※この記事は2019年09月11日にBLOGOSで公開されたものです

なんでも調べる放送作家として今回私が調査を行ったのは、日本中で盛り上がっているタピオカミルクティー。最近では、猫も杓子もタピオカミルクティーな日本。ブームは都心部以外にも波及し、全国にタピオカ専門店が乱立。チェーン店でもタピオカを扱う店が増えている。

私のような30代おじさん放送作家は「行列に並んでまで買うほどなのか?」と考えてしまうが、ここで思考を停止してはいけない。興味はあるが行列に若者と一緒に並ぶのが恥ずかしいという諸兄に代わって、真夏の新宿で汗だくになりながらタピオカを飲み比べてきた。

そこで今回はおじさんが行列に並んででも飲むべき、おじさんの舌に合うタピオカミルクティーの調査結果を報告する。

訪れた店は「春水堂」「THE ALLEY」「ゴンチャ」「パールレディ」「CoCo都可」「一芳」の6店舗。1日で6店舗を巡ることができず、初日に訪れた「春水堂」と「パールレディ」は集合写真に入っていない。この6店舗、おじさん読者にはピント来ないかもしれないが、若者なら一度は足を運んだことのある人気店ばかり。どの店舗も土日であれば行列は避けられない。私自身、初日は土曜日に調査を行ったが、あまりの行列と炎天下に体力を奪われ、6店舗巡ることを断念。それぐらい今年の夏のタピオカミルクティーブームはすごかった。

タピオカミルクティー、6店舗を飲み比べ

最初に訪れたのはタピオカミルクティー発祥の店として有名な春水堂。

新宿駅直結のルミネエスト新宿店を訪れた。土曜日の午後2時ということもあり、30人ほどの行列。並び始めるとあっという間に列は伸びて60人ほどに。若い女性が多い中、カップル、母娘、外国人女性が並んでおり、男性一人は私だけだった。待ち時間20分ほどでお目当てのタピオカミルクティーを購入。

周囲の同世代から「タピオカミルクティーは甘くて…」と聞いていたが、春水堂のタピオカミルクティーは、ほんのりと甘い程度。タピオカのサイズも9mm~1cm程度と他の店舗に比べて小粒。発祥の店だけあり、総合的にバランスの取れたタピオカミルクティーだった。

Gong cha新宿東南口店

新宿駅から徒歩圏内のこちらの店舗もやはり行列。並んでいるのは春水堂と同じように女性が多い。ブラックミルクティー+パール(タピオカ)はほどよい甘さでお茶の香りを楽しめた。

THE ALLEYルミネ新宿店

おしゃれな鹿のロゴでおなじみのTHE ALLEYは6店舗の中でも最も混んでいたように感じた。ロイヤルNo.9タピオカミルクティーはさっぱりとしたお茶の味が特徴で、やや甘め。独特の風味を感じる味わいだった。タピオカのもちもち感はやや少ないように思えた。

CoCo都可新宿西口店

台湾発のタピオカミルクティーとフレッシュジュースの専門店。こちらのタピオカミルクティーは甘みが強い。タピオカの粒もしっかり甘いため疲れている時に飲みたい一品。他の店舗に比べて客層が若い印象を受けたのは、ドリンクの甘さと店のポップな外観が影響しているかもしれない。

パールレディ新宿東口店

パールレディはタピオカとクレープが楽しめるお店で、タピオカをレインボーカラーやチョコ入りの「チョコタピ」に変更することができる。パールミルクティーを飲んだがしっかり甘かった。

カラダが甘いものを欲している時に最適のドリンクである。他店舗に比べて、パールミルクティーが1杯290円と安いのも特徴の1つ。(他店舗は500円前後)

一芳(イーファン)新宿店

実はこの店、全くノーマークだったのだがタピオカミルクティーを求めて新宿の街をさまよっていた時に見つけた。他店舗に比べて長い行列で、最初は何の店か分からず、好奇心で行列の先頭まで歩いたところタピオカミルクティーも扱うフルーツティーの店だと判明した。

あまりの行列で後日、客の少なそうな時間に並び直したのだが、お茶を売りにしている店だけあってタピオカミルクティーもミルクティーそのものが美味しい。甘さもほどよく30代男性の舌にちょうどよい味。タピオカのもちもち感もあまり強くなく、あくまでも主役はお茶という印象のタピオカミルクティーで、行列ができるのも納得である。

このように各店舗を巡り、味、タピオカのサイズ、印象を表にまとめたので参考にしていただきたい。

専門店6店舗を飲み比べて感じた印象は、お茶の味を売りにした店のタピオカミルクティーは甘過ぎず、おじさんでも美味しくいただけるということである。

店名 タピオカサイズ 甘さ 備考 THE ALLEY 1.2cm やや甘め お茶の味がさっぱり系 春水堂 1.1cm バランス良し タピオカは硬め Gong cha 1.0cm ほどよい甘さ お茶の香りを楽しめる CoCo都可 1.0cm しっかり甘い タピオカも甘味が強い パールレディ 1.5cm しっかり甘い 価格が安い 一芳 1.2cm ほどよい甘さ ミルクティーが美味しい

