちが他の地域の人たちのことをイジり、それぞれのアイデンティティを掲げることだ。よくあるジョークのひとつに、バスク人に関してのものがあり、横柄で、粗暴で、大げさな人間として描写されることが多い。不思議なことに、すべてのバスク人がその定義のされ方に納得しているわけではなく、より正確かつ的確な表現をすれば、ビルバオの人々に当てはまる。 もちろん物事を一括りにすることは良くないが、レアル・ソシエダの本拠地、サン・セバスティアンを県都とするギプスコアの人々は、慎重で控えめなことで知られ、隣人(ビルバオの人々のこと)と異なることを誇りとし、一緒にされることに抵抗を感じている。 


 バスクサッカーの熱く激しいライバル対決へようこそ――。100年以上にわたってお互いがお互いをライバル視しながら、競い合ってきたアスレティック・ビルバオとレアル・ソシエダによるダービーは友好的な雰囲気に包まれることで知られる。両クラブのファン同士がキックオフまで同じ時間を共有し、それぞれのチームのユニホームを着たカップルが並んで座る光景を目にすることも珍しいことではない。 選手たちの間でも、バスク代表の一員として子供の頃から一緒にプレーした者は少なくなく、その後も良好な関係を保ち続けている。しかし、唯一そんな友好ムードが通用しない場所がある。ピッチ上だ。プレシーズンマッチだからといって関係ない。 5日に行われたダービーも、エルネスト・バルベルデ、イマノル・アルグアシルの両監督が開幕前のテストマッチに過ぎないと明言していたにもかかわらず、昨シーズンのバスクNO.1チームを決める一戦のように捉えられていた。 ソシエダは午前中にエイバルとのギプスコア・ダービー(1-2)を戦っており、タケ・クボ(久保建英)も万が一の事態に備えてベンチ入りしていた。 結果的にソシエダは、ビルバオに0-1で敗れ、ダブルヘッダーで連敗を喫してしまったわけだが、まず注目は、アルグアシル監督が2試合とも4―3−3を採用したことだ。14日に開催されるカディスとのラ・リーガ開幕戦でも、このシステムが選択する可能性は高いだろう。 その中で、タケはビルバオ戦で右ウイングとして先発出場。青と白のストライプのユニホームに身を纏ってビルバオと戦うことが、特別な出来事であることを悟るのに、さほど時間はかからなかった。ただでさえユーリ・ベルチチェの徹底マークに手を焼いていた中、挨拶代わりに強烈なタックルをお見舞いしたのが大ベテラン、ラウール・ガルシアだった。 


 タケにとっては非常に難しい試合だった。野次を飛ばすビルバオのベンチ入りメンバーを背に向けながらプレーし、おまけに幾度も相手の激しいプレーの標的になっても、ファウルを取ってもらえなかった。 しかしそんな中でも、物怖じするどころか、ボールを要求し続け、劣勢の展開を打開しようとした。持ち味を発揮できたわけではなかったが、相手GKアンデル・イルへプレスをかけ、あわやというシーンを作るなど沈黙するチームメイトを尻目に、一人気を吐いた。【動画】得意の仕掛けで打開を図る久保&現地記者も注目したGKに猛然とプレスを掛けたシーン
 とりわけ相手を背にしてボールを受け、一瞬のターンでアドバンテージを得るファーストタッチの正確さと俊敏性は特筆に値する。中央に顔を出すことが多かったのは、ユーリという優秀なDFが前方に立ちはだかっていたこともあるが、タケ自身もサイドに張りっぱなしになるよりも、頻繁にボールに関与したほうが快適にプレーできるからだろう。 後半になると、ソシエダはやや巻き返し、敵陣でプレーする時間帯も増えた。タケも幅広く動きながら、強気の姿勢を持ってプレーし続けた。後方のアンドニ・ゴロサベルのサポートも得て、連携で崩そうと試みたが、惜しむらくは最終局面において閃きや怖さに欠けていたこと。わずかながらゴール前に侵入するシーンもあったが、フィニッシュまで持ち込むことはできなかった。結局、ディエゴ・リコの退場処分でチームが1人少ない状況になったこともあり、タケは残り15分でベンチに下がった。 残念ながら初バスクダービーは不発に終わったが、あらゆる角度から考慮すると、タケがカディスとの開幕戦において右サイドでスタメンに名を連ねるのは間違いないだろう。プレシーズンマッチであっても、ダービーに敗れることは決してジョークでは済まされない。タケもこの日、我々にとってのその譲れない一線を理解できたはずだ。文●ミケル・レカルデ(ノティシアス・デ・ギプスコア紙)翻訳●下村正幸