ハイスペックといわれる男性は、小さなころから母親に大切に育てられていることが多い。

それゆえ、結婚してから、子離れできていない母親、マザコン夫の本性が露呈することもある。

あなたは、この義母・サチ子に耐えられますか―?

◆これまでのあらすじ

サチ子から孫の催促をされた春乃。しかし、将暉と夫婦生活が無いことへの悩みは深まるばかりで…。

▶前回:ご無沙汰なのに、子ども欲しいという夫。悶々とした思いを抱えた妻は…




Vol.8 親友に相談できない悩み


7月中旬の土曜日の夕方。

私は、将暉とスイング碑文谷でゴルフの打ちっ放しを楽しんでいた。

彼と夜の生活が無い状態が続いていることに悩んだ私は、ネットで見た『ラブラブ夫婦の秘訣は、共通の趣味をもつこと』という情報を実践しようと、彼の趣味であるゴルフを始めたのだ。

平日の仕事終わりには、六本木にあるスクールにも通っている。

「クラブを振り切るまでは上体が起き上がらないように、意識してみるといいよ」

7番アイアンの練習をする私に、隣のレーンから将暉が優しく声をかけてくる。

「わかった、やってみるね!」

言われた通りにボールを打ってみると、なんとか真っすぐに飛ばすことができた。

「さっきより、すごく良くなってる」

将暉が、満面の笑みを向けてきた。

彼は、私がゴルフを始めたことを喜んで、すぐに高価なクラブセットを買い与えてくれた。週末は2人で打ちっ放しに行きたがるので、徐々にサチ子に会う回数が減ってきている。

これは思惑通りだ。将暉からの頼みで、結婚以来、ほぼ毎週末サチ子と一緒に過ごしてきた。

しかし、それではいつまでも彼と新婚気分を味わえない上、自分が疲弊していくだけ。

週末に夫婦の予定が入れば、自然と彼女とは距離を置けるはず。サチ子問題への対策として、新たに打ち出した作戦でもあるのだ。

― これで、将暉との夫婦生活が戻ればいいんだけど…。

彼の笑顔を見た私の胸に、ふと切なさが込み上げてくる。

ネットで検索した結果によると、レスの定義は「1ヶ月以上ないこと」。将暉と最後に“あった”のは新婚旅行前なので、しっかり当てはまっていた。

でも、仲を深められるように努力しているし、今日は結婚3ヶ月の記念日。もしかすると今夜は“ある”かもしれない。なんて淡い期待も同時に抱いている。


帰宅後、ベッドに入った将暉と春乃。春乃が行動を起こすと…!?


「運動したことだし、がっつりステーキ食べて帰らない?」

「おっ、いいね」

練習場の帰り道、私は、将暉が好きな目黒の『ステーキハウス リベラ』で夕食を取ることを提案する。

彼からは事前に「記念日だからどこかレストランを予約しようか?」と言われていたが、お酒を理由に夜を拒まれることは避けたかったので、断っていたのだ。

ヒレステーキを満喫した私たちは、「夫婦で気兼ねなく美味しいものを食べる休日っていいね」と、満たされた気分で帰宅した。



「春乃、これ結婚3ヶ月記念のプレゼント」

帰宅後、お風呂から上がって、ソファでくつろいでいると、将暉が、突然白地にエメラルドグリーンのリボンがかかったショッパーを手渡してきた。中には、白い小箱が入っている。

「えー!ビックリ。早速開けてもいい?」

全身で嬉しさを表現したあと箱を開けてみると、ゴールドバーに3珠のパールが付いたペンダントが入っていた。以前彼と六本木ヒルズのエストネーションに行ったときに見かけて、何げなく「素敵」と言ったものだ。

