中学受験で第一志望に失敗、落ちた子をさらに傷つける親や教師の一言 - BLOGOS編集部
※この記事は2019年02月13日にBLOGOSで公開されたものです
毎年2月初旬に中学受験がピークを迎えます。朝日新聞によると、昨年(2018年)に東京と神奈川で私立中学校の入試を受けたのは約3万8000人。3年連続で増加し今年はさらに増えるとみられているそうです。一方、第一志望に合格する子どもは全体の約3割。7割が「不合格」というつらい現実に直面します。
教育ジャーナリストのおおたとしまささんによると、落ち込む子どもたちは親や教員の言動によって、さらに傷つくこともあるようです。おおたさんに話を聞きました。【取材:石川奈津美】
「これをやってね」2週間分の宿題をわたす教員
東京23区では、4人に1人が中学受験を受ける時代です。年が明け1月中旬ごろになると、中学受験率が高い世田谷区などでは6年生のクラスで半分以上が欠席する公立小学校もあります。
私立中学校の受験日程は2月1日から5日ごろまでに集中します。合格発表はその日のうちか翌日にする学校が多いので、第一志望に受かった子はその翌日から登校します。一方、不合格となった子は連日、試験を受け続けます。中には10日ごろまでずっと受け続ける子もいます。連日緊張しながら試験を受け続け、すべてが終わって最後に登校するときには身も心もぼろぼろになっているわけなんです。
ただ、こうした子どもたちの状況を小学校側がまだ十分に理解・配慮できていないという現状があります。
これは大田区立の公立小学校の話なのですが、試験前に1週間、試験中で1週間と合計2週間学校を休むと、再び登校した日には「これをやってね」と2週間分の宿題を先生から渡されます。
その学校は学年としてルールで決めているそうなのですが、気持ちを切り替えてがんばろうとしている子どもに、2週間分という少なくない量の宿題を出すのはあまりにも酷だと私は思っています。
1月に小学校を休むということに賛否あります。ただ、私はそもそも「小学生は必ず学校に行くものだ」ということ自体が思いこみだと思っています。
学校へ行くことが義務教育ではなく、学ぶべきことを学ぶのが義務教育です。1週間休んだところで義務を果たしていないかというとそんなことはありません。
もちろん理想は学校にいつもどおり行きながらテストのときは休むというものだと思います。自信のある子は学校を休んだりはしないでしょう。でもまだ不安な子供がこれまで色々な犠牲を払ってきた最後に、悔いを残したくない、集中したいという思いから学校を休むことは、それほど責められることではないと思います。
中学受験は、たった1日のしかも数時間のテストで結果が出てしまう厳しいものです。そこに12歳の子どもプレッシャーや不安を強く感じるのは当然だろうと思います。しかも大半の子供はどこかで不合格というほろ苦い経験をしています。
首都圏ではもう当たり前になっている中学受験に対しての理解がもう少し進むべきだと思います。
落ち込む子どもに「リベンジ」は厳禁
親はみな、子どもが塾に行き始めの頃は、「うちの子なら最難関に合格できる」と思うものです。
模試などを受ける中で少しずつ現実的な学校に志望を変えていくのですが、中にはずっと当初からの第一志望校に固執し続けてしまう親がいます。私はそれを、「第二志望で納得できないという病」と呼んでいます。
ある私立中高一貫校の教員から聞いた話です。
ある生徒は、第二志望でその学校に入ってきたそうなのですが、親が入学後も現実を受け入れられなかったんでしょう。「この学校はあれがだめだ、これがだめだ」と散々クレームをしてきたそうです。挙句の果てにその生徒は、1ヶ月で退学。公立の中学校に転校していったそうです。親としては、「3年後の高校受験でリベンジ」と思ってのことでしょう。
この退学してしまったケースは極端な話ですが、中学受験で第一志望がかなわなかった子どもに「大学受験でリベンジだ」とつい言ってしまう親は多いものです。
リベンジは”負けた”ことに対する”復讐”なので、絶対に言ってはいけない言葉です。特に、中高一貫校の場合は6年間の否定になるので、子どもにとってはとてもつらい一言です。
ではどのように接すればいいのかというと、不合格という“結果”ではなく“プロセス”にフォーカスすることが大切です。「お母さんとお父さんはあなたの努力をわかっているからね、誇りに思うよ。その努力が無駄になることはないからあなたもこの3年間のがんばりに胸を張りなさい」「あのとき、新しいゲームを買うの我慢して勉強してがんばったね」と。子どものがんばり自体を成功体験としてリスペクトしてあげてください。
12歳の子どもは、親の価値観にとても影響を受けます。中学入試においても、もちろん自分のあこがれ学校は選ぶのですが、「親に喜んでもらいたい」という思いが強いのです。「大学受験でリベンジだ」とか「こんな結果になるならあそこまで犠牲を払わなくてよかったよね」といった言葉は著しく子どもの自己肯定感を下げることになります。
中学受験は人生で初めての大きなチャレンジとなる子がほとんどです。「大変だったけど良い経験」となるのか「つらいだけの残酷な経験」で終わるのかは、親次第です。
大学入試改革を先取りし激変する中学入試
ここ2、3年の動きですが、いま大学入試改革を先取りして中学受験は劇的に変わっています。顕著なのは、国語・算数・理科・社会の4教科ではなく「思考力」を問う問題を導入する学校の増加です。今年の受験では、首都圏の私立中学校300校中、約150校が実施しています。
過去には、例えばとある私立中学の受験では「『哲学教育』思考・表現力入試問題」として、「心」という言葉をもとに自分で問いかけの文を作り、さらにその自分で作った問いについて400字で考えや意見を書くという問題が出ました。そこで測られるのは4教科の合計点数ではなく哲学的思考力です。
また、「思考力ものづくりテスト」として、「自分の得意なことをLEGOで表現し、その作品について150字程度で説明しなさい」「資料を見て、その国で起こっている問題は何かを考えその解決策をLEGOで表現しなさい」という手を動かして表現するテストを実施した学校もあります。
この方式で全入学者を選抜するわけではなく、4教科受験も実施する学校が多いのですが、関係者に話を聞くと、この方式で入学してくる子どもは、同じ学校でも4教科受験で入学してくる子どもよりも自己肯定感が非常に高い状態で入学してくるそうです。こうした声を聞いていても、偏差値の輪切りではない受験方式が増える流れを私はポジティブに捉えています。
中学受験で測るのは、人間の持っている能力のほんの一部だけで、ひとつのものさしに過ぎず、子どもの持っている能力のほんとにごく一部しか表していません。そこでできないからといって人間としてだめなのかというとそんなことは絶対にありません。繰り返しになりますが、そうした心持ちを親が持っていれば、子どもの自己肯定感は下がらないはずなんです。
受験で望みどおりの第一志望に受かる子は「努力が報われる」という達成感を味わうことができます。でも、そうではない、7割の第一志望に受からなかった子たちも「潔く結果を受け入れて腐らず前に進み続ける力」を得る機会になると思うんです。そして私はどちらが人生に役に立つかというと後者だと思っています。
人生は思い通りにいくことのほうが少なく、結果が望み通りにならない度に心が折れていたらやっていけません。腐らずに前を向き続ける人がたくましく生きていけるのであって、一抹のほろ苦さをかみしめながらもそれを前に進む力に変えることができたら、それは中学受験の成果です。
受験のときに目ざしていたAという学校とは縁がなかったけれど、Bだったからこそ出会えた友達や先生との縁やその学校だからこそできる経験は必ずあるはずです。それを生かしてやろうという風に思えることが、実際の人生に生きるためのたくましさにつながっていくと思います。