タピオカの輸入量は4.3倍に

連日大行列のタピオカ専門店。日本が輸入しているタピオカの量も当然ながら急増していた。台湾の行政院農業委員会によると、2019年上半期の台湾製タピオカの日本向けの輸出量は4,552トン。輸出額は日本円で約15億3,000万円と前年同期と比べ約7倍に急増している。

タピオカブームは日本だけに限ったことではない。台湾の上半期のタピオカ輸出量は計2万6,823トン。前年同期比で9割増である。輸出額は4,950万米ドルで、前年同期比で約2.2倍。タピオカの需要は世界的にも高まっているのだ。

タピオカの生産量は台湾全体で1日当たり300トン以上。製造業者は20~30社あり、一部の業者は台湾だけでなくベトナム、タイ、中国、日本にも工場を設けている。

台湾の地元紙「自由時報」には「日本でのブームを受けてタピオカの輸出価格が上昇」との記載があり、以前までは1トン当たり2000米ドルで取り引きされていたものが、去年は3000米ドルまで値上がりしたという。

共同通信も2019年上半期のタピオカの輸入量が過去最高になったと報じている。人気の背景にあるのは若い女性を中心としたタピオカブーム。大阪税関によると、2019年上半期の全国のタピオカ輸入量は前年同期比で4.3倍の4471トン。輸入額も5.7倍の15億円でいずれも過去最高。台湾の行政院農業委員会の発表とほぼ同じだ。

大阪税関の担当者は「かき氷やサラダなど、飲み物以外にも利用する飲食店の動きが広がっており、7月~12月も好調を維持するだろう」と話している。

台湾製のタピオカの出荷が急激に増えていることを考えると、日本で新規のタピオカ入りドリンクを扱う店舗が増えていることも納得がいく。では、日本の店舗向けにタピオカを販売する業者は大きな利益を得ているのではないか。調べてみた。

業者が語る「タピオカは入荷10分で売り切れる」

タピオカやタピオカミルクティーに欠かせない太いストロー。インターネット通販でカップなどを業者向けに卸売販売しているメーカーAに電話取材。匿名を条件に話を伺った。

メーカーAは「売上、出荷量の具体的な数字を公表することは難しいですが、昨年10月頃からタピオカの売り切れ状態が続いています。毎日の生産分が入荷から10分程度で完売という状況」と語る。

タピオカそのものが一瞬で売り切れるので、タピオカミルクティーに必要なカップや太いストローといった資材の売上は横ばいだという。オリジナルの供給ルートがない限り、新規での参入は難しいようだ。

飛ぶように売れるタピオカ。裏を返せばそれだけ儲かるということだが、原価はいくらなのか。タピオカの卸売店ではタピオカミルクティー150杯分(タピオカ3kg)が3758円(税込み)で販売されている。1杯当たり約25円。

春水堂やTHE ALLEYなど人気店の販売価格はMサイズ500円。タピオカ以外にお茶やミルク、容器などの資材代を考えても原価は1杯100円程度で、利益は400円。飲食店の原価率は30%が目安といわれることを考えると原価率がいい商品といえる。

週刊ポスト(2019年6月28日号)によると、タピオカミルクティーの原価は30~40円で、1店舗の利益は1ヶ月で80万~100万。ブームの後押しもあって、割がいいビジネスである。

さらに出店には大きな店舗も不必要。テイクアウトなら座席も不要で、調理も手軽なため大きな厨房も必要ない。初期投資が少なくブームに乗れば回収も容易である。

タピオカを調達するルートさえあればビジネスとしては手軽というわけだ。

過去と現在のタピオカブームの違いは?

過去のタピオカブームと現在のタピオカブームは何が違うのか。タピオカ入りのブラックミルクティーが人気の台湾ティー専門店「Gong cha」の広報・後藤さんに伺った。

--過去にもタピオカブームがありましたが、これまでのタピオカブームとは何が違うのでしょうか?

過去のブームは調理済みのタピオカを店舗でレンジアップをしたり、湯煎にかけて戻してからミルクティーなどのドリンクに入れることが多かったと思います。しかし今は輸入した乾燥タピオカを約1時間かけて仕込んでいるためタピオカ特有のモチモチ食感を実現しています。

--今回のタピオカブームはいつ頃からですか?

2018年の春頃から人気に火が付き始めましたが、今回がタピオカ第3次ブームだと思います。きっかけは台湾ブームが大きいでしょう。以前に比べて台湾旅行が身近になりました。現地で飲んだタピオカミルクティーが美味しかったので、日本でも飲もうという方が増えたのだと思います。

--Gong chaのタピオカミルクティーの特徴は?

