いまや私たちの日常に溶け込んでいるSNS。

InstagramやYouTube、Twitterなど、とても便利で面白いツールだが…。

そこには、とんでもない“ヤバイ世界”が潜んでいる可能性も。

SNSの沼にハマった女たちに待ち受ける衝撃の事件と、その結末は…?

▶前回:意中の彼を部屋へ招くため、15万円使って模様替えする女。「告白は目前!」と確信していたが…




「副業:YouTuber」女の誤算〜芽衣(26)の場合〜【前編】


「すごい!もうこれ、プロレベルだよ!」

私は、興奮がなかなか収まらない。

日曜日の昼下がり、同期で親友の才加とカフェでランチをしていたときのこと。「実はね…」と、才加が“副業”でWEBライターをしていることを打ち明けてきた。

私たちの本業は、美容クリニックの看護師。副業はNGなのだが、実際は、隠れて副業をしている人が多い。みんな「セカンドキャリアのため」とか、「ずっと夢だったことに挑戦したい」とか、「もっと稼ぎたい」とか、いろいろな理由で副業をしている。

才加はもともと本を読むのが好きで、物書きに興味があったのだという。

実際に彼女が書いた記事を読んで、その質の高さにびっくりするとともに、何よりその記事が1万viewを超えていることに心底驚いた。

「はじめは、医療系のサイト向けの記事だけだったんだけど、今は複数の媒体から恋愛、グルメ、教育とか、いろんなジャンルを任せてもらってて。すごく楽しいんだ」

才加は、笑顔でこう続ける。

「どれも心ばかりの報酬だから、ライターだけで生計を立てるのは難しいけど…やっぱり自分のやりたいことができて、それでお金を稼げるっていいなって改めて思ってさ」

そう言うと、才加は穏やかな様子でハーブティーを飲んだ。その充実感漂う姿に、私はひどく動揺した。

私は、看護師として働き始めて数年、何度も転職を考えたことがあった。今の職場は、残業はそこまで多くなく、職場環境もいい。看護師という仕事も嫌ではない。

でも、そこに“楽しさ”は一切ない。

とはいえ、どんな仕事に対して楽しいと思えるのかも、よくわからなかった。だから、転職を踏みとどまったのだ。

楽しそうに話す才加を羨ましく思うと同時に、私よりもずっと先を行っているように感じた。

自分も何か始めなくては取り残される、という焦りが募った。


才加に感化された芽衣がひっそり始めたこととは?


才加とのランチの後、代々木上原の自宅に帰宅してすぐに、私は副業について調べた。

今のご時世を考えて、WEBライター、投資、ハンドメイドグッズの販売など、在宅でできる副業を中心に探してみたが、どれもしっくりこなかった。

そんななか、目についたのが「YouTuber」だった。

「小学生がなりたい職業ランキング」で1位になるなど、最近やたらとニュースで目にすることが多いこの職業。そもそも、どうやってマネタイズしているのか気になった。

調べると、今はYouTube内の広告収入のほかに、ライブ配信でのスパチャ(投げ銭)や、企業から直接広告の案件がきたりなど、YouTubeを使って稼ぐ方法は多様化しているようだった。

チャンネルのテーマは何でもよく、スマホでも容易に編集ができるらしい。

― 意外と手軽みたいだし私にもできそう!私が得意なテーマ…ヨガのYouTuberとかいいかも!

私は学生の時からヨガにハマっており、今も自宅での毎日のルーティーンになっている。その様子を撮ってあげるだけなら片手間にできる。

早速、YouTubeチャンネルを開設してみることにした。



翌日の夜。ひと通り、YouTubeアップにおけるあらゆる手順を確認したうえで、早速ヨガ動画を撮影した。

そして、スマホのアプリで簡単な編集を施そうとしたのだが…。そこで、ひとつめの壁が立ちはだかった。

― 編集が大変すぎる! How Toサイトには、スマホ編集なら1〜2時間でできるって書いてあったのに…!

50分ほど撮影した動画を15分にまとめ、簡単にテロップを付けるだけで5時間以上かかってしまった。副業がバレたらまずいので、顔出ししないようにうまく編集するのにも手こずった。

初めての動画編集だったとはいえ、毎回こんなに時間がかかるのかと思うと、早くも心が折れそうだった。

なんとか仕上がった動画に、タイトルやコメント、タグ付けなどをする。そして、やっとアップロード。

動画が自分のチャンネルに上がった瞬間の達成感はひとしおだった。

― 自宅で簡単にできるポーズだし、きっと再生回数も伸びるはず!

