お客さんを満足させようとして、そこで止まってしまうメディアたち - 赤木智弘

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※この記事は2019年02月25日にBLOGOSで公開されたものです

2月17日に、タレントのフィフィさんがツイートをした内容とその取り上げられ方が問題になっている。(*1)(*2)

フィフィさんは、千葉県野田市で発生した小学4年生の女児が虐待で死亡したと見られる事件を念頭において、立憲民主党所属の参議院議員である蓮舫氏に向け「私は問いたい」として、「なぜ平成16年の児童虐待防止法改正に反対した蓮舫議員が、今回の虐待死で現政権を責める事ができるのか」と、「あなたは本当に国民の側に向いているのか。同じ親の立場として問いたい」などと、情緒たっぷりのツイートを行った。

しかし調べてみると、蓮舫氏が国会議員として初当選したのは児童虐待防止法の改正の後であり、また改正児童虐待防止法についても、蓮舫氏は賛成票を投じていた。

つまり、このツイートは、さも今回の虐待死が、蓮舫氏の反対票によって引き起こされたかのように印象づけるために、事実を確認せずに行われたデマツイートだったのである。

さて、フィフィさんはタレントとしてニュース番組でコメンテーターをしているが、知識人というよりは「主要なお客さんが喜びそうなことを主張するお仕事」であり、今回のツイートもファンサービスの一環であると考えられる。

今回デマの矛先となった蓮舫氏もそうだが、他にも社民党の福島みずほ氏や、立憲民主党の辻元清美氏といったメンツは、フィフィさんのツイートを喜ぶような人達からは「でたらめな内容で叩いても構わない安牌」として扱われている。

彼女らについてデマを書いたとして、それで盛り上がればOKだし、またデマだと看破されたとしても「(彼女らは)日頃の行いが悪いから、疑われても仕方ない」という言い分でフォローが入る。

フィフィさんが少し立ち止まって確認すればわかる程度のことも調べずにツイートを行ったのも、そうした馴れ合いの状況があったからだろう。

さて、本来であればフィフィさんと彼女のお客さんという、両者間の馴れ合いで終わる話であったはずが、こうして問題視されるに至ってしまったのはなぜか。

その理由は、このフィフィさんの通常運転のツイートを、「フィフィさんがこう主張している」という内容の記事にして、スポーツ報知と日刊スポーツが配信したからである。

この事によって、フィフィさんに内容も確認せずにデマを流したという事実が、多くの人の目に止まることになったのである。

その記事は当初、事実を無視したフィフィさんの主張を一方的に事実であるかのように伝えてしまったために、こうして間違いが指摘されなければ、蓮舫氏に対する誤った認識を流布する可能性が強かった。

デマを流したフィフィさんが批判されたのは当然としても、一介のタレントの発言を事実確認もせずに、記事を垂れ流すメディアは酷いではないか、という批判が巻き起こったのである。

例えばこれが政治学者を名乗り、世間からもそう認められている人の主張であれば、それを記事化する人がチェックせずに流したとしても、その罪は薄かろう。当然、事実確認の責任はその政治学者に多くが帰するといえる。

しかし、ニュース番組などでコメントを数多くしているとは言え、フィフィさんは一介のタレントに過ぎない。こうした人が正しくないことを言っている可能性は少ないとは言えず、記事にするのであれば、最低限の事実確認は必要だろう。そしてその責任は当然、記事を書いた新聞社に帰するはずである。

さて、ここまではBuzzFeedの記事(*1)(*2)でも大方触れられていることである。僕が本当に論じたいのはここから先だ。

BuzzFeedの記事では「スポーツ報知」「日刊スポーツ」という、フィフィさんの個人的なツイートをわざわざ記事にしてしまったメディアの他に「朝日新聞」の名前が入っている。

では、朝日新聞は今回の件で、どのように関与したのであろうか。

それは記事をよく読めばわかるのだが、朝日新聞デジタルにフィフィさんのツイート内容を報じる記事が掲載されたというが、それは「日刊スポーツの記事」なのである。

つまり、朝日新聞デジタルには日刊スポーツの記事も配信されており、日刊スポーツが記事を配信すれば、それが自動的に朝日新聞デジタルに掲載されるようになっていた。

このことをBuzzFeedでは大見出しに「フィフィさんの蓮舫議員に関する誤情報、スポーツ紙や朝日も配信 「事実関係を確認せず」(*1)」と朝日の名前を使ったり、また別のBuzzFeedの記事では中見出しに「日刊スポーツ、朝日新聞などが紹介(*2)」などと、さも朝日新聞がフィフィさんのツイートを記事化したかのように報じている。

