同じ会社、同じ部署。そこで働く、27歳・同い年の美女ふたり。

世渡り上手のあざとい女子と、真面目過ぎて融通が利かない女子。

彼女たちは見た目から性格、そして行動まで、何もかもが“正反対”なのだ。

そんなふたりが恋に落ちたのは、同じ会社のイケメン次期社長!?

美女ふたりからアプローチを受ける御曹司は、一体どちらの女性を選ぶのか。

◆これまでのあらすじ

イケメン御曹司・英琉を広報部に迎えてのバレンタイン。彼のことを狙う紗良は、気合を入れたチョコを無事に渡すことに成功。だが、それを食べていたのは、彼ではなく七瀬だった…。

▶前回:高級チョコをあげる女 vs. 何も用意しない女。バレンタインに御曹司を振り向かせるのはどっち?




Vol.3 正反対のふたり

〜狙った男は絶対落とす!紗良の鉄板テクニック〜


「村上さん、大丈夫?何か僕にできること、ある?」

男の人からこの言葉を引き出すことができたら、こっちのもの。

3ヶ月前に別れた元カレも、私が楽々と落としたうちの1人だった。

彼は、広告代理店の第一営業部で働くエリート。私とは、当時担当していた新商品のCM撮影の現場で知り合った。広報部で働いているとこういった出会いは意外と多い。

慶應卒で将来有望。そんな彼を落とそうと決めた私の戦略はこうだ。

「えー、本当ですかあ?マスコミ向けのプレスリリースを書いてるんですけど、うまくまとまらなくて。…うーん、こういうのってどうしたら上達するんだろう?」

― 本当は、プレスリリースを書くのって超得意なんだけどね!

人差し指をあごに添えて、ほんの少し上目遣いで相手を見る。すると、たいていの男の人は私の本心に気づくことなく、嬉々としてアドバイスをくれるのだった。

あとは、大げさなくらいに感謝を伝えて、相手の自尊心を高めてあげればいい。

だが、ここで終わらせるだけではもったいない。

特に、相手がハイスペックな男の人の場合は成果をプラスして伝えて、向上心や自立心のある女性なんだと思わせることがポイントだ。

こうやって、これまで狙った相手を次々と落としてきた。

そんな私の次のターゲットは、社長の息子・英琉。

イケメンで人当たりもよさそうだし、次期社長という人物とあれば、アプローチしない理由はない。

彼の好みを徹底的に下調べして距離を詰め、バレンタインにはとっておきのチョコを渡した。

だが…私のチョコを食べていたのは、英琉ではなくあの女・七瀬だったのだ。


紗良が気合を入れて用意したチョコは、七瀬に食べられてしまった…


― やっぱり私、あの子のこと嫌いだわ!ムカつく〜っ!

バレンタインから数日経っても、七瀬に対して怒りがこみ上げてくることが何度もあった。

帰宅後、ベッドに向かってバッグを投げつけたい気持ちになったが、それがルイ・ヴィトンのスフロ BBだったことを思い出してやめる。

このバッグは、元カレからプレゼントだ。大きすぎず、小さすぎないサイズ感。それと、角に丸みがあるデザインは女性らしい柔らかさが感じられて、気に入ってよく使っている。

ほかにも、部屋の隅にあるガラスキャビネットの中には、シャネルのチェーンウォレットやハンドバッグ。ヴァン クリーフ&アーペルのアルハンブラのアクセサリーが、いくつかしまってある。全部、元カレたちからの贈り物だ。

それを見て、自分に自信を取り戻そうと一息つく。

だけど、“あの場面”を思い出すと、何度でも頭に血がのぼってくるのだった。



「それ……!もしかして、私の…?」

私が英琉にあげたチョコを、満足げに頬張る同期の七瀬。その隣にいる彼は、ぼう然と立ち尽くす私のことを「しまった」というような顔で見た。

「あの、村上さん…すみません…。僕たち、お昼まだで。それに、このチョコがあまりにも…」

その場を取り繕おうとする英琉の言葉を遮ったのは、七瀬だった。

「村上さん、ごめんなさい!私が勝手に…」

2人から謝られると、ますますみじめな気持ちになる。本当は、一刻も早くこの場を離れたかったが、私はわざと悲しそうな笑みを浮かべて、けなげにこう言った。

「それ、日本初上陸のブランドのチョコなんですよ〜!おいしくないですか?…あ!それよりも早く片づけ、終わらせちゃいましょっ」

英琉と七瀬は気まずそうに顔を見合わせると、手早く片づけに取りかかった。

― 何で、私が一ノ瀬さんにあげたチョコを…。よりによって、どうして七瀬が食べてるのよ!2人とも、無神経すぎない!?

