白井一行球審の前に立ち事態を収めたロッテ・松川虎生【画像:パーソル パ・リーグTV】

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「朗希と審判が揉めるくらいなら自分が責任を被った方がいい」

 球界を超えて物議を醸しているロッテ・佐々木朗希投手と白井一行審判員の間の判定を巡る騒動。現役時代に中日、巨人、西武で名捕手として鳴らし、中日時代の1982年にはMVPを獲得した野球評論家・中尾孝義氏が驚嘆したのはむしろ、間に割って入った格好のドラフト1位ルーキー・松川虎生(まつかわ・こう)捕手の類まれな対応力だ。

 24日に敵地・京セラドームで行われたオリックス戦。2回2死一塁の場面でハプニングは起きた。佐々木朗は安達に対しカウント0-2から、外角低めへ158キロの速球を投げ込んだが、白井球審の判定は「ボール」。この投球間に、一塁走者・杉本が二盗を成功させた。佐々木朗は二塁方向を見た後、本塁へ向き直り、不満げな表情を浮かべたようにも見えた。これを見た白井球審がマウンドへゆっくりと詰め寄る。異変に気付いた松川は白井球審を追いかけ、その前に立ちふさがり事態を収めたのだった。

「審判が朗希の所まで行って揉めるくらいなら、自分が止めて責任を被った方がいい。松川は咄嗟にそう判断したのだと思います」と中尾氏は見た。「高校を卒業してまだ1か月ですよ。そんな気遣いができるなんて、凄いことだと思います。18歳の頃の私にはとても考えられなかった」と驚嘆する。

 元よりストライクゾーンの判定は難しい。中尾氏は「審判も人の子ですから、同じコースの同じ球種でも、カウントによってストライクと言ったりボールと言ったりすることはありうる。私の経験から言ってストライクゾーンは、0ボール2ストライクなら狭く、3ボール0ストライクなら広くなりがちです」と話す。その上で、弱冠20歳の佐々木朗に向けて「当然頭にくることもあるだろうが、審判と仲良くするのも技術の1つ。あまり嫌われないようにした方がいい」と提言する。

 それにつけても中尾氏の絶賛が止まらないのは、佐々木朗よりさらに2歳下の18歳ルーキー・松川についてだ。リードについても「前の打席でこう攻めたから、この打席ではこう攻めるというような計算ができている」と指摘する。

 佐々木朗が完全試合を達成した10日のオリックス戦(ZOZOマリン)での配球も絶妙だった。相手の主砲・吉田正に対し、4回の打席では初球、2球目に連続でカーブを投げさせた。「吉田正は当然速球にタイミングを合わせているから、初球はど真ん中のカーブにも手が出ず見送りストライク。2球目も、それより厳しいコースなら大丈夫だと計算して、内角低めのカーブを要求して空振りさせた」と中尾氏は感心しきり。こうして追い込んだ後は、フォークを2球続けて空振り三振に仕留めた。変化球攻めで打ち取ったからこそ、次の打席では逆に速球が生きる。続く7回の打席ではストレート攻めで追い込み、最後は163キロで空振り三振させた。

 中尾氏は松川の高卒ルーキー離れしたキャッチング技術にも舌を巻く。佐々木朗の140キロ台後半の高速フォークに対して、ミットを上からかぶせるのではなく、ボールが落ちてくる所へミットに入る面を素早く持っていく。「動体視力がいいのでしょう」。挙句、試合後のインタビューの受け答えにまで「どこで覚えたのか、落ち着き払って、しっかり話している」と文句がつけられない。

 あえて課題を挙げるとすれば、打率.171(35打数6安打)のバッティングだろうが、中尾氏は「試合を重ねればプロの投手の球に慣れ、もっと打てるようになるでしょう」と、むしろ楽しみにしている。高卒ルーキー捕手では史上3人目の開幕スタメンを勝ち取り、佐々木朗の完全試合を演出して、さらに名を上げた松川。MVP捕手の中尾氏をしてここまで言わしめるのだから、まさに末恐ろしい。どんな名捕手に育つのだろうか。(Full-Count編集部)