「青学っぽい!」きらびやかなイメージを持たれる青学女子の苦悩
明治。青山学院。立教。中央。法政。そして、学習院。
通称、「GMARCH(ジーマーチ)」。
学生の上位15%しか入ることのできない難関校であるはずが、国立や早慶の影に隠れて”微妙”な評価をされてしまいがちだ。
特に女性は、就活では”並”、婚活では”高学歴”とされ、その振れ幅に悩まされることも…。
そんなGMARCHな女たちの、微妙な立ち位置。
等身大の葛藤に、あなたもきっと共感するはず。
File8. 理沙、青山学院大学。私は真面目なのに…。‟青学イメージ”にうんざり
― あぁ、頑張ってるのにどうして認めてもらえないのかなぁ…。
理沙は、念願の大手税理士法人への入所を果たしたというのに、心の中では不満を抱えながら働いていた。
その不満とは「自分がどこか“軽んじた扱い”を受けている」ということ。
理沙が卒業したのは、青山学院大学。
近年は箱根駅伝での活躍が目覚ましいものの、一般的には「オシャレ」「華やか」「派手」というイメージを持たれがちな大学である。
確かに青学は、芸能人の子息が多く通い、表参道にキャンパスを構えているため、きらびやかなイメージを持たれるということは理沙もわかっていた。
そのイメージに負けず一生懸命に就活をした結果、大手税理士法人に入所したというのに…。理沙を待ち受けていたのは「青山学院大学卒」といったレッテルによる“軽い扱い”だったのだ。
「あぁ、大学は青学なんだってね!理沙さんオシャレだし、確かに青学っぽい!やっぱり大学時代って結構遊んでいたの?」
配属先や飲み会などの会話では、必ずこう言われてしまう。そのたび理沙は、うんざりした気持ちでこう思うのだった。
― 「青学、青学」って、だからって何だって言うのよ。青学だからって皆が皆お金持ちで華やかなわけないじゃない。少なくとも私の友達は、勉強やサークルを真面目に頑張っている子ばかりだったし、私だってちゃんと勉強してきたのに!
そう思いながら、鬱々とする理沙だった。
青学時代の理沙。彼女が努力する理由とは…?
「手に職を」を決意した父の死
理沙の青学時代は「模範的な大学生」そのものだった。
授業やゼミに熱心に参加し、3年生を終了した時点で卒業単位を取得。しかも、単位を早々に取得しただけではなく、理沙の成績通知書はAAとAで8割を占めており、卒業時には表彰も受けたのだ。
さらに、理沙は大学の勉強だけではなく、高校生を教える個別指導塾のバイトにも熱心に取り組んでいた。そこでも、理沙の指導力は高い評価を受け、高時給で数多くの生徒を受け持っていたのだ。
バイトで得たお金は、税理士資格取得のための大手スクールに通う学費に充てていた。
― 私は、手に職をつけて生きていくんだから!
華やかなイメージを持たれがちな青学にあって、日々頑張る理沙には、そのような強い信念を持つ“ある理由”があったのだ。
◆
それは、高校2年生の秋の出来事。
その年の初めからガンで体調を崩していた理沙の父は、48歳の若さで亡くなったのだ。
大好きな父との、あまりにも早い別れ。母と理沙は打ちのめされた。
― 私、本当は大学に行きたかったけれど、この状況で進学していいのかなぁ…。
高校3年生への進級を控え、迷う理沙に対して母はこう言った。
「理沙、心配しなくて大丈夫よ。あまり贅沢はさせてあげられないけれど、お母さんが働いてあなたの学費は稼ぐから、安心して受験勉強しなさい」
薬剤師の資格を持つ母がかけてくれたこの言葉に、理沙はどれだけ勇気づけられただろう。
そう、理沙が大学に進学することができたのは、手に職を持った母が経済的に自立していたからだったのだ。
― 女子であっても、手に職をつけて自立していないといけない。いつ何があっても、生きていかないといけないんだから!
母への感謝とともに、自分自身も経済的に自立しようという思いが、日に日に強くなっていく理沙だった。
◆
高校卒業後、理沙は青山学院大学経営学部に進学した。
「手に職をつけなければならない」
この思いを持っていた理沙が興味を持ったのは、経営学を学んでいくにつれて知った税理士の仕事だった。
― 税理士は日本の経営に欠かせない存在だわ。だから絶対に必要とされるし、税務の知識で経営者の役に立てるようになったら、きっと面白いだろうなぁ…。
こうやって少しずつ「税理士資格を取りたい!」と意志を固めていった理沙。
この目標を達成すべく、大学在学中に簿記1級を取得し、税理士の科目試験を受けたのだ。
そして、奨学金制度を利用して青学の大学院に進学。税法の2科目の学位を取得し、並行して税理士の科目試験を受け、無事に税理士資格を取得したのだ。
資格や学位取得だけではなく学部在籍時と同様に、授業や課題にも真面目に取り組んだ結果、理沙は優秀な成績で修士課程を終えた。
そうして、晴れて大手税理士法人の門を叩いたのだった。
― これで、今まで育ててくれたお母さんにも、そして亡くなったお父さんにも恩返しができる!