イライラする気持ちを隠し、反対にションボリとして見せることで、英琉に罪悪感を抱かせる作戦は成功した。オフィスに戻ると、少し遅れて彼が私のもとにやってきた。

「よかったら、これどうぞ。さっきは、本当にすみませんでした」

デスクにそっと置かれたのは、スタバの紙カップ。中身は、生チョコがたっぷりと使われた季節限定のカフェモカのようだ。

それを一口飲んで、彼のデスクのほうへ顔を向ける。

「村上さん、休憩中によく甘いものを食べていたから。これも好きかな、と思ったんです」

まだどこか申し訳なさが残る彼の笑顔を見て、私はほんの一瞬だけドキッとした。

それから、カップを手に席を立つと、七瀬のデスクまで歩いていき、得意げな顔をして見せつけてやったのだった。

すると七瀬は、デスクの下でギュッと手を握ったように見えた。

― あ、もしかして悔しがってる?

散々な一日だったけれど、最後に私は、ちょっとだけ優越感に浸ることができたのだった。




〜七瀬がかたくなに人を頼らないワケ〜


「七瀬、すごいな!俺よりも営業成績上じゃん」

指先で頭をかきながらそう言うのは、当時付き合っていた彼氏だ。私たちは、営業部の同期だった。

「そんなことないよ。今月は、たまたまだから…」
「いや、七瀬が頑張ったからだよ!今日はおいしいものでも食べに行こう」

入社後、私は営業部に配属された。そこで知り合った同期の彼とは、ときには競い合うようにしながら、仕事以外のプライベートでも次第に関係を深めていったのだ。

ところが、それも長くは続かなかった。私のほうが仕事で成果をあげることが増えると、彼の態度は一転する。

「七瀬といると、気が休まらない。別れてほしい」

そう告げてきたと思ったら、今度は部長や先輩社員たちに根も葉もない私の悪い噂を吹聴するという幼稚な手段で、足を引っ張ってくるようになった。

― くだらない。ていうか、こんなことをするような人だったなんて、早く別れてよかったわ。

学生時代に付き合っていた彼氏も、試験の成績が私よりも低いとわかると簡単に好意をひっくり返してきた。

けれど私は、たとえ相手が彼氏でも、勉強も仕事もわざと下手に出るようなことはしたくない。むしろ、もっと頑張ろうと俄然やる気が湧いてくるのだ。

だから、広報部への異動が決まったときは、心底ガッカリしてしまった。営業部では数字で判断できるわかりやすい目標があるが、広報部だとそうもいかない。

そのうえ、紗良と一緒に働くようになってからというもの、必要以上にイライラすることが増えたのだった。


優秀な七瀬に嫉妬する元カレたち。その上、広報部で紗良と働くようになり…?


広報部に異動してきて、3年。

仕事内容は、営業部時代とは違うけれど不満はない。

部署内のほとんどは女性社員だが、仕事をきっちりこなしたいタイプの私に対して、元カレみたいに嫌な態度を取る人がいなくて働きやすい。

ただ、同い年で同期の紗良を見ていると、どうもイライラしてしまう。

なぜなら彼女は、人に頼ることでうまく世渡りをしているのが、うっすらと透けて見えるからだ。

「部長ぉ〜。あの、この仕事って私のほかにも誰かヘルプでつけてもらえませんか?ちょっと、大変かもしれません」

「うーん、じゃあ、今抱えている仕事を長谷川さんに引き継いでもらって、村上さんは新しい仕事に取りかかりましょうか!」

― えっ、また私が紗良の尻ぬぐい?いい加減にしてよ…。

こんな会話が聞こえてくると、心の中で毒づかずにはいられないのだった。






紗良は3年以上彼氏がいない私とは正反対で、恋愛においてもなかなかやり手のようだ。

次から次へと新しい恋の噂が絶えない彼女は、ついこのあいだ、取引先の広告代理店の彼と別れたらしい。それなのに、もうすでに次のターゲットを英琉に絞ったようだった。

だから、バレンタインの日。英琉から差し出されたチョコが紗良からのものだったと知ったときは、悪いなとは思ったけれど、どうせ本気ではないのだろうとも思った。

だが…彼女は思いのほかショックを受けていたようだ。無理して笑う表情が痛々しく見えて、私は自分の軽率な行動を反省した。

しかし、私がオフィスに戻ると、英琉から差し入れをもらってすっかり機嫌を直した紗良がいた。

こちらに近づいてきたかと思ったら、不敵な笑みを浮かべて見せたのだ。それで、私は手に持っていた紙袋を思わず隠してしまった。

― やっぱり彼女のこと…あんまり好きじゃないわ。感じ悪い!これ、自分で食べよう。

さっきのお詫びにと買ってきたチョコレートたっぷりのスコーンを、私は自分のバッグの中にギュッと押し込んだ。

ただ、紗良を見ていると、恋も仕事も私より要領よくやっているように思える。英琉は、彼女みたいな人のことをどう思っているのだろう。ふと、そんな考えが頭の中をよぎった。

そのとき私は、なんとなく斜め向かいのデスクに座る彼に見られているような気がしたのだった。

▶前回:高級チョコをあげる女 vs. 何も用意しない女。バレンタインに御曹司を振り向かせるのはどっち?

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ふたりの女性のあいだに挟まれる英琉の心境は…?