「あの日は友達3、4人と大通公園を歩いていました。少し年上の人が声をかけてきたのです。ナンパにしては1人対数人で吊り合わず、髪を切る場所を教えてという唐突な質問、でも真面目そうな風貌、なんだかバラバラな印象でした。」

一読して、40年前の風景が甦った。早春の大通公園で私たちは数秒の会話を交わして擦れ違った。私にとって、それは新しい街での特別な出来事だった。だから、忘れることはない。でも、まさか高校生だった彼女がそれを憶えていて投書してくれるとは。こんなことってあるのだろうか。あまりの驚きに、その返信のような文章を同紙にもう一度書いた。彼女は読んでくれただろうか。

そんな風に嬉しいスタートを切った学生生活だったが、結局、数年後に私は北大を中退して札幌を離れることになった。それから東京での暮しがずっと続いて、北の空気も忘れかけていた。だが、今回の出来事によって、私は遠い青春の目撃者と「再会」したような衝撃を受けた。40年前に、一瞬だけ擦れ違った私たちは幻ではなかった。あの街を歩いて笑ってトウモロコシを齧っていたのだ。私の中の札幌は永遠になった。

(テキスト/穂村弘、イラスト/Naohiro Gonda、編集・リードテキスト/川浦慧)