ジャニーズ事務所の元SMAP圧力問題 公正取引委員会はのん(能年玲奈)独立問題も調べよ - 渡邉裕二
※この記事は2019年07月18日にBLOGOSで公開されたものです
2016年末に電撃解散したアイドルグループ「SMAP」の元メンバー、稲垣吾郎、草磲剛、香取慎吾。解散後にそれまで所属していたジャニーズ事務所から独立した3人を巡り、ジャニーズ事務所が在京の民放テレビ局に対し、3人を出演させないようにと圧力をかけていた疑いがあるとして、公正取引委員会(公取委)が独占禁止法違反につながる恐れがあると注意したというのである。
テレビに出られなくなった「新しい地図」の3人
タレントの独立、その後の活動に対して公取委が関わってきたのは異例のことだ。タレントの独立問題はここ数年、芸能ニュースでも大きな話題になっている。そんな中で、今回のニュースのキッカケとなったのは〝国民的人気アイドルグループ〟と言われたSMAPだった。
SMAPは、2016年に元女性マネジャーとジャニーズ事務所との間で起こった対立で解散に追い込まれた。その結果、メンバーだった中居正広と木村拓哉はジャニーズ事務所に残り、稲垣、草磲、香取の3人は元女性マネジャーと共に独立し、現在は「新しい地図」として活動している。
しかし、明確な解散の理由は語られることがなく、解散コンサートもないままフェードアウトしたことにファンは苛立ちを隠せなかったことは確か。しかも、独立した3人に至っては民放テレビ局でのレギュラー番組はなくなり、2年前に東京ローカル局のMXテレビ「5時に夢中!」に稲垣が、さらに昨年1月にNHKスペシャル 未解決事件シリーズ「File.06 赤報隊事件」に草磲が出演した程度。ほとんどはCMとインターネットテレビの「AbemaTV」、映画、それにSNSという状況になっていた。
当然、ファンの間からは「何で?」「ジャニーズが圧力をかけている」といった声が出ていた。今回、公取委の動きはそういったファンの声を汲んでのことだった。一応、有識者検討会なるものを開くなどして「契約のあり方」を論議してきたというが、最終的に公取委は「ジャニーズ事務所が民放テレビ局などに対し、(3人を)出演させないよう圧力をかけていた疑いがある」と判断した。
が、しかし、今回は単に「注意した」だけのこと。大げさに報道されてはいるが、要は「独占禁止法に触れる恐れがある」という程度のことだった。
それにしても芸能に独占禁止法というのは、どうもピンとこないが、実は独占禁止法では、芸能活動に必要な契約の成立を阻止するなどして不当に妨害する行為を禁じているのだという。
ところが、今回のジャニーズへの注意について公取委によれば、テレビ局に対して圧力を与えていたかどうかについては「具体的な行為は見つからなかった」とし「違反につながる恐れがあったかどうかの判断はつかない」としている。では一体、何だったのか? 結局、ジャニー喜多川社長の死去のタイミングに合わせて何をアピールしたかったのかハッキリしない出来事でもあった。
そもそも、こういった問題を引き起こす原因というのは、ジャニーズ事務所というよりテレビ局側の対応にあると考える。テレビ局のプロデューサーや番組のキャスティング担当者は、ジャニーズからそれこそ菓子折りなんかを差し出され「よろしくね!」とか何とか言われたら、あとあとトラブルになりそうな余計なことはしない。まさに「忖度」である。あるいは「自主規制」と言ってもいいだろう。
そう考えたら、公取委が注意すべきは、ジャニーズというよりテレビ局の方だろう。もちろん、ジャニーズの「見えない圧力」もあるだろうが、見えないものは証拠にもならない。そんなものは受け止め方、感じ方であって「悪魔の証明」のようなものだろう。
のん(能年玲奈)の独立問題で動かなかった公取委
それにしても、どうも腑に落ちない、納得できないのは公取委の行動である。確かに、SMAPの解散劇や、その後の動きは社会的な出来事になってきた。それは理解できるし、時代の流れに則して芸能界も変わっていかなければならないと思うが、こういった問題で公取委が動くことができるのなら、まずは、女優の「のん(能年玲奈)」でも動いても良かったんじゃないか?
まさか、有識者検討会がSMAPファンの集まりだったとは言いたくないが、のんについての話題が出てこないのは、ちょっと納得ができない。
のんは、NHK「あまちゃん」で国民的人気となったが、その後、所属事務所のレプロエンタテインメントと契約上の問題が起こり、独立した。
もちろん、事務所には事務所の言い分があるだろうし、のんにものんとしての言い分があるだろう。しかし、だからといって本名の「能年玲奈」を使わせないとか、個人の芸能活動を阻害するのは大きな問題だろうと思う。一つの才能を潰すことにもなりかねない。
前述したように、公取委が独占禁止法について「芸能活動に必要な契約の成立を阻止するなどして不当に妨害する行為を禁じている」というのであれば、まさに、のんの問題はSMAPと並んでタイムリーな「対象事案」だったはずである。しかも、事務所とのんは裁判でも争ってきたわけだから。
そう考えると、今回の公取委の「ジャニーズ注意」は、もちろんそれなりの衝撃度はあったかもしれないが、冷静に見たら単なる世論に対する、ちょっとしたパフォーマンスだったようにしか思えない。いずれにしても、テレビ局を含めた業界全体の問題を、プロダクションだけの責任として押し付けるようなやり方は吉本興業の闇営業問題にも共通する部分がある。実に無責任な手法であって、何も変わらない。
ジャニーズ「圧力をかけた事実はない」
今回の公取委からの「注意」に対して、ジャニーズ事務所は同夜、次のようなコメントを発表している。「弊社が公正取引委員会より独占禁止法違反につながるおそれがあるとして注意を受けたとされる報道につきましてご報告申し上げます。
弊社がテレビ局に圧力などをかけた事実はなく、公正取引委員会からも独占禁止法違反行為があったとして行政処分や警告を受けたものでもありません。とはいえ、このような当局からの調査を受けたことは重く受け止め、今後は誤解を受けないように留意したいと思います」