※この記事は2020年08月30日にBLOGOSで公開されたものです

安倍総理が、7年8ヶ月にわたる総理の辞任を表明しました。来月早々にも新しい自民党総裁が誕生し、総理が交代する見込みです。総理辞任の衝撃が冷めやまぬ中、世の中の関心は「次の総理たる自民党総裁は誰になるのか」に集まっていますが、選挙プランナーである筆者は「総裁選からの早期解散総選挙」の可能性が高まっていると感じています。この選択肢が急浮上している理由について、解説していきたいと思います。

安倍総理のままで解散総選挙を行えば無事で済まなかった自民党

安倍総理は結果的に辞職の道を選びましたが、総理自身が「治療を続けながら(総理職の継続)ということももちろん考えた」と記者会見で述べていた通り、総理としての職務遂行を最後まで模索していたようです。ただ、内閣支持率の低下が指摘されていた中で、立憲民主の合流新党や玉木新党などの野党再編といった動きもあり、現実的にこのままの体制で衆議院議員総選挙を迎えた場合、(仮に内閣改造などを行った上でも)与党にとっては厳しい選挙になっていたことは間違いありません。

まだ合流新党も結党に至っていない中でどれほどの候補者調整がつくのかを予想するのは難しいところですが、仮に枝野代表をはじめ野党幹部にとって一番の理想である立憲民主党を中心とした野党共闘体制の確立がなされる前提で、直近の情勢調査や過去の選挙結果から選挙結果をシミュレーションすると、特に関東を中心とした都市部の小選挙区や「1区」では、与野党の議席逆転現象が起きることが示唆されています。選挙の時期などにもよりますが、内閣支持率が30%前後で解散総選挙となった場合、与党は憲法改正の発議要件たる圧倒的多数議席(現在の衆議院定数で言えば310議席)はもとより、安定した国会運営のために必須である絶対安定多数議席(同、261議席)をも失う可能性があったと筆者は分析しています。

9月は自民党総裁選と野党合流で波乱含みに

ただ、現実には安倍総理は辞職という道を選択しました。自民党は、もう安倍総裁の下で選挙を戦うことはなくなったのです。今後、自民党総裁選が行われて、新しい総裁が総理となり、組閣が行われる見通しです。まだ昨日の今日で様々な憶測が飛び交っている段階ですが、少なくとも9月1日の自民党総務会で総裁選の形式は決定され、9月3週目には新総裁が誕生するようなスケジュールになるでしょう。

果たして党員党友が投票する通常通りの総裁選挙になるのか、はたまた衆参国会議員と都道府県連代表による両院議員総会による選挙になるかは調整が続くものと見られますが、すでに総裁候補予定者とも言われている石破茂元幹事長は通常通りの総裁選挙実施を訴えているのに対して、二階派幹部らは両院議員総会による選挙を推しているとされており、実質的に総裁選の実施方法そのものが総裁選のゴール設定になりつつある様相です。

筆者の関心は、野党合流の動きとの対応です。立憲の合流新党は9月16日に結党大会を開催することとなっています。これに呼応する形で9月15日に自民党総裁を選出するという報道もこの原稿を書いている間には飛び交っていますが、仮に総裁選を両院議員総会方式で開催するにしても、自民党都道府県連の中には、都道府県連代表の3票を都道府県連所属の党員党友に対する郵便投票を実施しその票数に応じてドント方式で配分する形式を採用してきたところも多く、こういった形式がとれないタイトな日程での総裁選実施が果たして総務会で合意がとれるのかが疑問として残ります。

それでもなお、このタイトな日程での総裁選実施で押し切った場合には、都道府県連は地方議員や都道府県連の幹部で投票先を決定することになるでしょうから、実質的には都道府県連所属国会議員の意向が最大限に反映された結果をもたらすことになりますし、その方法が民主的だったかという疑問がつきまとうことになるでしょう。そこまでして、合流新党を意識して次期総裁の選出を急ぐ必要があるのか疑問ですが、一方でこれだけ総裁選を急ぐのは、早期解散総選挙というオプションを政権与党が持ちたいという意向もあるのではないでしょうか。

