鬱屈したキャンパスライフで、中央女子が見つけた“輝ける場所”とは?
明治。青山学院。立教。中央。法政。そして、学習院。
通称、「GMARCH(ジーマーチ)」。
学生の上位15%しか入ることのできない難関校であるはずが、国立や早慶の影に隠れて”微妙”な評価をされてしまいがちだ。
特に女性は、就活では”並”、婚活では”高学歴”とされ、その振れ幅に悩まされることも…。
そんなGMARCHな女たちの、微妙な立ち位置。
等身大の葛藤に、あなたもきっと共感するはず。
File10. 莉緒、中央大学。総合政策学部と名乗ると…想像とかけ離れた大学生活
大学受験を終え、入学式を控えた3月の終わり。
「やっと高校の制服生活から解放される!ついに髪を染めたり、ピアスをしたりできる。大学生になるし、ちゃんとオシャレして通わないと!」
入学前からこう張り切っていた莉緒は、Instagramでお気に入りの投稿をチェックして服やバッグや靴をたくさん買い揃えた。
そして、迎えた4月。
入学式こそスーツだったものの、次の日からはお気に入りのコーデに身を包み、Instagramに『#ootd』とアップして、毎日オシャレを楽しみながら通学している。
しかし、莉緒が通学するその場所は、中央大学多摩キャンパス。
多摩モノレールの「中央大学・明星大学」が最寄り駅で、住所は八王子市だ。
学生には人気があるとは言い難いエリアのキャンパスで、1人オシャレに気合を入れた莉緒は、校内で完全に浮いてしまっていたのだった。
◆
中央大学多摩キャンパスは、「よく言えば勤勉で真面目、悪く言うと地味」な中央大学らしさをよく体現している。
さらに、都心にある他大に通う友人たちから必ず言われる「莉緒、最近山から下りてきていないね」という言葉も、莉緒のイラつきをより一層強くするのだ。
高校時代に思い描いていたような“華やかな大学生活”が、自分の周りにはまったくない。
― あーぁ…。あのとき、合格していればなぁ…。
思うようにいかない大学生活にストレスを溜める莉緒は、後悔することが増えていったのだった。
「総合政策学部」は中央大学以外にもあって…
莉緒は大学入試の末、中央大学総合政策学部に入学した。
しかし「飛び切り華やかにオシャレして、楽しくキャンパスに通う」という大学生活を夢見ていた莉緒が第一志望としていたのは、慶應義塾大学の総合政策学部だった。
一般的に、総合政策学部では国や地方の公共団体における政策立案だけでなく、国際機関や非営利団体、一般企業の施策立案に向けて、幅広い分野を学ぶことができると言われている。
高3の受験時、どの学部を受験しようか考えたものの、まだ自分の専攻を決めることができなかった莉緒は、できるだけ幅広く学べる学部がよいと考えて、総合政策学部に興味を持ったのだ。
ところが、慶應の総合政策学部の受験では、特有の長文の多い英文問題にまったく歯が立たず、結果は不合格。
こうして、莉緒は滑り止めで合格した中央大学の総合政策学部に入学したのだった。
◆
― 入学前から中央に華やかなイメージなんてなかったけれど、まさかここまでとは…。これでは楽しい学生生活なんて、まったく想像できないわ。
勉学に集中するには抜群の環境である、中央大学多摩キャンパス。
しかし、大学生活における最優先事項が“楽しさ”だった莉緒には、それはただの“つまらない環境”にしか思えなかったのだ。
「お友達になりたいと思うような可愛い子もいないし、ほんとうんざり…」
都心の他大に進学した友人たちの大学生活がキラキラして見える一方で、自分はまるで灰色のよう。
― 大学は単位をちゃんと取れればいいや。華やかさは別の場所に求めよう…。
心底うんざりした莉緒はこう考え、勉強もそこそこに、あることに熱中するようになった。
莉緒が熱中したこと。
それは、イベントコンパニオンのバイトだった。
「イベコンなら、容姿もオシャレ度もレベルの高い子が多いし、友達になりたいと思える子がきっと見つかるはず。私は…あんな山奥に収まりたくない!」
早速、面接を受けて合格し、コンパニオンの登録を完了。そして、イベントの仕事を次々とこなしていった。
莉緒はまだ1年生で大学の授業が多いため、自分のスケジュールに合わせて調整できるイベコンのバイトはとてもありがたい収入源だった。
イベントに合わせて用意される制服や衣装を着て、きちんとヘアメイクをして、ショールームやブースに立ってお客様を案内するという仕事は、莉緒には楽しく思えた。
しかも、周りのコンパニオン仲間も「同レベル」と莉緒が認められるくらいの容姿だったし、クライアントの大人たちも、女子大生と知れば途端に優しくしてくれる。
いつしかイベコンのバイトは、多摩での鬱屈とした日々を忘れられる大切な時間となっていた。
「あー!自分の居場所を見つけることができた!」
そう思っていた矢先…。
莉緒の目の前に現れたのは、“目の敵”と言える存在の可奈子だった。
コンパニオンのバイトに満足する莉緒。彼女の前に現れた可奈子の正体とは?
