明治。青山学院。立教。中央。法政。そして、学習院。

通称、「GMARCH(ジーマーチ)」。

学生の上位15%しか入ることのできない難関校であるはずが、国立や早慶の影に隠れて”微妙”な評価をされてしまいがちだ。

特に女性は、就活では”並”、婚活では”高学歴”とされ、その振れ幅に悩まされることも…。

そんなGMARCHな女たちの、微妙な立ち位置。

等身大の葛藤に、あなたもきっと共感するはず。

▶前回:「オシャレ・華やか・派手」きらびやかなイメージを持たれる青学女子。仕事に真面目な彼女の苦悩とは?




File9. 梨花、立教大学。無難で世渡り上手って悪いこと?希望に満ちた入社式


「よし!これでOK!」

4月1日。

この春、立教大学社会学部を卒業した梨花は、就職活動で第一志望だった憧れの大手広告代理店の入社式に向かっていた。

「もう大学生じゃない、今日から社会人だわ!」

電車の窓に映る自分のスーツ姿を見て、気が引き締まる梨花。

入社式は新社会人にとって晴れの舞台であるだけでなく、会社の一員として過ごす最初の日だ。

そんな、一生の中でも大事な1日である入社式。

梨花はリクルートスーツではなく、入社式のために新調したTheoryのグレーのスーツで臨むことにした。

広告代理店は華やかな業界に思われがちだが、実際にはクライアントの業界に服装を合わせなければならない。都市銀行などの金融がクライアントとなる場合は、当然ながらオーソドックスな装いが求められる。

Theoryのスーツを選んだのは、配属先によって対応できるようにするためでもあった。

会社の最寄り駅に到着し、エスカレーターを上って地上に出た梨花は、思わず空を見上げた。

上空に広がるのは、澄み渡った青空。

それはまるで、新社会人の門出を祝しているようであった。

― 私はこの広告代理店の社員として、絶対に成果を上げてみせる!頑張ろう!

決意と希望を抱いた梨花は、入社式翌日からの新人研修にも真面目に取り組み、最初の1ヶ月はあっという間に過ぎていった。

新人研修の最終日。梨花は、いよいよ配属発表の時を迎えたのだった。


立教卒・真面目な梨花の“強み”と、気になる配属先は?


「周りに配慮して、目立たぬように」


迎えた配属発表の瞬間。

「俺、流通担当営業だよ…。土日も稼働だし、何よりクライアントが厳しいぜ」

「私はメディアプランニング!」

喜怒哀楽に満ちた周りの声を聞きながら、社内サイトで発表された配属リストを見て、梨花は思わず声を上げた。

「やった!」

『野村 梨花 マーケティング戦略事業部』

梨花の配属は、第一希望で出していたマーケティング戦略事業部だった。

マーケティング戦略は、広告代理店の中でも中核を担う部門だ。

広告代理店の各営業には、担当するクライアントに対して商品を売るために、広告において何を・どのようにして伝えるのかといった戦略が不可欠だ。

そして、その戦略を導き出すためには、対象の商品の課題を導出すると同時に、その課題を解決するための仮説立てと、検証するためのマーケティングリサーチが必要となる。

営業やクリエイティブ職が会社の顔であるならば、マーケティング戦略はその人々の頭脳となる立場なのだ。

クリエイティブ職は美大卒が多くを占めるが、マーケティング職は東大や早慶が多くを占める。

そんな職種に、立教大学卒の女子が抜擢されるというのは異例の出来事だった。






「4月に入社しました野村梨花です。精いっぱい頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします!」

配属された他の同期と一緒に並び、梨花は挨拶した。

― せっかく希望の部門に配属していただいたのだから、精いっぱい頑張ろう!