与党に有利な「10月総選挙」は現実的な選択肢

自民党の次期総裁が正式に選出されれば、安倍総理は正式に内閣総辞職をし、召集された国会での首班指名選挙を経て新しい総理が9月後半にも誕生します。通例では、このあと組閣人事と党役員人事が行われた上で、所信表明演説となりますが、今回は野党第一党の合流新党も結党大会を行った直後であり、玉木新党の問題や野党統一候補としての調整は残されたままで選挙準備が遅れているという状況を考えれば、このタイミングは新総理にとって絶好の解散総選挙のチャンスとも言えます。

更に言えば、野党側で今も行われている合流新党の動きは必ずしもスムーズとは言えず、未だに支持母体の都合などから合流新党か玉木新党か決断を下せていない現職議員も複数いるほか、無所属での活動や第三の新党などという話も聞こえている状況です。このような状況が9月16日の結党大会までに綺麗な形で収束するとも思えず、野党にしこりが残っている段階で解散総選挙を行えば、与党にとっては間違いなく有利に働くでしょう。

10月頭の総選挙というシナリオで言えば、仮に新しい総理総裁が誰であっても、期待とご祝儀で内閣支持率・与党支持率は跳ね上がりますから、この点において与党側が衆院比例ブロックも含めて議席増を見込めることも解散総選挙を行う理由になります。安倍政権にとってダメージが大きかった「森友・加計」問題や「公文書偽造」問題などの厳しい指摘も受けなくなることから、野党は攻撃材料を失うことになり、選挙焦点を作りにくい環境というのも政府与党にとっては好都合です。

また、10月は政党交付金支給月ですが、交付金支給前に選挙を実施することで、資金力でも有利に立つという戦術も同時に成り立ちます。安倍総理は、辞任のタイミングを「このタイミングしかなかった」と会見で述べましたが、これはコロナの第二波が収束傾向にあることを意味するのと同時に、今冬以降の第三波への警戒も当然含まれているでしょう。そうなると、解散総選挙も今冬以降は現実的ではなくなることをも意味しますので、今のうちに解散総選挙を行うという案が決して乱暴なアイデアではなく、むしろ現実的な選択肢の一つだという風に考えるのが自然ではないでしょうか。

早期解散総選挙で次期総裁の長期政権化も

 

仮に上記に描いたような解散総選挙となった場合のスケジュールはどうなるでしょうか。自民党総裁選の投開票が9月15日までに行われれば、(新総裁がどのタイミングで「解散総選挙」を宣言するかによりますが、仮に新総裁が総裁候補としての公約として、もしくは当選後速やかに「早期解散総選挙」を宣言するとして、)4連休中に国会議員は地元に戻って主要な挨拶回りと最低限の選挙準備を済ました後に、23日から25日までの間に国会召集、首班指名、解散総選挙という流れになるでしょう。

そうなると、前回(第48回)衆議院議員総選挙と同じようなスケジュールになり、10月13日公示・25日投開票や10月20日公示・11月1日投開票といったスケジュールが現実味を帯びてきます。公選法上の規定や、米大統領選挙が11月3日に行われることを考えれば、これより遅いスケジュールは考えにくく、また11月1日は大阪都構想の投開票日の本命であることを考えれば、「10月13日公示・25日投開票」を軸に進むのではないでしょうか。

ここまで述べてきたように、総理総裁選出後の早期解散総選挙は、政府与党にとっては大きなメリットがある一方、野党にとっては攻撃材料を見つけることもできずに厳しい選挙戦となる可能性が高いと言えます。コロナの状況が大きく変化すればここまで述べてきた解散総選挙シナリオも難しくなるでしょうが、ある程度の収束傾向のうちに解散総選挙を経て、衆議院議員の任期をリセットすることができれば、次期総理総裁の長期政権化も可能になるのではないかと考えられます。

来年9月には次期総裁の最初の任期満了を迎えますが、直近の衆議院解散総選挙で大勝していれば、わざわざ総裁を下ろす必要はなくなること、総裁2期目の任期満了と衆議院議員の任期満了が重なってくることを考えれば、1年プラス3年で4年という政権安定化に道筋が立つことになるでしょう。第二次安倍政権以前の総理が(与野党問わず)ほぼ1年交代であったことを考えれば、この4年政権というのも十分に長期政権と言える気がします。まずは、ここまでのシナリオを見据えた形での総裁選がどのような構図になるのかに注目をしたいと思っています。