……しかし、本当の苦労はここからだった。




「全然再生されてない……。なんで?」

初めて動画をアップしてから3日が経過したが、再生回数は30回ほど。そのほとんどが、自分のPCやスマホで再生したものだろう。そして、アップから1週間が経過しても、状況は変わらなかった。

それから、再生回数を上げるためにさまざまなことを試した。動画アップを毎日継続したり、Twitterアカウントを開設して動画への流入導線を作ってみたり。効果音やテロップといった編集部分にも変化をつけてみた。

でも、再生回数は一番多いもので70回。登録者数は2週間で10人ちょっとしか増えなかった。

悩んだ末に、私は“奥の手”を使うことにした。



「へぇ〜芽衣がYouTubeねぇ〜」

外苑前の『礼華 青鸞居』で、私は気恥ずかしさから俯き、顔を赤くする。

そんな私を見てニヤニヤと笑うのは、高校時代の同級生・順也。彼は、YouTubeの総合プロデュースを行う会社で、有名YouTuberのマネジメントを担当している。

本当は彼に頼りたくはなかったのだが、考え得る手段を尽くした私は、彼にすがるしかなかった。

「ここは私のおごりでいいから。お願い! 何かアドバイスがほしいの」

「うーん、でも副業禁止だから顔出しできないんだもんなぁ……」

順也は腕を組んで考えるポーズをしたあと、何かひらめいたのか「あっ」と声を上げた。


順也から受けた予想外のアドバイスに芽衣は…


「ボディラインがくっきりわかるヨガウェアにしてみたら?芽衣、スタイルいいんだし」

私が眉をひそめて「え?」と怪訝な表情で聞き返すと、順也は少し慌てた様子で自身のスマホを見せてきた。

「いやいや、本当にセクシー寄りだと再生数伸びるんだって。この人なんか、広告収入の他に企業案件で何千万も稼いでるんだよ」

順也が見せてきた何人かのYouTuberたちは、皆スタイルの良い女性だった。その全員のチャンネル登録者数が、10万人超え。

しかも、顔出しは一切なし。どの動画を見ても、首から下のアングルばかりで、服装もきわどいものばかりだった。

私のヨガウェアはというと、ダボっとしたシルエットのものばかりで、肌見せなどもほとんどない。

― もしかしたら、ヨガウェアを変えるだけで登録者数が増えるのかも…。

私は、思わず生唾をごくりと飲み込んだ。

「ヨガウェアの件、少し検討してみるね」

順也にはそう告げたが、もう心を決めていた。



順也との食事から帰宅後。

早速、自分が持っているすべてのヨガウェアを引っ張り出す。そして、その中でも一番セクシーに見えるノースリーブのヨガウェアを着て、鏡に映る自分を見る。

季節的にはまだ寒いし、かなり気恥ずかしかったが…。私にはもうこの手段にすがる他ない。

意を決して、この姿で動画を撮影した。




翌日、少し期待をしながら動画を開く。が、再生数に変化はない。

少しガッカリしたが、めげずにとりあえず1週間は毎日この方向性で動画をアップし続けることにした。

すると、それから2週間後のこと。変化が出始めた。

アップするすべての動画の再生数が500回を超え、日によっては1,000回を超える日もあった。微々たる変化なのだろうが、私はいままで経験したことのないほどの喜びを感じた。

順也に電話をかけてその報告をすると、

『方向性を明確にしたのがよかったんじゃない?それで、視聴維持率とかクリック率が高まって、動画がおすすめ表示されやすくなったのかも。どっちにしろ、毎日続けた成果だと思うよ』

とのことだった。

― チャンネル登録者数も増えてるし、コメントも今までで一番もらえてる。誰かに見てもらえるのってこんなに嬉しいことなんだ…

私は快感に震えた。

その日を境に、私はどうしたら「フツーじゃなくセクシーに魅せられるか」をより強く考えるようになった。

ヨガウェアを変えただけでは、先は見えている。だから、いろいろなことにトライした。

アングルをおしりや胸元に寄せてみたり、時には失敗して転んでしまったところをあえて盛り込んでみたり。ひと通りヨガを撮った後は、自分の恋愛について語る“オマケ”のシーンを設けたりもしてみた。

すると、うなぎ上りに登録者数や再生数が増えていき、“ファン”と呼べるような人たちもついた。

「次はこういうヨガのポーズをやってほしい」「こんな感じの衣装を着てほしい」という要望にもできるだけ応えて、“ファンサービス精神旺盛な配信者”としても話題に。

1日で一気に100人以上登録者数が増える日なんかもあり、私はこの何にも代えがたい優越感に浸っていた。

はじめは、少なからず自分の動画を通してヨガの魅力を伝えたいという気持ちもあった。が、今はもはやそんなことどうでもよくなっていた。



YouTubeを開設してから3ヶ月後、ようやく目標としていた登録者数1,000人を突破。

収益化の承認も下り、本格的に副業としてYouTubeを運用できるようになった。

― ついにここまで来た…。

私は達成感でいっぱいだった。こんなにも本気で“楽しい”と思えたのは、はじめてだった。

才加にも、次ランチするときに自信を持って報告しよう、そう思っていた矢先。チャンネル内の思わぬコメントが、目に留まる。

『あなたの動画のせいで、ヨガをする女性が性的アイコン化されてしまいます。同じ女性として不愉快だし、迷惑です』

今までも否定的なコメントはいくつもあったが、どれも男性とおぼしきアカウントからの下品な罵詈雑言だったのでスルーしてきた。だが、これは明らかに違う。

胸がちくりと痛んだ。

しかし、コメントひとつひとつに対していちいち感傷に浸っていては、キリがない。

― 人気者になれば、アンチが出てくるのは仕方のないこと。私は私らしくいよう。

そう自分に言い聞かせ、何事もなかったかのようにコメントを読み飛ばした。

このときの私は、自分がアイドルにでもなったかのような大きな勘違いをしていた。

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アンチをスルーする芽衣だったが、ほどなくヤバい出来事が起こり…