「どなたか弁護士紹介してくれませんか?」女がSNSに意味深な投稿をした、恐ろしい理由
『嫉妬こそ生きる力だ』
ある作家は、そんな名言を残した。
でも、東京という、常に青天井を見させられるこの地には、そんな風に綺麗に気持ちを整理できない女たちがいる。
そして、”嫉妬”という感情は女たちをどこまでも突き動かす。
ときに、制御不能な域にまで…。
静かに蠢きはじめる、女の狂気。
覗き見する覚悟は、…できましたか?
▶前回:息子の結婚相手が憎い…。子離れできない母が、息子夫婦の新居におしかけ犯した罪
育てる女
完成した。
私のインスタアカウントが、完成した。
予約のとれないレストランに、話題のスポット。最高に盛れている自撮りに、美男美女たちとの集合写真…。
フォロワーは2万人に達し、相互フォロワーには有名な経営者や著名なインフルエンサーも数多くいる。
このアカウントを見た人間はきっと私のことを、友人の多い、充実した日々を送る人間だと思うだろう。
TwitterやTikTokと違って、Instagramの個人アカウントは、リアルな生活が充実していないとフォロワー獲得が難しいから。
私はこのインスタアカウントを作るために、1年を費やした。自分の行動や生活をも変えた。
でもね、つまらない自己顕示欲のためにこのアカウントを育てたわけじゃないの。
私には、明確な目的がある。
あの女を陥れるという、明確な目的が…。
インスタアカウントをフォロワー2万人までに育てた女が今、目的のために動きだす…
◆
私は学生時代、起業サークルというものに所属していた。別に起業したいなんて思っていなかったけれど、友達に誘われて何となく入ってみただけ。
でも、私はそこで一世一代の恋をした。
一目惚れだった。
東大文一に通う、雄馬。背が高いわけでも、ずば抜けてイケメンというわけでもない。けれど、彼が放つ独特な雰囲気にどうしようもなく魅了されてしまった。
私は早稲田大学の文学部に通っていたから、サークルをやめてしまったら彼との接点がなくなってしまう。
起業する気もなければ、サークル活動にも全く面白味を感じなかったけれど、私は彼と接触する機会を持つためだけにサークルに所属し続けた。
だけど、小学校からずっと女子校に通っていた私の恋愛経験はゼロ。どうやってアプローチしていいのか、そもそも付き合うってなんなのかさえ全くわからなかった。
けれど、雄馬のことは好きで好きでたまらない。雄馬としゃべりたい。ずっと彼のそばにいたい。
そんな想いは止められず…。
結果いつの間にか、私は雄馬の親友になっていた。
「真帆、本当お前とは話し合うわ〜」
「ね、私も雄馬と話しているのすごく楽しい」
私は、雄馬にとって大事な人。
…でも、そこにあるのはあくまで友情。恋愛経験がゼロの私でも、彼の視線に熱がないことは嫌でもわかった。
悲しかった。
悲しかったけど、それでもいいと思った。だって、彼と一緒にいられるだけで幸せだったから。
私は彼の“親友”というポジションに甘んじてしまったのだ。
そして、彼は3年生のときに起業した。
「ようやく、明日アプリがリリースされるんだよ!!」
目をキラキラと輝かせながら、雄馬は私に一番に報告してきてくれた。それが、たまらなく嬉しかった。
「よかったね、よかったね!!私まで嬉しいよ」
その後も、仕事がうまくいかないことがあればいくらでも愚痴を聞いたし、寝る間も惜しんで働いていた彼に、ご飯を作りに行ってあげたことだってあった。
「真帆、まじでサンキュー。助かるわ」
「雄馬が頑張っている姿見てると、こっちまで元気になってくるから」
「真帆は本当にいいお嫁さんになりそうだよな」
そんな言葉を私に掛けてくれたこともあった。けれど、関係に変化はなし。
― 親友だから、雄馬とこれだけの喜びが分かち合えるんだ…。親友だから…。
そんなふうに、私は必死で自分に言い聞かせていた。
そして、彼の会社は少しずつ軌道にのり、リリースしたアプリも名が知れ渡るようになった。学生起業家として、web記事でインタビューされたりすることもあったようだ。
そんな彼の活躍を、私はずっと近くで見守った。
大学を卒業後、私は大手金融機関へ入社。社会人になっても、私たちは親友として、つかず離れずの関係を続けていたのだが…。
悲劇は突然に起こった。
「ちょっと紹介したい人がいるんだ」
彼は突然、得体の知れない女を紹介してきたのだ。
雄馬のことが好きなのに、親友のポジションに満足してしまった女。ついに悲劇が訪れる…
「はじめまして、野乃花っていいます」
読者モデルをやっているというその女は、雄馬との距離が異様に近い。
「どうも…」
どうか、自分の予想が外れていますように。一縷の望みを託して、彼の言葉を待ったけれど…。
「俺、彼女と真剣に付き合ってるんだ。親友のお前には紹介しておこうと思って」
嫌な予感は当たってしまった。
