女優・川上麻衣子さんの暮らしのエッセー。
一般社団法人「ねこと今日」の理事長を務め、愛猫家としても知られる川上さんが、猫のこと、50代の暮らしのこと、食のこと、出生地でもあるスウェーデンのこと(フィーカ:fikaはスウェーデン語でコーヒーブレイクのこと)などを写真と文章でつづります。

第6回は、ガラス工芸作家としても活躍する川上さんが長年愛してやまない“ガラス”の魅力について。スウェーデンで出会ったガラスのある暮らしや、ガラス食器・雑貨の楽しみ方について教えてもらいました。


川上麻衣子さんが手がけたガラス作品

スウェーデンで出会ったガラスの魅力。おすすめの使い方も
<川上麻衣子の猫とフィーカ>



猫との生活に加えて、もうひとつライフワークとしていることが、あります。それは幼い頃、スウェーデンでの暮らしの中でその美しさに魅せられた“ガラスの世界”です。

●スウェーデンで出会ったガラスのある暮らし




川上さんが愛用するコスタボダのガラス皿

スウェーデンはデザイン王国と呼ばれると同時にガラスの王国としても有名です。「コスタボダ」や「オレフォス」というメーカーの名前はガラス好きの方であれば、ご存知かもしれません。


ヨーロッパではイタリアを筆頭に優れたガラス作品が生まれていますが、スウェーデンの作品は、繊細な技術を競うのではなく、生活に密着した優しいデザインが特徴だと感じます。


スウェーデンで招かれた友人宅のダイニング

それはスウェーデン人のお宅に招かれた際に強く感じることとなるのですが、どの友人たちもとてもうまくガラス素材を生活に取り入れています。


ワイングラスやお皿にペイントされたかわいらしい絵柄やテーブルに置かれ優しい灯りを演出してくれるキャンドルグラス。さりげないおもてなしに、憧れを含めてため息が出ます。

●20代で足を踏み入れたガラスづくり



私自身、20歳を超えた頃から、そんな彼らのセンスや、街中で見かける美しいガラスデザインに惹かれ、スウェーデンを訪れるたびに少しづつ手荷物の中に大切にくるんで持ち帰るようになりました。


ガラス工芸の世界に足を踏み入れた20代の川上麻衣子さん

そんなガラス好きが高じて、吹きガラスの世界に足を踏み入れたのは今から30年ほど前の25歳のときでした。


ガラス工芸作家の石井康治先生と

若くして亡くなられてしまった、日本を代表するガラス工芸作家の、石井康治先生との出会いがあり、「そんなにガラスが好きなら、自分で吹いてごらん」と、当時青森にあったガラス工房に招いてくださったのです。


9人ほどの職人さんが働く工房で、初めて溶けたガラスをハサミで切った衝撃を、今でもはっきりと思い出すことができます。この体験を機に、私のもう一つのライフワークが幕を開けました。


川上さんのガラス作品

じつは振り返ってみると、9歳でスウェーデンで暮らしていた際に、ストックホルムにある大きな民芸博物館を訪れその一角で、ガラス職人さんがガラスを吹く姿に釘づけとなりその場を離れようとせず、両親を驚せたことがあったそうです。

この民芸博物館には2年前にも訪れ、久しぶりにガラス工房を覗いてみましたが、当時とまったく変わらない景色がそこにあったことに感激しました。

●30代で学んだ吹きガラスづくりは至難の技




30代からは吹きガラスの世界へ

私の中に芽生えたガラスへの憧れは徐々に膨らみ、30代に入り本格的に吹きガラスを学びたいと考えるようになりました。1600℃以上の釜の中に溶けたガラスを、吹きざおと呼ばれる長い竿に巻きつける最初の行程だけでも至難の技です。

何か月も習いようやくコップをつくることができるようになっても、仕上がりは飲み口も分厚い歪んだ器でした。

それからお椀から皿へと、技術を学びますが、その後に迎える「ワイングラス」で、見事なまでに自信喪失となりました。まっすぐ伸びたステイン(脚)をつくることも、台座となる円形を成形することも出来ずに苦しみ、技術を習得するためには、師匠を見つけて弟子入りするしか道はないのではないかと、落ち込みました。

●ガラス食器を日常に取り入れて家時間を楽しみたい




川上麻衣子さんのガラス作品

一旦は諦めかけた技術習得でしたが、ガラスへの憧れは冷めることなく、2005年。初めてのガラスデザイン展の開催という形で夢を実現させました。

もともとスウェーデンではガラス作家と呼ばれる方で自ら吹かれる方の方が少なく、それぞれに信頼できる職人さんを抱えています。ありがたいことに、ガラスを学ぶ過程で私にもすばらしい職人さんとの出会いがあり、そのおかげもあって、隔年に一度の割合で続けてきたデザイン展は今年で9回目となりました。


コロナ禍にある現在、職人さんとともに工房で吹く作業は難しいかと考え、今回は最初にスウェーデンで感じた「暮らしを彩る優しい手描き」を施したガラス食器をテーマに、現在制作の大詰めの最中。そしてコロナ禍で心を癒してくれた猫たちに感謝を込めて、初めて猫を中心としたイラスト画もお披露目します。

美しい光を優しく放つガラス素材は、割れてしまうときには、有無を言わさぬ潔さがあります。それもまたガラスの魅力の一つです。

お気に入りの品を見つけたときには、棚にしまったまま眺めるだけではなく、スウェーデンの人たちのようにぜひ手元で触れて、いつもの食卓を華やかにすることで贅沢な時間を満喫してほしいなと願います。

【第9回川上麻衣子のガラスデザイン展】
会期/2021年10月27日〜11月2日
会場/松屋銀座 7階 遊びのギャラリー

【川上麻衣子さん】



女優。1966年生まれ。14歳でデビューし、数々のテレビ・映画・舞台に出演。愛猫家としても有名で、2018年に仲間とともに一般社団法人「ねこと今日 Neko-to-kyo
」を立ち上げ、理事長を務める。2019年千駄木にサロン「Maj no ma(まいの間)」をオープン。YouTubeチャンネル「川上麻衣子ねこと今日neko-to-kyo
」にて動画も配信中。著書に『彼の彼女と私の538日 猫からはじまる幸せのカタチ
』(竹書房刊)など