高学歴・高収入で、性格もよい男性を捕まえることができたから、幸せ……。

そんなことを言っていられるのは、“婚姻届を出すまで”かもしれない。

ハイスペックといわれる男性は、小さなころから母親に大切に育てられていることが多い。

それゆえ、結婚してから、子離れできていない母親、マザコン夫の本性が露呈することもある。

これは、最愛の夫・将暉(30)と結婚した春乃(29)が、強烈な個性を放つ義母・サチ子と対峙していくストーリーだ。

あなたは、この義母に耐えられますか―?

◆これまでのあらすじ

婚約者の将暉が「マザコンかもしれない」と疑う春乃。しかし、結婚したかった春乃は、彼との結婚話をすすめることにしたのだが…。

▶前回:プロポーズされた直後、彼のスマホに1通のLINEが。慌てた男が口にした衝撃の告白とは…




Vol.2 いよいよ義母と対面!


将暉の両親と初めて食事をするため、家族の行きつけだという八王子にある老舗鉄板焼きレストラン『八王子うかい亭』に私たちは、車で向かっている。

どんな服装で行こうか悩んだ結果、私はヨーコチャンのウールワンピースを選んだ。

「お母さま、私のこと気に入ってくださるかな…?」

レクサスの助手席に座る私は、運転席の将暉に問いかける。

「もしかして緊張してるの?可愛いな!」
「もう!からかわないでよ〜」

彼の言葉に、私の緊張がほぐれる。

「気に入るに決まってるよ。それに母さんは、見た目は少し派手だけど、優しい人だから安心して!」
「うん…」

― 少し派手な見た目って、どんな感じ…?

ふと車の外をみると、多摩都市モノレールが走っているのが見えた。そろそろ到着すると思うと、再び緊張が押し寄せてきた。


いよいよ彼の家族と対面、春乃が圧倒された理由は…


「ゴージャスなレストランだね…!」

『八王子うかい亭』の店内に足を踏み入れた私は、息をのんだ。

海外の貴人をもてなす迎賓館をイメージしたという建物は、日本家屋の外観や庭園も豪壮であるが、店内は和洋の芸術品が設えられていて、豪華絢爛という言葉がピッタリだ。

案内された個室は、シェフが眼前で鉄板焼きを焼き上げる贅沢なシチュエーション。

席に着いた私が、おしぼりで手を拭いていると、将暉の両親が到着した。

「まあくん、着いてたのね〜!」

― まあくん…!?