可奈子とは、コンパニオンのバイト先で知り合った。
彼女は、中学受験で慶應義塾中等部に入学。そのまま進学した慶應義塾女子高を卒業後、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス、通称SFCにある総合政策学部に進学した経歴の持ち主だ。
中学受験を経て慶應に入学した才媛で、まさに完璧な慶應ガールである。
そして、可奈子が持っているのは、華麗な経歴だけでない。
165cmを超える身長に、細身のスタイル。派手ではないものの整った目鼻立ちは、いかにも化粧が映える顔立ちだ。
そんな可奈子がイベントで用意された衣装を着て、ステージ用のメイクを施すと、その場をパッと明るくするようなオーラが出てくるのだ。
「今日はよろしくお願いします。あちらのコンパニオンさんは、可奈子さんでしたっけ?とてもスタイルよくて華やかで、素敵な方をアサインいただいてありがとうございます!」
「いえいえ、とんでもございません。彼女、外見がいいだけでなくて大学も慶應なんですよ」
イベント前の舞台裏で交わされる、クライアント企業の広報担当とエージェントとの会話は、聞きたくなくてもつい耳に入ってきてしまう。
まるで、可奈子という主役を照らす脇役のような莉緒。
「私が持っていないもの、可奈子ちゃんは全部持っている…」
同じイベントに出るたびに、可奈子への妬みが強くなっていく莉緒だった。
莉緒の嫉妬など知る由もない可奈子は、当然ながらバイトで一緒になった時にいつも優しく接してくる。
― 可奈子ちゃん、私のことをライバルとも思っていないし、私がどう思っているかも興味ないんだわ…。
邪気のない可奈子の姿が、莉緒の苛立ちをより一層募らせるのだった。
◆
「あー、疲れた…。でも今日はコンパニオン1人だったから気楽だったな」
イベントの帰り道。乗り換えの新宿駅南口を歩いていた莉緒は、いきなり後ろから声をかけられた。
「あー!莉緒ちゃーん!!」
振り向いた先にいたのは、あの可奈子だ。
「あれ?可奈子ちゃん…」
イベコンの衣装を脱いだ普段着の可奈子は「華やか」の「は」の字もない。
気合の入ったスナイデルのワンピースを着た莉緒に対して、シンプルなトップスにジーンズとスニーカーといった、まったく飾り気のない可奈子。
莉緒は、思わず拍子抜けしてしまった。しかし、可奈子をよく見てみると…。
シンプルな装いゆえに世の中の9割の人間は地味になるが、彼女は違った。長い脚を包むジーンズのラインの美しさは、遠くからでも目を引く。
「お疲れー!バイト帰り?私、今授業が忙しくて、ちょっとバイト控えめにしていて…。私、莉緒ちゃんに負担かけていない?」
そう話す可奈子を前に、莉緒は尋ねた。
「ううん…大丈夫よ!ところで、可奈子ちゃんは…大学の帰り?スニーカーにジーンズだけど、いつもその格好で通っているの?」
可奈子の格好はまるで地方の国立大学に通う学生のようで、莉緒が思い描く慶應生の姿とはかけ離れていたのだった。
「そうよ。うちのキャンパス、湘南台から30分もバスに乗らないといけないし、しかもめちゃくちゃ坂が多いの。ホント、スニーカーじゃないと無理!」
― なんだ。可奈子ちゃんって、いたって普通の子なのね…。
美しい容姿と明晰な頭脳、そして気さくで優しい性格。“すべてを持つ”可奈子は、莉緒のみならず多くの女性の嫉妬を買っていることだろう。
だが、そんなことを可奈子は気にしていない。周りと比較することなく、彼女自身が生きたいように生きているだけなのだ。
そう認識すると、今まで可奈子に対して抱いていた黒い感情が、自分の中で少しずつ薄れていくのを莉緒は感じた。
「足、止めさせてしまってごめんね!じゃ、またねー!」
こう告げて去っていく可奈子の後ろ姿を見ながら、莉緒は思った。
― 可奈子ちゃんと私は、根本的に違う人種なのだわ。勝てないし、そもそも勝つ必要もない。私、何1人で戦っていたのかしら…。
可奈子と同じ仕事の時には「可奈子と比較されるのでは」と勝手に落ち込み、仕事が重ならないと「今日は観察相手の可奈子がいない」とガッカリしていた。
莉緒はそうやって、1人可奈子を目の敵にして戦っていたのだ。
しかし、可奈子と自分は、別の人間だ。どちらが良い悪い、勝ち負けなどではなく、そもそも「違う」のだ。
人間にはそれぞれの良さや輝き方がある。
自分のそれに目を向けることなく、可奈子ばかり見ていたことが恥ずかしく思えてきた一方で、どこか肩の力が抜けていく莉緒だった。
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「法政に第一志望で入った子はいない」 そう言われ続けて…まさかの一発逆転!?