「…そうなんだ」
「なんか、照れくさいな。身内に彼女を紹介してるみたいな気分になるわ」
照れる雄馬に、幸せそうに笑う女。
頭が真っ白になった。
目の前の2人から発せられる光が強くなればなるほど、自分の心の闇が深くなる。
彼と出会って5年、私は彼だけを見てきた。彼が辛いときも、喜んでいるときも、彼と一緒に感情を分かち合ったのは私だ。
私は自分の気持ちを、彼だけに捧げてきたというのに…。
目の前の安っぽい女は、へらへらと笑う。彼の苦悩とか、これまでどんな想いでここまでやってきたのか、何も知らずにへらへらと。
そして、雄馬に腕を絡める。
その姿は、私の怒りを静かに沸騰させた。
そして、私は決めた。
絶対に許さない、と。
◆
ご報告
私はもともと、SNSは得意じゃなかった。むしろSNSにやたらと日常を晒す人間をどこか軽蔑していた。
浅はかだなって。
だけど、SNSが持つインパクトが大きいことは理解していた。それに、雄馬も野乃花も普通の一般人にくらべて知名度が高く、フォロワーも数千人いる。
だから、これを使おうと思ったのだ。
そして、私のフォロワーが2万人に達し、SNS上での“私”の信頼と人気が頂点に達したとき、私は実行した。
<あの〜、フォロワーさんのどなたか弁護士さんいらっしゃいませんか?相談したいことがありまして…>
意味ありげにストーリーを投稿する。
<どうしたんですか?>
<知り合いに弁護士さんいますよ、紹介しましょうか?>
<僕でよければ話聞きますよ>
下心が見え隠れするものから、純粋に心配してくれるものまで。いくつものDMが届いたけれど、弁護士を紹介してほしいワケじゃない。
<DMくださった方々、ありがとうございます。実は、最近ある女性から嫌がらせを受けていまして…>
DMがさらに増えた。みんなゴシップが好きなのだ、何があったか気になるのだろう。
<心配してくださった方ありがとうございます。実は、すごく仲の良い男友達がいるんですけど、その彼女から嫌がらせを受けていて…。なんか、私がやたら彼と仲良いことを嫉妬してるみたいで>
私は普段から雄馬とSNS上で絡んでいる。彼のポストに私がタグ付けられることも、私が彼をタグ付けることもある。
そして、雄馬は野乃花のことを恋人としてSNSでも紹介している。
…わかる人は、これだけで誰のことを言っているかわかるはずなのだ。
それに、私は早稲田卒で大手金融機関に勤めるエリート。あの女は得体の知れない読者モデル。
真実か否かなんて問題じゃない、どちらの言葉が信頼されるだろうか。
<え〜、どんなことされたのですか?>
<大丈夫ですか?>
<俺でよければ話ききますよ>
そろそろ、準備していたものを投下しよう。
<私あてに、私を誹謗中傷するこんなDMが届いたんです…>
差出人を隠し、内容だけスクショで上げる。もちろん、これは自作自演。
<この前なんて、私の家の前で待ち伏せしてて…。怖くてその日はホテルにとまりました…>
思い付く限りの、嫌がらせエピソードを投稿していく。
…でも、なぜだろう。最初こそDMやフォロワーが殺到したが、徐々にフォロワーからの反応が減っていった。飽きてしまったのだろうか…。
だったら、最終手段だ。
<わかってますよね?野乃花さん。このストーリーズ見てますよね?そろそろ嫌がらせやめてくれませんか?本当に迷惑です。弁護士さんにも相談しています。>
彼女をタグ付けして投稿した。
もう、雄馬にどう思われたって構わない。どうせ私が幸せになれないなら、あの女も幸せにならないで欲しい。
<野乃花さん、いつになったら嫌がらせをやめて謝罪してくれるんでしょうか?>
…この女を、道連れにしたい。
野乃花という名前を出してから、少しまたフォロワーは反応するようになった。
けれど、野乃花のアカウントを覗いても、フォロワーが減っているわけでもないし、変わらず日常がポストされている。
その事実は、私をさらに刺激する。
<みなさん、この人です。私に嫌がらせをする女は!みなさん、気を付けてください!!>
自分でもエスカレートしていくのが止められなかった。
けれど、ある日突然。ついに、野乃花のアカウントから連絡が届いた。
それは、誹謗中傷で私を訴えるという、野乃花が雇った弁護士経由からの連絡。
…私を脅してるつもりなのだろうか?こんなことで、私がひるむとでも思っているのだろうか?
バカにしやがって…。
私はそれもスクショをとって、晒した。
<野乃花さん、いい加減にしてくれませんか?訴えたいのは私の方です。いつになったら嫌がらせをやめてくれるんでしょうか?>
私は絶対に、負けない。
この女を…、道連れにするまでは…。
▶前回:息子の結婚相手が憎い…。子離れできない母が、息子夫婦の新居におしかけ犯した罪
▶Next:3月6日 日曜更新予定
12コ年下の女子社員を、夜の渋谷に呼び出して…。アラフォー女が計画した、残酷すぎる八つ当たり