74回目の終戦記念日 主要6紙が安全保障や改憲への主張を表明 - BLOGOS編集部
※この記事は2019年08月15日にBLOGOSで公開されたものです
「令和」になって初の終戦記念日を迎えた15日、主要各紙(朝日、読売、毎日、産経、日本経済、東京)は朝刊で、戦争の惨禍を繰り返さないための主張や意見を社説に掲載した。戦争の愚かさを語り継ぐ大切さや、国際協調体制を維持する意義、憲法改正の是非など、その内容は各紙のスタンスが如実に表れた。
◆朝日新聞
『8・15戦場の記憶 時を超え、痛みを語り継ぐ』と題した社説で、不戦と平和の誓いを語り継ぐ大切さを説いた。終戦の日については「無謀な戦争の犠牲となった人々に追悼の念を捧げる日」であり、「侵略と植民地支配により、日本以外の国々に及ぼした加害の事実」を忘れてはならないと主張している。
日本軍とオーストラリア軍が激しく攻防したパプアニューギニアで現地住民の証言集が作られたことや、3万人超の日本兵が死亡したインド・インパールで平和資料館が開館したことなど、先の大戦にちなんだ世界の現在の動きを紹介。証言集づくりに協力した男性(50)の「戦争を実体験した世代は消えていく。体験は共有できなくとも、気持ちを寄り添わせることはできる」といった思いも伝えた。
国内でも、沖縄・ひめゆり平和祈念資料館が、戦争を知らない世代に向けて、来夏に「さらに、戦争から遠くなった世代に向けて」というテーマでリニューアルすることを紹介。「展示の刷新のかぎは『共感』。戦争前の学校生活での笑顔や表情豊かな写真を使い、身近に感じてもらう。中高生らに、学徒が同じ世代で楽しい学校生活があったことを訴えかける」と若者の脳裏から戦争の記憶が遠のくことへの危機感を記した。
こうした動きを紹介しながら、「自分の国の暗い歴史や他人の苦しみを知り、思いをはせるのは簡単ではない。だが、今の世代が先人らの心情を受け止め、戦争の愚かさを伝え、未来を切り開かねばならない」と主張。「過去を反省することは後ろ向きの行為ではない。未来に向けての責任である」と結んだ。
◆読売新聞
『国際協調の重み かみしめたい 惨禍の教訓を令和に生かそう』と題して、「戦後の日本外交は、日米同盟と国連中心主義を基軸としてきた。戦争が起こらないようにするためには、自由や民主主義、法の支配に基づく国際協調体制を維持していくことが欠かせない」と訴えている。
5月に即位した天皇、皇后両陛下が、政府主催の全国戦没者追悼式に初めて出席されることに言及し、「戦争を直接体験されていない両陛下の出席は、時代の変化を映し出している。体験者が昭和の戦争を語る時代は終わりつつあることが実感されよう」と主張。その上で、「令和の時代は、戦争の歴史を語り継ぎ、研究を深める時代としなければならない」としている。
ポピュリズム(大衆迎合主義)に焦点を当て日米開戦の要因を分析した筒井清忠さんの「戦前日本のポピュリズム」に触れ、国際連盟からの脱退を宣言した松岡洋右や、日中戦争勃発時の首相で軍部による戦線の拡大を許した近衛文麿について「大衆人気を集めることに努めたポピュリストだった」と言及。「ポピュリズムに引きずられず、正確な情報に基づいて世界情勢を冷静に分析し、国益にかなう戦略を構築する」ことが重要と説く。
「世界の警察官」としての米国の役割を否定するトランプ米大統領や、移民排斥を訴えるポピュリズムが広がる欧州などの動きについて、「自由主義陣営を支えてきた主要国の変容は、その一員である日本にとって大きな懸念材料」と分析。日韓関係の悪化にも触れながら、「時には、米国をはじめ、友好国にも注文を付け、多国間協議をリードするといった積極的な行動が求められよう」「条約や国際協定、慣習法などからなる国際法の尊重を通じて、各国が相互に信頼できる環境を醸成していくことが大切だ」と強調している。
◆毎日新聞
徴用工問題をめぐる韓国との不和に言及しつつ「昭和から平成、令和へと時代を経ても、戦争の後始末がいかに困難であるかを物語る。一度手を染めると、修復するのに何世代もかかるのが戦争の宿命だ。」と記し、『終戦の日と戦後処理 世代をまたいで辛抱強く』と題した社説を掲載。日本の戦後処理の歩みを振り返っている。
日本が1977年までかけてアジア諸国への賠償総額15億ドルを完済したことについて、「若い政治家には『日本は過酷な条件で十分に償った』と思い込んでいる人がいる」として、「日本に寛大だった講和内容の理解不足だ。政治家は歴史へのリテラシーを高める必要がある」と指摘している。
徴用工問題をめぐる昨年10月の韓国最高裁判決に関連して、日韓両国の見解が日韓基本条約の枠内で「解決済み」だったとして、「『司法権の独立』を盾に日韓関係の一方的変更をもくろむ文在寅(ムンジェイン)政権の対応は極めて遺憾だ」と厳しく批判。
日韓関係の緊張が続くことを踏まえ、「戦争のもたらす被害はあまりに大きく、国家間のある時点での処理には限界がある。少しずつでも辛抱強くトゲを抜こうとする努力が、平和国家としての土台を強くする」と結んだ。
◆産経新聞
『憲法改正こそ平和への道 戦争の惨禍を繰り返さぬために』とのタイトルで乾正人・論説委員長名の主張を1面に掲載。「8月15日が近づくと、なぜかアジア全体にさざ波が立つ。ことに今年は、さざ波どころか荒波が打ち寄せている」として、アジアを中心に各国の動向に触れながら、改憲の重要性を訴えている。
