※この記事は2019年02月15日にBLOGOSで公開されたものです

千葉県野田市で10歳の女児が犠牲となる虐待事件が発生し、県警が父親を傷害容疑で逮捕した事件。市の教育委員会は暴行を訴える女児のアンケートを父親に提供していた。昨年春まで計25年間、千葉県警で子どもの虐待事案に携わり、現在は県児童虐待対応専門委員を務める少年問題アナリストの上條理恵氏がこの事件における問題点を指摘する。

虐待児童対策会議への参加機関が今年度から半分以下になっていることに衝撃

今回の事件を引き起こした問題は何か。ひと言で言えば、関係機関の連携不足です。各市町村には、要保護児童対策地域協議会(以下要対協)が存在し、児童相談所、市役所家庭児童相談室などの児童福祉関係者、教育委員会、医療機関、警察署などが参加し、ハイリスクな家庭や支援が必要だと思われる子どものケース対応などについて話し合います。

代表者会議は年に2~3回、また、担当者(実務者)会議は毎月開催されています。ところが、野田市の要対協への参加機関数をみると、2017年度に見直しが図られ激減。野田市の児童家庭課によると、17年度に26機関(42人)だった参加機関は18年度に9機関(18人)と4割になっています。

緊急のケースの場合、警察に通報があり保護することで、児童相談所に通告することが可能です。当初の運営方法見直し案の段階では、警察が実務者会議から外されていたことを見てその認識の甘さに衝撃を覚えました。

また、18年度の実務者会議のメンバーをみてみますと(参考:http://www.city.noda.chiba.jp/shisei/shingikai/1008854/1010064.html ※年度途中で変更あり)、18人中、柏児童相談所から5名、警察関係者1名、教育委員会が2名、あとはほぼ市役所の関係者です。会議の中でケースとして挙がってくる子どもが所属している幼稚園や小学校・中学校など、日ごろ実際に子どもと関わっている関係者が全く出席していません。また、医師や歯科医の参加もありませんので、多角的な視点からの被虐待児童の発見も期待できません。

現実的な子どもの実態を把握できる関係者が不在の中、学校を長期間欠席している、保護者に連絡がつかない、子どもの顔や体にあざなどがあるといった具体的な話し合いがなされていたのかは甚だ疑問です。

「一時保護は原則2ヶ月以内に帰宅」ルールに縛られた児童相談所

今回の事件では、「なぜ児童相談所は一時保護を続けずに自宅に帰したのだ」と疑問に思う方も多いかもしれません。

実は、厚生労働省の「児童相談所運営指針の改正について」の中に、児童を一時保護したときは、2ヶ月以内に帰宅させなければならないということが記載されています。

2.一時保護の期間、援助の基本
(2) 一時保護の期間は2ヶ月を超えてはならない。
(児童相談所運営指針の改正について第5章 一時保護)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv-soudanjo-kai-honbun5.html#section01

ただ、この項目については、以下のようなただし書きが続きます。

ただし、児童相談所長又は都道府県知事等は、必要があると認めるときは、引き続き一時保護を行うことができる。

今回の事件も、「父とは一定期間会わせず親族宅での生活」という条件付きで、1ヶ月半で一時保護を解除したわけですが、児童相談所がこの原則の内に女児を養育者のもとに帰そうという動力が働いてしまったのではないでしょうか。結果的に、法律改正により児童相談所の動きが悪くなったとしたら、それは、あまりにも悲しすぎます。

おかしいなと思ったら「189」に通報を

皆さんが虐待ではないかと思ったとき、ぜひ15年にはじまった「189(イチハヤク)」に通報していただければと思います。ガイダンスに従っていただくと、最終的に管轄する児童相談所に電話がつながります。

25年間以上、虐待を受ける子どもたちに接してきた経験から言えることは、虐待を受けている子どもたちは、多くを語らず、ましてや自分の保護者からやられたとは決して言わないということです。

それどころか、親をかばって、「自分が悪いからこうなったのだ」と言うのです。こんなことは辛すぎます。そんな子どもたちを虐待から守るためにも第三者の通報や関心の高さがとても重要になってきます。

私はいつも考えます。自分の親から虐待を受けているときの子どもの気持ちはどんな気持ちなのだろうと。本来なら愛してくれるはずの親が、ものすごい形相で自分を攻撃してくるのです。そんな親を子どもたちはどんな思いで見つめているのでしょうか。想像しただけで胸が張り裂けそうになります。

今回の事件は、女児が大人の無関心の狭間に落ちてしまった結果だと考えられます。子どもの泣き声を聞いただけで通報する方はいらっしゃらないかもしれませんが、泣き声が尋常ではない、やめてとかごめんなさいと子どもが何度も言っている、日常的に保護者の怒鳴り声がするときなどは、ぜひ通報してほしいと思います。

批判ばかりでは解決しない

今回の事件は、どこにでも起きうることです。女児の死を絶対に無駄にしないためにも、今回、批判ばかりで終わらせてしまってはだめだと思っています。

児童相談所だけでなく、当該校や警察など、様々な関係機関がネットワークを作ってあげなければ、子どもを守ることなどできません。児童相談所の一時保護が解除され、学校のモニタリング対応が必要なのであれば、学校と児童相談所、また、関係機関は定期的に子どもの状況について確認しあうべきです。そのためにも、実務者会議に子どもが所属している教育関係者の参加を是非お願いしたいと思います。そして、それぞれの機関がアンテナを高くして、「危機感の共有」をしなければなりません。

今回の事件を受けて、今後の野田市の要対協は、弁護士、小児科医、歯科医のほか、児童が所属している園長、小中学校の関係者などのメンバーの再考が必要不可欠です。そして具体的に、問題点や対応のまずさなどをすべて検証し、二度と同じことが起きないようにしなければなりません。

SOSを出した女児の心の叫びを看過してしまった大人の罪は重いと感じています。もっと、現実に目を向けて問題解決を図り、大人がチームワークを組んで一件でも多くの児童虐待をなくすようにしなければなりません。

上條理恵(かみじょう・りえ)


少年問題アナリスト、千葉県児童虐待対応専門委員。元千葉県警察上席少年補導専門員。現在は東京経営短期大学特任准教授、千葉県子どもと親のサポートセンタースクールアドバイザーなども兼任。
1963年 静岡県生まれ。小学校、中学校、高校の講師を経て、1993年より、千葉県警察に婦人補導員として、青少年の非行問題(薬物問題・スマホ問題・女子の性非行)・学校との関係機関の連携・児童虐待・子育て問題に携わる。
小・中・高・大学・保護者・教員に向けた講演は1500回以上。「金持ちより人持ち」をモットーに人間関係の大切さを伝える。
学会活動として、非行臨床学会の会員としての活動も行う。