このときまでの理沙は、希望に満ちあふれていた。
しかし、いざ税理士法人に入所した理沙を待っていたのは、“どこか軽んじられた扱い”だった。
その理由はただ1つ、「青学だから」。
「理沙さん、本当にいつもおしゃれで、さすが青学だねー!」
「やっぱり表参道で大学時代を過ごした人って、俺らとは違うわ」
身長が165cmを超える理沙は、背の高さで目立つことに自覚があった。そのため、とにかく地味な格好をするように心掛けていた。
にもかかわらず、入所同期の同僚から浮かないような服を身にまとっていても、なぜか理沙だと「派手」と言われてしまう。
一見褒めているようでありながら、そこはかとなく格下と見なす言葉の数々に、理沙は言いようのない悔しさを募らせていた。
そして、ある日。
我慢が限界を超え、理沙を奮い立たせる“ある出来事”が起きたのだ。
理沙の我慢の限界を超えた、ある出来事とは?
ふざけないで!私は真面目に生きてきたの!
理沙を奮い立たせた出来事。
それは、理沙がフロアのドリンクコーナーでコーヒーを買ってデスクに戻ろうとしていたとき、会議室から聞こえてきた会話から始まった。
声の主の1人は、今度クライアント先に同行させてもらうことになっていた、理沙の先輩にあたる中堅税理士だ。
「お前、今度あの河野理沙さんを同行させるんだってな?」
「あぁ、そうそう。『河野さんに経験積ませたいから連れていけ』って上司に言われちゃってさ。でもさぁ…河野さんって、いかにも青学って感じのちょっと派手めな子だし、そりゃ税理士資格を取って入ってきてはいるけど、1年目で経験も浅いし…。
今度のアポイント、俺が担当している中でもかなりの重要クライアントでさ。俺、彼女を同行させるの結構不安なんだよね…」
― 何よ、それ…。
偶然、自分の話題を聞いてしまった理沙。この会話の主である先輩税理士とは、まともに話したことはなかった。
経験が浅いのは事実だから、認めざるを得ないとわかっている。
しかし「青学だから派手でチャラついている」というイメージだけで、自分をよく知らない人から蔑まれることに、理沙は心底嫌気が差してきたのだった。
― 本当に、一体何なのよ!私は別に派手でも何でもない、真面目な新人税理士なのに…。今度のクライアント訪問、絶対先輩に負けないわ。
それからというもの、翌週のクライアント訪問を前に、理沙は先輩の指示による準備のみならず、明らかに足りていないと思われる調査も1人で進めた。
そして、訪問当日。
重要クライアントに対する新たな提案の機会だというのに、複数のクライアントを抱えて忙しかったのか、先輩は明らかな準備不足を露呈していく。
「一応、先輩を立てないと」と思って黙っていたが、提案の雲行きが怪しくなったところで、理沙は準備してきた資料を出した。
その資料は、クライアントの同業他社だけではない、様々な角度からの視点が含まれたものだった。
資料を手にしたクライアントの部長は、こう唸った。
「なるほど!この資料があれば、私も本部長に説明ができますので相談してみますね。いやぁしかし、さすが税理士法人なだけあって、素晴らしい新人さんですね」
― 先輩に任せきりだったら、商談がダメになるところだったわ。準備してきて本当によかった…。
ピンチを乗り切ったことに、理沙は安堵したのだった。
◆
クライアント訪問からの帰り道。
「河野さん、びっくりしたぁ。あんな準備してくるなんて、思いもしなかったよ」
理沙に対する先輩の態度は、訪問前とは明らかに変わっていた。その言葉に理沙は立ち止まり、隣にいた先輩に向けて話し始める。
「実は、先週たまたま聞いてしまったんです。先輩が、私について話していたことを」
「あっ…」
しまったと言わんばかりの表情の先輩を前に、理沙は続ける。
「私は青山学院大学が大好きですし、卒業したことを誇りに思っています。先輩がどちらの大学か知りませんが『青学、青学』って、勝手なイメージで人を決めつけないでくださいね。
だいたい、社会人になって何年も経つのに、大学名で人を判断するのってみっともないですよ」
理沙は、きっぱりと言い放った。気まずい沈黙のあと、別のクライアント先に行くという先輩と別れ、最寄りの半蔵門線の駅に向かって足早に歩いていく。
言いたいことは、もっとたくさんあった。
しかし、この先輩と同じ土俵に立っても仕方がないと思い、もうこれ以上何かを言うのはやめようと思いとどまったのだ。
半蔵門線に乗り込み、車内の路線図に目をやると見える『表参道』。
そこは、世間一般では流行の発信地であるが、理沙にとっては勉学に励んだ思い出の場所だ。
― これからも大学名だけでなく、色んなことで理不尽な思いをすることがあるかもしれない。それでも、着実に努力して結果を出すことで偏見をはねのけるしかないんだわ…。
そう思いながら、路線図にある『表参道』を、理沙は眺めていた。
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