関係が悪化する日韓関係について、「(文在寅政権は)慰安婦や『徴用工』問題で、日本人をいらだたせる政策を次から次へと繰り出している」と主張。短距離ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮情勢に触れつつ、「文大統領が金正恩氏にすり寄って近い将来、朝鮮半島が統一されれば、『核兵器を保有した巨大な反日国家』がすぐ隣に出現するという悪夢が現実のものとなる」としている。
戦後の歩みについて「戦後74年にわたって日本が平和を享受できたのは、奇跡に近い。令和の時代もそうあってほしい、と願うばかりだが、願ってばかりでは平和は維持できない」とした上で、「長年にわたって日本の平和と安全に大きく寄与してきた日米安保体制に、米大統領自らが疑問を呈し続けているのを軽くみないことだ」と警鐘を鳴らす。
その上で、「日米安保条約に寄りかかった『一本足打法』を見直さざるを得ない厳しい時代がやってきた」と時代の変化を指摘し、「自分の国は自分で守る、という理念を憲法に規定することが最も大切だ」と主張。空襲や原爆で一般市民を含む310万人の尊い命が奪われたことに触れ、「こうした悲劇を、二度と繰り返さぬためにも憲法を改め、安全保障体制の再構築に今すぐ着手せねばならない」と強調している。
◆東京新聞
「戦争放棄」を盛り込んだ日本国憲法の成り立ちに深く関わった幣原喜重郎元首相に迫る映画が秋に公開されることに着目し、幣原の姿を通じ不戦の意志を示す独特の筆致の社説を掲載した。『終戦の日に考える 憲法の下 令和は流れる』と題し、現行憲法を守る価値を主張している。
冒頭、「連合国軍の占領下、天皇制の存続と一体で『戦争放棄』を日本側から発意したとされる。憲法のいわゆる『押しつけ論』に有力な反証をかざす、あの人です」と幣原を説明。「改憲論争の皮相から離れ、より深くにある幣原の平和観に迫りたい。平成から令和へと時代が移ろう時にこそ、流れを遡(さかのぼ)り、確かめておきたいことがあるからです」と幣原から平和憲法の源流を探る意義を示した。
広島、長崎への原爆投下を受け、幣原がマッカーサー元帥に進言した言葉を次のように抜粋している。<原爆はやがて他国にも波及するだろう。次の戦争で世界は亡(ほろ)びるかも知れない><悲劇を救う唯一の手段は(世界的な)軍縮だが、それを可能にする突破口は自発的戦争放棄国の出現以外ない><日本は今その役割を果たし得る位置にある>。戦争放棄を目指した幣原の姿を伝えた。
幣原の姿勢について、「後世の人類を救うための『世界的任務』でもありました。源にあったのは高潔なる平和の理想です」と価値づける。その上で、「いま令和の時代を受け継ぐ私たちが、いまもこの源から享受する不断の恵みがあります。滔々たる平和憲法の清流です。幣原の深い人類愛にも根差した不戦の意志を、令和から次へとつなぐ流れです」とした。結びに「止めてはいけない流れです」と書き加えることで、不戦の誓いを後世に伝える意義を呼び掛けた。
◆日本経済新聞
『令和に持ち越された「追悼のあり方」』と題して、戦没者を悼む靖国神社のあり方を中心に論じている。冷戦終結後に大きく揺らぐ国際秩序の在り方にも言及し、「日本人が安全保障を現実的に見始めたことは歓迎すべきだ」と評価している。
安全保障の議論が進む現状を肯定的に受け止める一方、「振り子が振れすぎて、戦前に本を正当化するかのような論調も目にするようになったことには留意したい。」と指摘。21世紀に入り保守色を打ち出し始めた自民党について、「所属国会議員が『教育勅語』『八紘一宇』といった単語を日常的に口にするようになったのは一例である」とくぎを刺す。
「東条英機元首相らを裁いた東京裁判の進め方は妥当だったかはさまざまな見方がある」と前置きしつつ、「靖国神社が当時の戦争指導者を合祀したことには違和感がある」と現状の追悼の在り方に疑問を呈する。「すべての国民がわだかまりなく足を運べる環境になっていない現状は残念だ」とも記し、安倍首相に対し2013年から続けている靖国参拝中止を続けるよう求めた。
「平和を維持するため、相応の国際貢献が必要になる局面もあるはずだ」との主張を展開し、「より複雑になる安全保障の論議を感情論にしないためにも、平和の意義を改めて考えたい」と結んだ。
◆各紙朝刊の紙面状況
主要各紙のうち、「終戦の日」関連の記事を1面に掲載したのは、朝日、毎日、産経、東京の4紙。
毎日は1面トップ記事で、「戦没者遺族会員36%減 10年で 高齢化活動支障」と題した記事を掲載。総合面にも関連する検証記事を載せた。東京も<つなぐ 戦後74年>と題した企画を展開し、1面に「きょう終戦の日 手放しで泣ける幸せ」を掲載した。
産経は、1面で論説委員長名の意見記事で改憲の必要性を訴え、目を引く紙面展開となった。
朝日は1面では、「きょう終戦の日」の見出しで全国戦没者追悼式について、参列予定遺族に戦後生まれが増えている現状を記した。
他に、上記4紙は戦争や平和関連の記事を社会面などに掲載し、終戦の日を意識した紙面を展開した。
読売はシベリア抑留者の語り部と元特攻隊員の今を、日経も戦争関連の資料をAI(人工知能)を活用して後世に残す取り組みを、それぞれ社会面で紹介した。