※この記事は2021年03月12日にBLOGOSで公開されたものです

東日本大震災の発生から節目となる毎年3月11日に、東京電力の歴代社長が続けてきた福島県への訪問が今年は行われず、小早川智明社長は東京に終日滞在してオンラインで県内の社員らに訓示を行った。

東電ホールディングス広報室は、新型コロナウイルスの感染拡大で東京など1都3県に緊急事態宣言が出ていることから「状況を鑑みた」と説明している。一方、3月11日の訪問は原発事故対応への東電の姿勢の現れとして受け取る被災者も多く、「10年の大きな節目に残念」という反発の声も上がる。

3月11日は社長の福島訪問が慣例 今年は東京でオンライン訓示

東電は2011年3月の福島第1原発事故を受け、13年以降は毎年3月11日に西澤俊夫、廣瀬直己の歴代社長が第1原発など福島県内を訪れて、社員に訓示するのが慣例となっている。

小早川社長も17年6月の社長就任以降、欠かさずに福島を訪れ、昨年は第1原発の新事務本館で「事故を事前の備えで防げなかったことを真摯（しんし）に受け止めないといけない。安全には終わりがない」などと訓示。地震が発生した午後2時46分には黙とうも捧げた。

ところが、今年は3月5日に新型コロナの感染拡大防止のため、社長は東京からオンライン形式で訓示を行うと発表。11日は東京都千代田区の本社からオンラインで第1原発の社員らに語った。

地元紙は「当事者としての責任に薄れ」と批判

地元紙の一つ・福島民友新聞は『東京電力社長、3.11取材拒否　福島来県せず、訓示はオンライン』と題した記事で、「東電の当事者としての責任感が薄れていることが浮き彫りに」などと厳しく切り捨てた。他のメディアも批判的に伝えている。

10年が過ぎた今も、原発事故の避難者は約３万5700人に上る。第1原発周辺は今も約337平方キロメートルが自由に立ち入りできない帰還困難区域のままだ。

ある避難者は「コロナでなければ来ていたはず」

避難者からは厳しい意見が目立つ。

第1原発が立地する大熊町からいわき市に避難している男性(44)は「やっぱり3月11日は特別なものだから、感染防止対策をした上で来てほしかった。福島で話す姿を見て、福島を捨ててないと確かめている」と話す。

Twitterでは、「リーダーの言葉と行動はとっても大切」「傲慢の極み」といった批判的な書き込みが目立つ。

一方、大熊町からいわき市に避難している60代の女性は「コロナがなければ福島に間違いなく来ていただろう。コロナの最中でも福島に行くか、コロナだから東京に残るべきかの判断で、企業として後者を選んだだけのことだろう」と語った。

来年度以降について広報は「福島訪問は当然」

毎年3月11日には、福島を訪れた社長が、地元の報道機関の取材に応じるのも通例になっていた。しかし、今年はオンラインで取材に対応することも断った。

オンラインでの取材を受け付けなかった理由を広報室に尋ねたが、「今年は福島を訪れることができなかったので、取材を受けることもできなかった」との回答に終始した。

来年以降については、新型コロナの情勢を踏まえながら社長の福島訪問を前向きに検討するといい、広報室は「福島への責任を果たすことは、会社としての一丁目一番地。社長として福島を訪れるのは当然のこと」としている。