配属初日から、上司や先輩の指導の下、梨花は懸命に業務に取り組んでいった。

しかし、その懸命さをアピールせず、決して目立つことなく着実に仕事をすることを梨花は心がけていた。

梨花の最大の強み。

それは「絶妙に目立たないポジションで、周囲から浮かないように同調圧力にも器用に対応する能力」だ。

これは、立教大学、そして同じ日本聖公会系の香蘭女学校で学んだことだった。



梨花は、中学受験を経て入学した香蘭女学校で、中等科・高等科の6年間を過ごした。

香蘭女学校は立教学院とは別の学校法人だが、同じ日本聖公会系である立教大学に100名近い関係校推薦枠があり、実質的には付属校と言える。

香蘭女学校の教育方針の特徴は、キリスト教を教育の基盤に置きながらも「日本人としての心を育む時間」に重きを置いている点だ。

中等科では小笠原流の礼法の授業もあり、日本人としての心の表現、基本的な立ち振る舞いを徹底的に教育する。

― 日本人として、他者のために自分は何ができるのか。思いやりのある謙虚な姿勢とはどのようなものか…。

常にこう考えることを、梨花は香蘭女学校で学んでいたのだ。

そして梨花は、香蘭女学校内で常に上位の成績をキープし、立教大学では異文化コミュニケーション学部、経営学部と並んで人気の高い社会学部に推薦入学した。

大学進学後、社会学部でマーケティングを主に学びつつ、サークル活動で他校との交流も深めていった梨花。

その交流のなかで、立教大学は世間では「MARCHの中でも真ん中」「看板学部がなく、良くも悪くもイメージが薄い」と思われていることを梨花は知った。

他者を見た上で、自分がどう役に立つのかを学んだ香蘭女学校。そして、決してとがった大学ではない立教大学。

この環境で育った梨花は「周囲から浮かないように、同調圧力にも器用に対応する能力」という、自分の核となるものを育てていった。

一見、没個性のように見えるが、それは決して悪いことではない。

このバランス能力は、社会人になってから存分に発揮されるようになり、梨花が順調に仕事をする上での礎ともなったのだ。

しかし…。

何でもそつなくこなす器用な梨花に対して、気に入らないと嫌悪を剥き出しにした女子が現れるのだった。


器用に対応する能力を持つ梨花。彼女に対して同期からマウンティングが始まる…


梨花に対して、嫌悪を剥き出しにする女子。

それは、同じマーケティング職に配属された弓子だった。弓子は早稲田大学の大学院経済学研究科を卒業して入社。

そんな“ピカピカな学歴”の弓子からすると「早稲田の大学院を出た自分」が「立教大学学部卒の梨花」と同じ立場にいること自体が気に食わないのだ。

配属日の翌日に、弓子は梨花にこう言い放った。

「早稲田の院を出ている私と、立教の学部卒のあなたを一緒にしないでね。私たちは同期入社だけど、同じスタートラインじゃないから」

― な、何この人…。社会人1年目であることは、一緒じゃないの?

確かに、偏差値という物差しでは立教は早稲田に劣るし、院卒が学部卒をマウントすることも、新卒入社時にはよくある話だと先輩から聞いていた。

しかし、真正面からマウンティングをしてきた弓子に、梨花は面食らってしまったのだ。

― ムカつくけれど、気にしなければいいか。弓子さん少し個性的な人なだけど、仕事に差し障りがなければ放っておこう…。

弓子の発言に対する驚きと違和感を揉み消すかのように、梨花はこう思い込もうとした。

しかしその違和感は、次第に無視できなくなっていく。

ある日、取引先との会話で弓子はこう話した。

「私は早稲田大学の院を修了しました。ちなみに、隣におります野村は同じ新卒ですが、立教大学を卒業しました」

― それ、今言う必要ある?…それに、取引先の前で大学名を持ち出して話する?

弓子の顔を横目にしつつ、何とも言えない気持ちになりながらも、梨花は会議室で微笑みを浮かべるのだった。

また、別の日の部署の懇親会では、弓子は同じ早稲田卒の先輩にこう話を振った。

「先輩!昨日の早慶戦、観ましたか?あ、立教卒の梨花さんには関係ない話でごめんね」

― 「ごめんね」って、別に謝られる話でもないし…。そもそも弓子さん、態度でわかるけど謝罪する気ないよね…。

「仕事に差し障りがなければ放っておこう」

そう思っていたものの、弓子にバカにされ続けていることに悔しさを募らせていく梨花。

だが、周りと協調することを良しとする梨花は、弓子のようなやり方で相手を陥れるようなことは決してしたくないとも考えていた。

― 弓子さんを陥れずに、でも黙らせるためにはどうすれば…。そうよ!私が仕事で着実に力をつけて、圧倒的な実力を見せつけるしかないんだわ!

梨花は、こう決心したのだった。




「野村さん、ちょっといいかな?」

上司は梨花を呼び出し、資料を見せた。

それは、あるクライアントの商品を提案するために使用する、マーケティング部門としての調査結果だ。

「これを見て、どう思う?」

上司の問いに、資料を見た梨花はこう答えた。

「調査は非常に綿密だと思います。ただ、率直に申し上げると仮説設定が甘いせいか、調査が多い割に結論が弱いかと…」

梨花の返答に満足したのか、上司は微笑みながらこう指示した。

「私も同じ考えだ。この資料は君の同期が作ったものだが、このままでは営業には出せない。申し訳ないが、君に明日までに再作成してもらいたい」

― 同期って、この資料を作ったの、弓子さん…?

弓子の名前をあえて出さずに「君の同期」と表現したことで、彼女に対する上司の思いを梨花は察した。

しかし、今は弓子について何か話す場ではない。提案に有効な調査結果を営業に提出することが最優先だ。

「承知いたしました。最優先で対応いたします」

急いで営業からの資料を読み込み、仮説立てと調査を進め、梨花は何とか期限内に仕上げることができた。



1週間後。

「先日は急だったのにありがとう。助かったよ!」

梨花が作成した資料で、営業は無事に提案を持ち込むことができたと上司から報告を受ける。そのとき、梨花は心底安堵したのだった。

一方、弓子は上司からの叱責を受けたのだろう。ここ数日、彼女は元気がなく、梨花に何か言ってくることもなくなっていた。

― この状況で立場が逆だったら、きっとまた学歴マウンティングされたんだろうな…。

今までの憂さ晴らしとばかりに、弓子の綿密だが意味をなさない調査に対して、梨花が実務マウントを取りにいくこともできた。

しかし、周囲から浮かないように、同調圧力にも器用に対応する能力を持つ梨花は、そんなマウントは何の意味もないことだと理解している。

一般的には、華やかでとがっている人の方がよいとされるかもしれない。

しかし、梨花のような、モノゴトを着実に進めてくれる存在も、同じくらい必要な人間なのだ。

― 私の長所は、周りを見て、配慮して、色んなことに器用に対応できることなのかもしれない。とがった能力はないかもしれないけれど、こうして地道に周りの信用を勝ち得ていくのが、立教で育った私のスタイルなのかな。

梨花はぼんやりと、そう思っていた。こうして、梨花は自分の能力に少しだけ自信を持てたのだった。

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