新婚旅行なのに夜は何もなかった…。それ以外はパーフェクトな夫なんだけど
ハイスペックといわれる男性は、小さなころから母親に大切に育てられていることが多い。
それゆえ、結婚してから、子離れできていない母親、マザコン夫の本性が露呈することもある。
あなたは、この義母・サチ子に耐えられますか―?
◆これまでのあらすじ
義母・サチ子とランチに行った春乃。サチ子からお礼に高級ブランドバッグを買い与えられたが、使う気になれずにいた…。
▶前回:20万超の義母からのプレゼントなんていらない!29歳女の悲痛な叫び
Vol.6 お義母さまに緊急事態発生!
5月下旬の日曜日の朝8時。
ベッドで2度寝をしていた私は、サイドテーブルに置いてあるスマホの振動音で目を覚ました。
夫の将暉は、彼の父親や友人たちとゴルフで、早朝に小金井カントリー倶楽部に出かけた。もっと寝ていたかったのにと恨めしく思いながらスマホに手を伸ばすと、サチ子からのLINEだ。
― 朝から一体何の用?
うっとうしく思いながらメッセージを開封する。『緊急事態発生!家にいらして』というメッセージに、泣いているうさぎのコミカルなスタンプと、彼女の手作りと思われるいなり寿司の写真が添えられている。
― いなり寿司を作りすぎたから、食べに来いってこと…?どこが緊急事態なのよ。
心の中で突っ込みを入れてから、返信する。
『緊急事態って、どうされたのですか?』
『夫の行動が怪しくて…、できれば直接話したいの。お昼がてらいらしてくださらない?いなり寿司もあるから』
― お義父さまが怪しいって、まさか浮気とか…!?
サチ子からの返信を見て急に心配になった私。彼女のことは好きになれないが、これは嫁として一刻も早く駆けつけるべき事態だろう。
私は『わかりました。今から準備して伺いますね』と返信し、ベッドから出て、着替えと化粧を済ませた。
持っていくバッグを選ぼうとした私の目に、サチ子からプレゼントされたブランドバッグが入っている未開封のままの袋が映った。
持つ度にサチ子に見張られている気分になりそうなので、使う気になれないまま3週間放置していた。
“今日は持っていくべき?”とも思ったが、サチ子に対するささやかな抵抗とばかりに、いつも使っているセリーヌのグレーのベルトバッグを持って行くことにした。
将暉の実家に駆けつけた春乃。サチ子に対して、ささやかな復讐を試みる…
10時頃自宅を出た私は、池尻大橋から田園都市線で渋谷へ。山手線に乗り換え新宿に向かった。そして、中央線に乗り換えて国立へ。駅から徒歩10分ほど歩き、将暉の実家にたどり着いた。
大きな門のインターホンを押すと、愛犬きなこを抱きかかえながら、サチ子が出迎えてくれた。
「春乃さん、いらっしゃい。急にお呼び立てしてごめんなさいね」
彼女は、黒地に赤い薔薇が正面に描かれたカットソーという相変わらずド派手な服装だったが、いつもより薄化粧で、あきらかに元気が無い様子だ。
ダイニングに通された私は、促されるままに椅子に腰掛ける。
「写真でも送ったけど、いなり寿司、もしよかったら召し上がって」
サチ子が、緑茶といなり寿司を運んできた。
「美味しそうですね、いただきます!」
朝から何も食べていなかった私は、いなり寿司を勢いよく食べ始めた。その傍らで、サチ子が思い詰めたような顔をしてこっちを見ている。
「お義母さま、お義父さまに何があったんですか?」
遠慮がちに私が声をかけたのとほぼ同時に、サチ子が口を開いた。
「パパがね、浮気しているかもしれないの…」
「えっ、お義父さまが!?どういうことですか?」
箸を止めて、私は尋ねる。
すると、目に涙を浮かべたサチ子が、義父のFacebookを見せてきた。「東大時代の同窓会」というコメントと、東京タワーをバックに義父を含む男性3人と女性1人が写っている写真が上げられている。
「同窓会って書いてありますけど、これのどこが浮気なんですか?」
私が問いかけると、サチ子は堰を切ったように話し始めた。
一昨日の夜、義父は大学の同級生と4人で、『東京 芝 とうふ屋うかい』に食事に行くと出かけていった。昨晩何げなく夫のFacebookを見たサチ子は、この写真を見てメンバーの中に女性がいたことを知ってショックを受けたそうだ。
「女性がいたことを隠すなんて怪しいでしょ?」
― たったそれだけのことで、私をわざわざ呼び出したの?