だが、事実としてはあくまでもフィフィさんのツイートを記事化したのはスポーツ報知と日刊スポーツであり、朝日新聞デジタルは日刊スポーツの記事を掲載して配信したにすぎないのである。

先程、政治学者とタレントの例えで書いたのと同じように、もし朝日新聞デジタルがタレントのツイートを記事化したのであれば、責任が帰するのは朝日新聞デジタルだろう。

しかし、朝日新聞デジタルに掲載された記事を書いたのは、あくまでも日刊スポーツなのである。この記事はプロの書いたものなのだから、記事の内容に関する責任は日刊スポーツにあるのである。

スポーツ報知と日刊スポーツを同列に並べて批判するのは当たり前である一方で、記事を配信しただけの朝日新聞デジタルそれと同じ列に並べて批判するのは、記事に対する責任を考えればフェアではないといえよう。

さらに話を進めて「配信した朝日新聞デジタルの罪もあるだろう」という批判も、当然考えられる。

契約による自動配信であったとしても、その内容をチェックしてふさわしくない記事を排除できなかったのは、朝日新聞デジタルの責任である。そうした意見が出てくるのは当たり前である。

しかし、それならば、スポーツ報知や日刊スポーツの記事を配信したネットメディアを、朝日新聞デジタルと同じように批判する必要があるだろう。

今回、朝日新聞デジタル以外に、スポーツ報知や日刊スポーツの記事を配信したネットメディアは存在しなかったのだろうか?

さて、最初に僕がフィフィさんの記事を見たのは、しかもフィフィさんのツイートの内容に嫌疑があるというニュースに変わる前、まだ単純にフィフィさんの言い分を垂れ流した記事を見たのは、スポーツ報知や日刊スポーツのWebサイトではなく、また朝日新聞デジタルでも無かった。

それは「Yahoo!ニュース」に掲載されたスポーツ報知の記事だったのである。

現在は消されてしまっているが、ツイートをしたYahoo!ニュースのURLが、僕の見た最初の記事である。(*3)

政治や社会、エンターテインメントに関わらず、あらゆる記事配信において、最も拡散力が強いと言われているのが「Yahoo!ニュース」である。(*4<)

Web媒体で仕事をしたことがある人なら、Yahoo!ニュースのトピックスに掲載されることで、どれだけ記事のPVが跳ね上がるかは知っているはずである。

今回のフィフィさんの記事も、Yahoo!ニュースに掲載されていたのだから、朝日新聞デジタルの記事よりも、はるかに勢いよく拡散されたであろうと予測をすることは自然であろう。ならば当然、最低でも朝日新聞デジタルと同程度の責任を、Yahoo!ニュースに求める声が挙がってもいいはずである。

しかし、BuzzFeedのニュース(*1)(*2)に「Yahoo!ニュース」の名前は挙がっていない。同じ内容のニュースを配信しながら、朝日新聞デジタルは批判され、Yahoo!ニュースは一切触れられていない。それはなぜだろうか?

理由はいくつか考えられるが、まずは今回の記事を書いたBuzzFeed Japan自体がBuzzFeedとYahoo!の合弁事業会社であるという事実だ(*5)。そりゃBuzzFeed JapanがYahoo!ニュースを批判できないのは当然であると言える。

では、BuzzFeed以外のメディアであればYahoo!ニュースを批判できる記事を書けるだろうか?

たとえ企業間の関係がないにしても、拡散力の強さを考えれば、Yahoo!ニュースの機嫌を損ねるような内容のニュースは流したくないのが本音であろう。

PVがテレビの視聴率のように扱われるネットメディアでは、PVを跳ね上げるYahoo!ニュースは「神」である。神の機嫌を損ねてニュースを扱ってもらえなくなったら大問題である。

Yahoo!ニュースが実際にその程度の批判をされた程度で記事を扱わなくなることはないだろうが、できる限り批判する内容を書きたくないというのは、どこのネットメディアであっても本音であろう。

さらに問題があるのは、企業関係や拡散力の強さからYahoo!ニュースを批判できないネットメディアだけではない。

BuzzFeedの記事にあてられて、朝日新聞デジタルをデマ記事拡散の共犯のように扱いながら、Yahoo!ニュースも同じ内容の拡散していたという事実に気づくことができない人たちも同じである。

