福岡のお土産「博多通りもん」が世界一売れるまんじゅうとしてギネスに認められたワケ - BLOGOS編集部

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※この記事は2019年08月21日にBLOGOSで公開されたものです

6月3日、福岡県の人気土産「博多通りもん」が世界一に輝いた。

「最も売れている製菓あんこ饅頭(まんじゅう)ブランド」としてギネス世界記録に認定。販売する株式会社明月堂(福岡市博多区)によると、昨年1年間の売り上げは75億9,126万1,769円にのぼり、約6,400万個が販売されたという。

1993年に販売が始まった「博多通りもん」(以下、通りもん)は、生クリームやバターなどの西洋菓子の素材を取り入れた白あんまんじゅうだ。

各地方で販売されるまんじゅうを抑え、なぜ福岡発のお菓子が世界に認められるまでになったのか。その謎を探るべく、明月堂の秋丸真一郎社長に話を聞いた。

【中田凌子、清水駿貴】

ギネス認定当日はホームページがパンク寸前の大反響

--ギネス世界記録おめでとうございます。認定から1ヶ月以上が経ちますが、変化はありますか

おかげさまで非常に大きな反響をいただきました。認定式当日はテレビやネットニュースで報じられ、通販部門がパンクしそうになるほどホームページにアクセスが集中しました。

1ヶ月ほどで止むと思っていた反響は、今も続いています。夏の繁忙期に合わせて在庫を増やすのですが、思った以上に貯まらず、生産が追いつくか心配なくらいです(笑)。

全国的な反応があったことに加え、地元の方から「福岡の誉れだ」と言ってもらえたのは本当に嬉しかったですね。

--どのタイミングでギネスに申請しようと決めたのですか

3年ほど前から社内で「もしかしたらギネスを狙えるんじゃないか」という話はでていました。そこから、今年3月に行われた明月堂の創業90周年記念パーティで発表出来ればと思い、準備を進めていたのですが、提出したデータが差し戻しになるなど、予想より時間がかかったため、6月の認定に至りました。

--ギネス社の審査は厳しそうですね。他に苦労されたことはありますか

申請のやり取りが全て英語だったことなど、手間暇はかなりかかりました。

まんじゅうというカテゴリーがこれまでギネス記録のなかになかったので、今回は「Confectionery Bean Paste Filled Bun Brand(豆あんが入った菓子)」というカテゴリーで認定されました。国内でも、かなりの接戦だったと聞いています。

ギネス最大のライバルは中国の伝統菓子「月餅」

--世界中にたくさんのまんじゅうがあるなかで、どうして福岡発の「博多通りもん」が1位になれたのでしょうか

全国の方々に可愛がってもらえた結果ではないかと思います。

実は、中国の月餅(げっぺい※)が1番の不安材料でした。まず食べる人口がものすごく多いので、絶対に負ける…と。

※月餅:中国菓子のひとつ。小麦粉の皮の中に、あん、またはナッツ、干し果実などを入れ、焼いたもの。

しかし、あんこの材料が豆だけではなく蓮の実などを使用していることから、月餅は「Moon Cake」という別のカテゴリーだとギネスワールドレコーズ社は判断したようです。

3年半の歳月をかけて開発した“しっとりあん”

--世界規模のライバルはカテゴリーが違ったわけですね。国内の他のまんじゅうに差をつけた、通りもんの魅力は何でしょうか

白あんまんじゅうの常識を覆した“しっとりあん”が他のまんじゅうと一線を画したのだと思います。

それまで、白あんを使ったまんじゅうは、食べている時にポロポロこぼれてしまったり、途中で飽きてしまうものが多かった。私も小さいころ、外側だけ食べるとか、あんこを無理やり牛乳で流し込むなどして、よく親から怒られていました。

その白あんまんじゅうのなかで、エポックメイキングな登場をしたものが通りもんでした。

国産の上質なバターや生クリームを使った、水分含有量の多いしっとりあんは、飽きのこない美味しさです。試作段階から吟味を重ねたので、販売当初から完成度が非常に高いお菓子となりました。

--こだわり抜かれて開発された通りもん。当時、味やあんの最終決定には秋丸社長も携わったのでしょうか?

