参議院選挙でなぜ安倍首相は「憲法改正」を正面からうたうようになったのか~田原総一朗インタビュー - 田原総一朗
※この記事は2019年07月19日にBLOGOSで公開されたものです
参議院選挙の投開票が7月21日に実施される。各政党の党首らが全国の街頭で演説を繰り返すなど、激しい選挙戦が展開されている。ジャーナリストの田原総一朗さんは今回の参院選でどこに注目しているのか。話を聞いた。【田野幸伸・亀松太郎】これまでの選挙と違う安倍首相の演説
第2次安倍政権が2012年12月に誕生したときから数えて、国政選挙は6回目になる。今回の参院選は、これまでの5回と全く違う。それは、自民党総裁である安倍首相の言動だ。これまでの選挙で、安倍首相は「経済政策」を前面に打ち出す戦略を取っていた。「アベノミクス」や「異次元の金融緩和」などのキャッチフレーズを使い、経済への貢献をアピールしていた。
実際の安倍政権は、特定秘密保護法や安保法制、共謀罪など安全保障に関わる重要な法案を成立させてきたが、選挙になると、それについては一切言わなかった。安倍首相の悲願である憲法改正についても選挙では触れなかった。
ところが、今回の参院選は様相が違う。安倍首相は街頭演説で「憲法改正」を真正面からうたい、「安全保障」について堂々と持論を述べている。これまでの選挙とは違うのだ。
なぜか。それは「世の中が大きく変わった」と安倍首相自身が考えているからだろう。
これまでの日本では、昭和の戦争に対する反省から「戦争反対」「反戦平和」が大きな潮流だった。
この反戦平和の中心に存在する代表格が朝日新聞と言えるが、ここへきて「朝日新聞批判」が言いやすくなった。書店に行くと、『新聞という病』(門田隆将)や『朝日ぎらい』(橘玲)といった本が並んでいる。
また、日本という国の歴史はいかに素晴らしいのかを語っている『日本国紀』(百田尚樹)が65万部のベストセラーになっている。これまで、昭和の敗戦体験から「日本はいかに間違ってきたか」という言説が広く浸透してきたことからすると、隔世の感がある。
背景には、日本の国民の多くが「戦争を知らない世代」となったことがある。この国は「いい国」だと思いたい。いい国と呼べるためには、強い国のほうがいい。そう考える人が増えているということだ。
世論調査を見ても、安倍内閣に対する批判が強いのは70代以上で、30代以下は安倍支持が多いという傾向が出ている。
安倍首相もそのような「変化」に気づいたのだろう。そこで、今回の参院選では「憲法改正」を正面からうたうようになったのだ。
意外なのは、「憲法改正」を前面に打ち出した安倍首相に対する批判がそれほど強くないことだ。実は、現在の野党の中に「真の護憲派」がほとんどいないと言える。立憲民主党の枝野代表も、安倍首相と方向性は違うが、憲法改正の必要性を否定しているわけではない。
このような状況を背景に、安倍首相は選挙戦でも「憲法改正」を正面から口にするようになった。
悲願の憲法改正は実現するか?
では、参院選の後、安倍首相は念願の憲法改正を実現できるかと言えば、それは難しいだろう。憲法改正のためには、まず国会議員の3分の2以上の賛成による発議が必要だ。自民・公明の与党議員に加え、憲法改正に積極的な維新が同調すれば、3分の2以上を超えるという見方があるが、公明党の本音は憲法改正に反対のはずだ。そうなると、安倍内閣での憲法改正は難しいのではないか。
そもそも、本気で憲法改正を実現したいのならば、安倍首相だけでなく、自民党の候補者たちがそれぞれの選挙区で「憲法改正」に関する持論を語るべきだ。「憲法を改正したら、この国のここがよくなる」というメリットを正面から口にするべきだ。
しかし、僕が見る限り、自民党の議員たちは憲法改正の議論から逃げている。議員たちが憲法改正から逃げていては、国民が賛成するわけがない。