中日・高橋宏斗(左)と阪神・浜地真澄【写真:荒川祐史、小林靖】

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開幕から低迷してきた阪神が抜群の投手力で浮上

 2位から6位までが僅差で順位争いをしながら、首位・ヤクルトとの差をじわりじわりと詰めてきた7月のセ・リーグ。ここでは「月間MVP」をセイバーメトリクスの指標で選出してみる。

 選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。まずは、7月のセ・リーグ6球団の月間成績を振り返る。

○阪神=14勝6敗
打率.243、OPS.631、本塁打11
先発防御率1.04、QS率80.0%、救援防御率1.90

○DeNA=10勝7敗2分
打率.251、OPS.665、本塁打15
先発防御率2.99、QS率42.1%、救援防御率2.67

○中日=10勝8敗1分
打率.254、OPS.666、本塁打12
先発防御率2.63、QS率63.2%、救援防御率1.59

○広島=11勝11敗
打率.249、OPS.677、本塁打20
先発防御率3.55、QS率54.5%、救援防御率2.97

○ヤクルト=7勝13敗
打率.247、OPS.712、本塁打23
先発防御率5.48、QS率35.0%、救援防御率4.30

○巨人=5勝12敗1分
打率.237、OPS.697、本塁打25
先発防御率5.33、QS率33.3%、救援防御率5.06

 この7月で特筆すべきは阪神の投手力だろう。先発、救援ともに1点台の防御率、1以下のWHIP(1イニングあたりの出した走者数、先発0.82、救援0.81)を記録した。先発は6回を3失点以下にまとめるクオリティスタート(QS)を、20試合のうち16試合で達成した。また、7月勝ち越しを決めたDeNAと中日も投手力が安定しており、中日の救援防御率は阪神を上回る1.59。コロナ禍に見舞われてしまったヤクルトと巨人は先発防御率5点台と大苦戦の7月だった。

村上宗隆は打撃4部門でリーグトップの安定ぶり

 さらに、セイバーメトリクスの指標による7月の月間MVP選出を試みる。打者部門の評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合より、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」を用いる。各チームの「wRAA」上位2名は以下の通り。

○ヤクルト 村上宗隆12.37、サンタナ3.83
○阪神 近本光司5.38、大山悠輔3.89
○DeNA 佐野恵太8.58、ソト4.02
○広島 マクブルーム8.26、秋山翔吾4.15
○巨人 中田翔7.26、坂本勇人3.43
○中日 岡林勇希5.88、ビシエド4.85

 7月8日に日本球界に復帰した広島の秋山翔吾が、16試合で59打数17安打、OPS.868と早速安定の活躍を見せ、チーム貢献度でも2番目の数値を記録したのはさすがである。

 月間MVPの選定については、6月に記録した異次元の数値には及ばないものの、7月もOPS1.213とリーグトップとなったヤクルトの村上宗隆がやはり最有力候補だろう。打率.318こそリーグ8位ではあるが、本塁打8、四球19、出塁率.471、長打率.742はすべてリーグ1位と安定の領域だ。

 実は村上は6月29日に1試合2本塁打を記録して以来、7月8日までの8試合で本塁打0、27打数5安打、打率.185と低迷の時期もあったのだが、7月後半だけで本塁打8。特に7月31日の第3打席から日本記録となる5打席連続本塁打を放つなど、7月前半の苦戦を払拭する活躍を見せた。コロナ禍でチーム運営もままならないヤクルトにおいて孤軍奮闘し、チームを牽引する村上宗隆を7月の月間MVPに推薦する。

盤石の阪神先発陣…その数字を上回る中日の2年目右腕

 投手部門の評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標「RSAA」を用いる。チームの守備能力と切り離した投手個人の失点率を推定する指標である。各チームの「RSAA」上位2名は以下の通り。

○ヤクルト 久保拓眞1.85、高橋奎二1.62
○阪神 ガンケル3.88、浜地真澄3.33
○DeNA 浜口遥大4.88、入江大生3.52
○広島 床田寛樹2.03、栗林良吏1.94
○巨人 戸郷翔征2.68、高梨雄平2.14
○中日 高橋宏斗4.93、小笠原慎之介3.58

 7月の阪神の投手陣が出色だったことは既に述べたが、特に先発投手陣は圧巻だった。

○ガンケル 3試合、防御率0.00、WHIP0.65、QS率100%
○西勇輝 4試合、防御率0.66、WHIP0.73、QS率100%
○青柳晃洋 4試合、防御率1.00、WHIP0.81、QS率100%
○伊藤将司 3試合、防御率1.17、WHIP0.87、QS率100%

 4人が防御率1点台、WHIP1以下、QS率100%を達成している。また救援投手陣の中でも最も目立った活躍をしたのが浜地真澄だ。10試合に登板し、防御率0.00、WHIP0.69、被打率.182、奪三振率10.38とチームに大きく貢献した。だが、そんな阪神の投手陣を超える数値を示した投手がいる。

 中日の高橋宏斗である。登板3、投球回21回1/3、1勝1敗、防御率0.84、QS率100%、奪三振率11.81、WHIP0.56、被本塁打1、ゴロ24、内野フライ2、外野フライ14、ライナー1、GB/FB1.50、空振り率17.6%という数字を残した。特に7月29日の広島戦では、8回1死まで打者24人に対してノーヒットピッチングを披露した。25人目の小園海斗が外角低め、見逃せばボールと判定されそうなスプリットを泳ぎながらもセンターに弾き返し安打としたが、その試合でスプリットでの空振り率は脅威の35.3%であった。

 スライダーをほとんど投げず、ストレートとスプリットを主体としたピッチングで多くの空振りを取れるのは、リリースポイントや球の軌道が見分けにくいフォームをしているからだと考えられる。セ・リーグ投手陣の中でも投球内容が良かった高橋宏斗を、セイバーメトリクス目線で選ぶ7月の月間MVP投手部門に推挙する。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせなどエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。