※この記事は2019年08月30日にBLOGOSで公開されたものです

愛知県で開催されている国際芸術祭の「あいちトリエンナーレ2019」。その中の企画展の一つ「表現の不自由展・その後」が、激しい抗議や脅迫を受けて中止に追い込まれた。テレビの討論番組「朝まで生テレビ!」などで、言論の自由の問題をたびたび取り上げてきた田原総一朗さんは今回の騒動をどうみているのだろうか。 【田野幸伸・亀松太郎】

3日で中止になったからこそ「表現の自由」に注目が集まった

今回の「表現の不自由展・その後」は、他の展覧会で展示できなかったり、途中で中止になったりした作品をあえて展示するという企画だ。

ところが、展覧会が始まると、抗議や脅迫の電話が殺到。開催2日で、抗議の電話やメールが約1400件に達した。なかには「ガソリンの携行缶を持って行くぞ」と、京都アニメーションの放火事件を連想させるような脅迫もあった。その結果、3日目に中止が決定され、大きな問題になった。

企画展を見た名古屋市の河村たかし市長は「日本人の心を踏みにじるものだ。即刻中止にしてもらいたい」と発言し、展示の中止を求めた。政府の菅義偉官房長官も「補助金交付の決定にあたっては、事実関係を確認、精査して適切に対応したい」と述べ、補助金交付の見直しを示唆した。

これらの名古屋市長や官房長官の発言に対しては、政治権力が表現の自由を抑えこむものだと非難する声が起きている。

その一方で、「こういう企画展に抗議が殺到するのは予想できたのだから、主催者はもっと準備万端で備えるべきだった」という批判もある。「わずか3日でやめるのは腰が引けている」「こういう展覧会が今後開けなくなってしまう」という苦言もあった。

僕は、それらの批判はどれも的外れだと思っている。どんなに準備しても、こういう事態は起きるものだ。脅迫や抗議を強く意識しすぎると、結局はこんな「あぶない展覧会」が開けなくなってしまう。いろいろ忖度して、無難な番組ばかりになってしまった今のテレビがいい例だ。

今回、あいちトリエンナーレの津田大介・芸術監督や大村秀章・実行委員会会長(愛知県知事)は、抗議を予想しながら、あえて企画展を実施した。その姿勢をむしろ前向きに、高く評価したい。

表現の不自由展をめぐっては、大村知事と河村市長の間で「表現の自由の侵害ではないか」という論争も起きた。非常に面白い。大村知事が「憲法21条違反だ」と河村市長を批判したが、知事と市長が表現の自由をめぐって論争するなんて、これまでになかったことだ。

また、わずか3日で開催中止に追い込まれたからこそ、この展覧会が大きな注目を集めたとも言える。そうでなければ、ほとんどの人はこの問題に気づかなかった。しかし、大騒動になったことで、国民の多くが「表現の自由」について考えざるをえなくなった。とてもいいことだと思う。

僕は、津田氏と大村氏に対して「3日で中止してしまって残念だ」とは言わない。その代わり、「3年後にまたやれ!」と言いたい。

僕は「朝まで生テレビ!」のスタッフに「波風を恐れるな」とよく言っている。炎上するならいいじゃないか、と。波風を恐れるのはジャーナリズムの劣化だから。今回は大きな波風が起きたが、それによって国民の多くが関心をもった。その点をプラスに捉えたい。

戦争を知っている最後の世代からすると、「表現の自由」は本当に重要な問題だ。津田氏に対して「芸術監督を辞任しろ」という声もあるが、負けずに頑張ってほしい。