製造担当の役員だった私の父も含めた、当時の開発陣が試行錯誤の末にたどりつきました。役員、開発スタッフがダメ出しを繰り返しながら、突き詰めていったと聞いています。開発には約3年半を要しました。

「完成された味」を求め4~5日寝かせるのがコツ

--開発当初の味と、現在販売されている通りもんで変化はありますか

販売当初の味を守り続けています。トレハロース(甘味料)が少しだけ入ったのですが、それ以外は重量もレシピも当時のままです。

しっとりあんが売りの通りもんは、あんのなかの水分が外側にいきわたって初めて完成します。その状態になって初めて、開発時に目標とした味になるんです。

--いきわたって初めて完成ということは、通りもんはお菓子でよく言われる、「できたてが一番美味しい」が当てはまらないのでしょうか

当時の開発陣が意図した、「完成した味」という意味では、作ってから数日たったものがベストです。実は通りもんは、出来上がりから4~5日寝かせたものをお店でお出ししています。そうしないと、味や食感が違ってしまいますので。

出来たての味をお楽しみいただきたい場合は、電子レンジで8~10秒ほど温めると近くなります。別の楽しみ方としては、通りもんのあんこは凍らないので、冷凍庫で冷やしていただくと、アイスケーキに近い感覚で楽しめます。

名前の由来は地元・博多のお祭り「どんたく」

--「通りもん」の名前は、毎年5月3~4日に行われる福岡・博多名物のお祭り「博多どんたく」に由来すると聞きました

博多どんたくで、衣装に身を包み、三味線を弾き、笛や太鼓を鳴らして練り歩く人たちを指す博多弁「とおりもん」から取りました。

当時、博多西洋和菓子というコンセプトの商品路線を敷いていくときに、博多の風物にちなんだネーミングをしていたため、その1つとして名付けました。

--福岡県内で放送されている通りもんのテレビCMでは「傑作まんじゅう~博多通りもん」というフレーズが有名です。この傑作まんじゅうという言葉はどこから生まれたのでしょうか

社外の人に通りもんを食べてもらった時に「こりゃ傑作やね!」とコメントをいただきました。その時、「あ!その言葉いただきました」と(笑)。語呂がよかったため、多くの人に認知される結果となりました。

土産菓子「群雄割拠」の博多、山陽新幹線の開通で明太子も強敵に

--世界一となった通りもんにとって、ライバルとなる存在はあるのでしょうか

博多という街は各製菓会社が一時代を築いてきた歴史を持つ、群雄割拠の土地です。強豪ぞろいのなかで、お客さんに「とりあえず通りもんは外せんけん、1つは買っていこうかね」と言ってもらえるよう頑張っていきたいですね。

さらに、福岡のお土産といえば「明太子」というイメージが強い。博多駅に山陽新幹線が開通した1975年以降、明太子は福岡のお土産として定着していきました。それまで博多のローカルフードだった明太子がまさかギフトになるとは、考えてもいませんでした。

--新幹線の開通で地方のお土産事情も変わっていったんですね

そうですね。それまで、博多のお土産としては、博多人形や博多織などの工芸品がスタンダードでしたが、時々刻々変化していきました。移動手段の発達で工芸品から食べ物、そのなかに生鮮食品が加わるなどと変わっていったんです。

--これからも、インバウンドなどを含め、地方のお土産事情も変わっていくのでしょうか

すでにインバウンドに関しては、モノから体験にシフトしています。もともと、外国人旅行客の方、特に欧米の方に関しては、日本人のように旅行に行ってきたからと、近所、社内にお菓子を配るという考え方はあまりありません。アジアの方に関しても、自分で食べるものとして買う方が多い。

だからこそ、美味しかったら買ってもらえる、食べてもらえる。ギネス記録に認定されたおかげで、「ワールドレコード」とアピールできるようになったので、このチャンスを活かして、国内外のお客様に通りもんの味を楽しんでもらいたいですね。

--創業100周年に向けてギネスの次に狙っている賞はありますか

モンドセレクション金賞の20年連続受賞、全国菓子大博覧会の入賞、 iTQi(国際味覚審査機構)の優秀味覚賞を目指しています。

受賞をきっかけに、福岡・博多の文化や風物詩を世界に伝えていきたい。そのためには、それぞれのメーカーが博多土産で一時代を築いているなかで“外せない存在”になりたいと思います。

--これから通りもんを博多の手土産として持って行く人に一言お願い致します

味は絶対に裏切らないものを作っているので、ぜひドヤ顔で持って行ってください!