サチ子の話を聞いた私は、拍子抜けした。
“夫が怪しい”というので、私は、てっきり婚外子がいることが発覚したとかそういう話かと思っていた。信託銀行勤務という職業柄、資産家のお客さまと接する機会も多い。時には、婚外子がいることが判明して相続でもめるケースもあるので、その類の話かと勝手に想像していた。
でも、冷静に考えればサチ子のことだ。どうせくだらないことに違いないということを予想せずに、勝手に深刻な妄想をして、心配した自分も悪い。いつも振り回されているのに、何も勉強していない自分に笑ってしまう。
安堵した私は、これまでのお返しとばかりに、少しだけサチ子をからかいたくなった。
神妙な表情を作り、あえて彼女には無い魅力を挙げてみる。
「言われてみると少し怪しいかもですね。この方、さすが東大卒の才女なだけあって、知的な雰囲気で素敵ですし」
「……」
私の言葉にサチ子は、さらに消沈した。初めて彼女を落ち込ませることに成功して気が済んだ私は、少し間を置いてからフォローにまわる。
「なんて、冗談です!もし浮気してたら、Facebookになんて上げないですよ。それにこの女性よりお義母さまの方が、圧倒的にお若くて綺麗ですよ」
「春乃さんのおっしゃる通りね。この人、着ている服からしてセンスが無いし、よくよく考えたら、こんな女に私が負ける訳ないわ」
私の言葉を真に受けたサチ子は、ニンマリと笑い、いつもの強気なキャラに戻った。
この後、サチ子が送ったバッグを使っていないことを春乃に指摘し、険悪な雰囲気に…!?
「そうだ春乃さん。この前話した海外ドラマ、一緒に見ましょうよ。絶対に見た方がいいから!」
「は、はい…」
将暉の父親の話が一段落したあと、サチ子が、ハマっているNetflixの恋愛ドラマを強引に見せてきた。内容はとても面白く、続きも気になる。でも、サチ子がああだこうだと隣から解説してくるので、見るのにかなりの体力を要した。
2話目が終わったところで、私は彼女に声をかける。
「将暉さんが帰ってくるころなので、そろそろ失礼しますね」
玄関へと向かう廊下で、サチ子が問いかけてきた。
「そういえば、春乃さん。この前差し上げたバッグは?」
有無を言わさず自分が選んだものを一方的に押し付けてきて、さらにそれを相手が使っているかまでチェックしてくるなんてと、心底彼女が疎ましくなる。
だが、角を立てないよう言葉を選んで私は返答した。
「もったいなくて、使えないんです」
サチ子はやや不機嫌な表情を浮かべながらも、それ以上は何も言ってこない。
「では」と、私は逃げるように帰路についた。
◆
翌々週、6月上旬の木曜日。
私は、将暉と箱根の『強羅花壇』に新婚旅行で訪れている。
部屋付の露天風呂を楽しんだあと、夕食に懐石料理をいただいて、今は日本酒を飲みながらまったりと過ごしている。
「ここ、母さんも父さんと何度か来たことあるって言ってたよ」
少し頬を赤らめた将暉が、ご機嫌な様子で語った。
「そうなんだ」
「母さん、明日は短大の同級生たちと食事に行くんだって」
「……」
せっかくの新婚旅行なのに、将暉がサチ子の話ばかりしてくるのでうんざりしている。
平日はお互い仕事が忙しくすれ違いばかりで、休日もサチ子が乱入してくるので、ここ最近2人でゆっくり過ごせていない。彼とロマンティックな時間を過ごしたいと痺れを切らした私は、声をかけてみる。
「ねえ、そろそろ寝ない?」
「もうこんな時間か」
これから2人で畳ベッドに入るのかと思いきや、彼が予想外の言葉を口にした。
「俺、大浴場も行ってみたいんだよね。散歩して酔いをさましたら入ってくるから、春乃は先に寝てて」
そう言って、将暉は逃げるように部屋を出ていってしまった。
― もしかして一緒に寝るの、避けられてる?
取り残された私の頭には、うっすらと「レス」という言葉が浮かんだ。交際中や結婚式直後はそれなりにあったが、最近は彼から求められることがほとんどなくなったと感じていたからだ。
でも、そんなのただの考えすぎかもしれない。自分に言い聞かせた私は、寂しい気持ちを抱えたまま、1人で先に眠りにつくことにした。
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次週、新婚旅行から帰った春乃と将暉に、サチ子がした驚愕の提案は…!?