ネットでは「朝日新聞」という存在は「でたらめな内容で叩いても構わない安牌」として扱われている。

どんな内容の記事であっても、そこに朝日新聞を叩く内容が含まれることで、さも記事の据わりが良くなったように思えてしまうのだ。

本来であれば配信をした朝日新聞デジタルをやり玉に上げた以上「Yahoo!ニュースでも配信されていたよね?」という声が挙がるのが当然だと思う。

そもそも僕がこの記事を書いているのも、どうしてそうした声が挙がらないのだろうという疑問からである。

その疑問が挙がらなければ「責任ある他社が書いた記事を受けて、配信する側の責任はどこまで問えるのか」という、更に先の本質的な問題など論じようがないのである。

また、これは決して朝日新聞デジタルやYahoo!ニュースという特定のメディアのみの問題ではない。

今回、朝日新聞デジタルとYahoo!ニュースに絞って話を展開したが、それは単純に、僕がこの件を知って調べた際に、フィフィさんの言い分を一方的に報じていた段階のスポーツ報知、並びに日刊スポーツの記事を掲載していたことを確認できた媒体が、この2紙しか無かったからだ。

つまり、他のサイトにもその記事が掲載されていた可能性は拭いきれないのである。

今のニュースサイトはニュースポータルとして、自前のニュース記事でけではなく、契約を結んだ上で、たくさんの媒体から記事を集めて掲載している。単純に並べてもLivedoorニュース、BIGLOBEニュース、gooニュース、@niftyニュース、他にもたくさんのポータルメディアがスポーツ報知や日刊スポーツから記事の提供を受けて、それを配信している。果たしてこれらのメディアは該当記事を配信していなかったのだろうか?

ついでに言うなら、報知新聞社は読売グループの新聞社であり、読売新聞と一緒に「News 読売・報知」というサイトで記事を配信している。日刊スポーツが朝日グループの新聞社だから記事を自動配信したということを批判的に扱うのであれば、最低限「読売・報知」のサイトで、スポーツ報知の該当記事が掲載されていなかったのチェックくらいは必要だろう。

その確認もなしに、朝日新聞デジタルやYahoo!ニュースというメディアだけの問題として論じることは、とてもフェアとは言えないだろう。

そして、少なくとも僕は、これらのサイトが、契約した配信元が報じた内容に対し、いちいち事実確認をしてから配信することは、とても現実的に可能だとは思えないし、その必要はないと考えている。

僕の考えをごく簡単に述べると、先にも論じたとおり「他社のプロが書いた記事を配信する場合、その責任は文章内容には及ばない」という考え方だ。

文責は元記事側に100%あるべきであり、その責任を無限に拡散するべきではない。密封されたお菓子を賞味期限内に適切な管理の上で販売した結果、内容物が腐っていたとして、その責任を負うべきは製造元であり、それを販売した小売店ではないのと一緒である。

今回、訂正までを含めた、このニュースの伝わり方としては、フィフィさんのツイートをフォローするような人たちが、たとえツイートの内容が間違っていても「日頃の行いが悪いから」などと嘯いて、問題の本質にたどり着かないのと同様に、BuzzFeedの記事を読んだ人たちもまた「じゃあ他の配信メディアはどうなの?」という疑問の段階にすらたどり着かずに、朝日を叩く内容を見て「自分はこのニュースを正しく理解した」と、安心してしまったようである。

BuzzFeedの記事は、一見論理的にフィフィさんの間違いを指摘しているようで、その実は批判を「朝日」の名前に押し付けて終わらせてしまう、極めてお客さんの「お気持ち」に配慮した内容であると言えるのである。

叩きやすい対象を叩くことで満足して、論理のフェアネスを失ってしまう。

そしてそのことに疑問を持つ人は極めて少ない。

残念ながら、これが日本のメディアリテラシーの現状なのである。

*1:フィフィさんの蓮舫議員に関する誤情報、スポーツ紙や朝日も配信 「事実関係を確認せず」(BuzzFeed Japan Yahoo!ニュース)https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190218-00010004-bfj-soci

*2:フィフィさん、蓮舫議員が「改正児童虐待防止法に反対」と誤りをツイート→謝罪し削除(BuzzFeed Japan Yahoo!ニュース)https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190218-00010003-bfj-pol

*3: "スポーツ報知、フィフィのデマをファクトチェックせずに拡散:フィフィ、虐待死問題で蓮舫議員へ怒りの質問「あなたは本当に国民の側に向いているのですか?」(スポーツ報知) - Yahoo!ニュース(赤木智弘 Twitter)https://twitter.com/T_akagi/status/1097369388565463040

*4:【Twitterでもっともシェアされているメディアは?】NHKがYahoo!ニュースに迫る拡散力 netgeek、俺的ゲーム速報JINはスポーツ紙に肉薄(株式会社内外切抜通信社 Digital PR Platform)https://digitalpr.jp/r/28301

*5:BuzzFeedについて(BuzzFeed Japan)https://www.buzzfeed.com/about