Gong chaは台湾南部の都市・高雄で2006年に誕生。日本に上陸したのは2015年になります。上質な台湾ティーをお客様に楽しんでいただきたいというのがコンセプト。お茶そのものにこだわっており、茶葉の風味をしっかり味わえるのが特徴です。

タピオカブームの火付け役は台湾か?韓国か?

今回のタピオカブームの背景にある台湾人気だが、外務省が調査した2012~2016年の日本人の訪問先ランキングで台湾は4位。JTB総合研究所のデータでは、2019年3月の出国者数は約21万6000人で韓国に次いで2位となっている。

このようなデータもある。全国修学旅行研究協会によると、2016年度の日本から台湾への修学旅行生は4万1878人(262校)、2位の米国(ハワイ、グアム、サイパン含む)が3万6661人(254校)、3位のシンガポールは1万9286人(142校)。

2006年度の台湾への修学旅行生は3552人で、10年で10倍以上に増加。日本から近いこと、国際的に友好関係にあるという面を考慮しても台湾人気は絶大である。台湾旅行をきっかけに本場のタピオカミルクティーを飲み、日本の店舗に足を運ぶケースも大いに考えられる。

ただ取材を続けていく中で別の説が現れた。30代の女性にタピオカミルクティーについて伺うと「タピオカミルクティーって台湾ブームが火付け役みたいに言われていますけど、韓流ブームが大きいと思います」という話をされた。

本当なのだろうか。取材をしたGong chaだが、実は日本よりも早く韓国でブレイク。台湾の企業であるGong cha(韓国では「貢茶」)は、日本に出店する3年前、韓国に上陸し、ソウルの弘大(ホンデ)に韓国1号店をオープン。一瞬で人気となり、2013年10月には韓国内で100店舗達成。2014年6月には200店舗、2015年4月には300店舗と恐るべきスピードで店舗数を増やしている。

一方、日本はこれだけのタピオカブームにもかかわらず、Gong chaが今年(8月1日時点)日本に出店したのは13店舗。計画では今年の年末までに50店舗に拡大するという。出店するペースでいえば、日本は韓国よりも遅い。

Gong cha koreaの2018年の売上高は1340億ウォン(日本円で約117億円)で、2016年比で倍増。今年は1800億ウォンとさらに伸びる見通しだという。

こうした現状を考えると、韓国旅行の時にタピオカミルクティーを知り、帰国後、日本で再びタピオカミルクティーを楽しむ人が多いとも推測できる。

台湾人気、韓国人気が日本でのタピオカブームを後押ししたと考えると、アジアを中心としたグローバルな盛り上がりである。そしてこの盛り上がりはすでに海を渡り、欧米まで浸透し、カップの底に沈んだタピオカが泡のように見えることからバブルティーと呼ばれている。アメリカやイギリスでもチャイナタウンを中心に販売されており、オーストリアのマクドナルドでは2012年からバブルティーが販売されている。

あの白いタピオカはどこへ行った

タピオカブームについて調査を進めていく中でふと思ったのだが、かつて流行った白い透明なタピオカはどうなったのだろうか。私の知りうる限り前回ブームの時は粒がイクラサイズで、色も透明に近い白だった。それが今のタピオカは黒い。

タピオカの原料はイモの一種であるキャッサバ。キャッサバから抽出したでんぷんの粉を丸く固めて、熱湯で煮るとタピオカとなる。タピオカはドリンクばかりが注目されるが、ミスタードーナツのポン・デ・リングの原料にも使われている。あのモチモチとした食感はタピオカによって生まれているのだ。


キャッサバから抽出された時点ではタピオカは白い。これにカラメルなどで着色したのが現在の黒いタピオカである。有名店の中にはカカオで着色しているケースもあるという。

取材をした「Gong cha」の広報・後藤さんも「今は輸入した乾燥タピオカを約1時間かけて仕込んでいます」と話す。つまり前回ブームの時のタピオカは食感だけを楽しむものだったが、今回は食感だけでなく味も楽しむというわけである。

タピオカブームは今後どこへいくのか。この夏だけでも都心から少し離れた我が家の近所にも徒歩圏内に専門店が2店舗生まれ、週末になると行列ができている。台湾・韓国から火が付いたブームは都心部から地方へ波及。都会でなければ食べられないもの、飲めないものではなくなったタピオカだが、今後は玉石混交の専門店の中からお茶の美味しい店が生き残るだろう。

その証拠に今回取材をした「春水堂」「THE ALLEY」「Gong cha」「一芳」はタピオカではなくお茶=ティーの専門店。あくまでお茶がメインというわけだ。次にどんな飲み物がブームになるのか。その時はまた飲み比べようと思う。