「ありがとう、すごく嬉しい!私が気に入ってたの覚えててくれたの?」

「うん、もちろん。春乃の喜ぶ顔を見るのが、俺の生き甲斐なんだ」

満足げな表情を浮かべる将暉。私の胸には、“今夜こそ”という期待がさらに高まった。

土曜の夜は、2人で好きなテレビ番組の1週間分の録画をまとめて見ることが、お決まりのパターンだ。内心そわそわしながら、ひと通り見終えると、将暉が声をかけてきた。

「もう24時過ぎだし、そろそろ寝ない?」

将暉が寝室に向かったので、私もすぐに後を追う。

サチ子の思いつきで新調されたばかりのキングサイズベッドに2人で入ると、彼が、寝室の電気を消した。




「……」

ドキドキしながら私は、将暉から求められるのを待つ。しかし…待てど暮らせど、彼は、私が寝ているほうとは反対側を向いたままで、何かが起きる気配はない。

― どうしよう。勇気をだして私からいってみるべき!?でも、将暉がその気になるまでは、そっとしておいたほうがいい気もするし…。

暗闇の中で彼の背中を見ながら私は考える。ヤキモキしていても何も変わらないんだしと、思い切って背後から抱きついてみる。

すると将暉は、すぐさま私の手をほどいて、気まずそうに言ってきた。

「ごめん。そういう気になれないんだ」

「……」

彼からはっきりと拒絶されたことに、内心かなりのダメージを受ける。でも、彼を責めたり、負担になるようなことを言ってしまえば、より悪循環になってしまいそうだ。私は、なんとか明るい声を絞りだした。

「そっか、こっちこそなんかごめんね。おやすみなさい」

何事もなかったように振る舞って、将暉に背中を向けた。

そのあとすぐに彼の寝息が聞こえてきたが、私は、眠れずにいた。

愛する人に触れてもらえない寂しさ、自分に女性としての魅力がないのでは?という自己嫌悪、何で努力しているのにわかってくれないの?という微かな怒り、将暉は本当に子どもがほしいのか?という疑問、様々な感情が交錯していたからだ。

― でも、2人の結婚生活は、まだ始まったばかりだしね。

強引に自分を納得させた私は、暗い気持ちを抱えたまま目を閉じた。


将暉から拒絶されて落ち込む春乃のもとに、サチ子から1通のLINEが。その内容とは…




翌週、金曜日の18時。

早めに仕事を切り上げた私は、大学時代からの親友・由梨恵と丸の内の『エーシックスティーン トウキョウ』を訪れていた。

熱々のサルシッチャを頬張りながら、私は、サチ子の近況から報告する。

「目をキラキラさせながら、『孫の顔は見れそうかしら?』って言ってきて、ゾッとしたよ。挙げ句に私たちと同じマンションを買って、『孫の面倒をみる』なんて言い出す始末で…」

「でた、“孫の催促問題”。本当キツいよね。

うちなんて結婚して3年も経つから、プレッシャーは凄まじいよ。とはいえ、夫の両親は鹿児島にいるから、せいぜいお盆とお正月に顔を合わせるだけで、まだマシかな」

由梨恵の状況が心底羨ましくなる私。

「いいなぁ〜。サチ子が年に数回だけ会う存在であれば、どんな言葉も受け流せる気がするよ…」

「確かに、実際の距離感って大事よね」

由梨恵は、大きくうなずいたあと、続けた。

「実はね、そろそろ子どもを欲しいなって思ってるんだけど、正直夫のこと男として見れなくなっちゃって…。一緒に寝る気にならないのよ」

「そっかー。でも、レスとか言いながら子どもがいる夫婦結構いるよね」

いくら親友とはいえ、レスの話まですることは躊躇していたが、ちょうどよかった。由梨恵に将暉とのこと相談してみることにした。




「実は、私も将暉と最近ご無沙汰で…」

「結婚すると、そんなもんだよ。私の周りもレス多いよ。でも、毎回夫の誘いを断る言い訳を考えるのも大変じゃない?『旦那が外で済ませてきてくれたらいいのに』って言ってるよ」

「……そうだよね」

由梨恵の言葉に私は、消沈した。

彼女は、レスといえば、“夫からは求められても、妻がその気になれないパターン”だと思っている。うちは、その逆だ。由梨恵に相談した自分が急に恥ずかしくなる。

― 夫から求められていない妻だなんて、やっぱり女としての魅力に欠けるのかな…。

「そんな高価なペンダントを記念日にくれるくらいなんだから。2人はまだラブラブなわけでしょ?大丈夫よ」

「まあね…」

私は、曖昧に返事をしてこの話を終わりにするしかなかった。

将暉がくれたパールのペンダントには、これをあげる代わりに、夜は求めないでくれという彼の思いが込められているような気さえしていた。

― 結局、親友の由梨恵にも相談できなかった……。

そのとき、スマホに1通のLINEが入ってきた。開いてみると送り主はサチ子だ。

「げっ、サチ子が『妊活にいい漢方を見つけたから、買っておいたわ』だって。力こぶのスタンプまで付いてる」

「さすがサチ子!LINEだけでも相当な破壊力あるね〜」

由梨恵と私は、笑い合う。

しかし、将暉とレス状態が続く中でのサチ子からの止まらぬ孫プレッシャーで、私の心は、押し潰されそうになっていた。

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次週、ついに春乃は、サチ子に物申す…!