彼の母親・サチ子が、将暉を“まあくん”と呼び、登場したことに軽い衝撃を受ける。だが、それ以上に、彼女の出で立ちに、私は圧倒された。

彼女が着ている黒のニットの前面には、ラインストーンで雄の孔雀が大きく描かれ、色味を合わせたと思われる重たそうなエメラルドのイヤリングを、両耳にぶら下げている。

前髪が美しく立ち上げられたセミロングヘアに、真っ赤なリップが際立つ濃いめのメイク。演歌界の大御所の私服といったイメージだ。

サチ子は、私に目を向けると上から下までチェックしたあと、ニッコリと微笑んで「春乃さん、お会いできて嬉しいわ!」と言った。

グレイヘアで知的な印象の彼の父親も、彼女の隣で微笑んでいる。

4人が席につき、いよいよランチ会が始まった。




「まあくんのパパはね…」

乾杯の後、冬野菜と魚介の前菜が運ばれてくると、サチ子が、早々に口を開き家族紹介を始めた。

将暉の父親の和彦は、東京大学出身の元銀行員だ。今は、不動産会社を経営している。先祖は豪農で、受け継いだ土地を運用して成功しているそうだ。

大平目のスープ仕立てが運ばれてくると、将暉は、昔から勉強ができて、幼い頃は神童と呼ばれていたというエピソードが、披露された。

得意げに話す彼女に、圧倒されながら、私はただひたすら話を聞いていた。

「春乃さんのご家族についても教えてくださらない?」

メインの特選牛のステーキをいただいていると、ようやく私の家族について、サチ子が聞いてきた。

「父はサラリーマン、母は専業主婦で、メーカーに勤務してる妹がいます。父は海釣りが趣味で…」

家柄が釣り合わないなどと言われないか…少し不安になりながら、私は答える。

しかし、彼女は笑みを絶やさずに話を聞いてくれたので、私は安堵した。

食後のコーヒーが運ばれてきたとき、私は、ふと疑問に思った。将暉には、4つ年上の姉がいるのだが、彼女の話がまったくでなかったのだ。

「お姉さんは、ニュージーランドにいらっしゃるんですよね?」

私が問いかけると、サチ子の表情が一気に曇った。

「そうよ。今は、むこうの大学に通っているわ。まあくんが、今住んでる池尻のマンションは、もとはパパがあの子の30歳のお祝いに買ったものなのに…」

将暉の姉は、短大を卒業後、アパレルの販売員をしていた。しかし、白馬のスキー場で知り合ったニュージーランド人の恋人を追いかけて、3年前に突然留学を決めたという。

これ以上触れてはいけない雰囲気を察知した私は、「そうなんですね!」とだけ言って、コーヒーを飲み干した。


将暉の実家に立ち寄った春乃。サチ子から耳を疑う言葉を放たれて…




ランチの後、仕事に行くという父親と別れて、将暉と私は、彼の実家に立ち寄ることになった。国立駅の南側の閑静な住宅街に建つ、大きな門扉がある豪邸だ。

シャンデリアが煌めくモダンレトロで統一されたリビングに通された私は、遠慮がちにソファに腰掛けた。

「春乃さん。まだ緊張してらっしゃるの?私は裏表がなくて、付き合いやすい人間よ。いい姑になると思うわ!」

緑茶を急須で湯呑みに注ぎながら、サチ子が言う。

― 自分で「いい姑になる」なんて言うなんて…。まぁ、でも率直に物を言うタイプなだけで、悪い人ではないんだろうな。

しかしこの後、彼女から発せられた言葉は、耳を疑うものだった…。

「そうそう、結婚式なんだけど、元赤坂の明治記念館で挙げるのはどうかしら?パパと私が挙式した場所なの。あなたたちもきっと気にいると思って、4月に仮予約しておいたんだけど…」

― えっ、仮予約した!?式場は、2人で相談して決める予定だったのに…。

私は、隣に座る将暉に助けを求めて視線を送った。しかし、リラックスモードでスマホをいじっている彼は、気づかない。

私の必死の合図に気づかないまま、スマホの画面から目を離した彼は言った。

「母さんは仕事が早いなあ!春乃は特に希望がないって言ってたから、いいよね?」

将暉まで、そんなことを言うなんて…。

確かに、プロポーズの後に将暉から聞かれた時は、急すぎて思い浮かばなかったが、今は目星をつけている会場がある。

私は意を決して、自分の思いを伝えることにした。




「お気遣いはとてもありがたいのですが……。私は『葉山ホテル音羽ノ森 別邸』がいいなって思っています。私の実家からも比較的近いですし、オーシャンビューが素晴らしくて、昔から憧れていたんです」

私の言葉を聞いた、サチ子の表情が一瞬こわばった。そして、不自然な笑みを浮かべながら言った。

「葉山は遠いから、このご時世で少人数になるとはいえ、お招きする方へのご負担が大きいわよ。それにね、結婚式や披露宴の費用は、全額こっちで負担するから、春乃さんは何も心配しないで」

暗に、お金は出すから、口は出すなと言われているのだろうか…。

素知らぬ顔の将暉は、会場など、どこでもいいと思っているようだ。

私は、自分に問いかける。大事なのは会場ではなく、大好きな人と結婚することだ。ここでケンカをして、万が一結婚が破談になるなんて絶対に嫌だ。

― 挙式できて、費用の心配をしなくていいなんて、ありがたいじゃない…!

そう自分に言い聞かせた私は、無理やり笑顔を作った。

「そうですね。明治記念館も素敵なところですし、お母さまのお言葉に、甘えさせていただきますね!ありがとうございます」

「よかったわ!親子2代で同じ場所で挙式なんて素敵でしょ!?夢だったのよ〜」

私の返答を聞いたサチ子は、満足げに見えた。

「全然知らなかったよ。母さんが喜んでくれて嬉しいよ!」

「打ち合わせには、私も同行するから心強いわよ。私はセンスがいいから!」

私の心の内など、まったく伝わっていないのだろう。2人は、はしゃいでいる。

― 将暉と結婚できることは嬉しい、でも…。

私の意見に耳を貸さないサチ子と、気持ちを汲み取ってくれない将暉。

彼らを前に、消化しきれぬ気持ちを抱えた私は、曖昧な笑みを浮かべていた…。

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次週、結婚式の準備で、サチ子強烈キャラ発揮…!?