この記事をまとめると

◼︎免許の保有率があまり高くなく、MT免許を取る費用がAT限定免許よりも高額

◼︎スポーツカーよりもSUVなどの方が人気という時代背景もある

◼︎AT限定免許を取ってから限定解除という手段を取る人も多い

AT大国ニッポン! MTが売れないその背景は?

 一時期は「若者のクルマ離れ」なんて言葉がしきりに取り沙汰されていましたが、じつは蓋を開けてみればそれは、若者がクルマにかけられるお金やクルマに対する価値観、生活の中での優先順位などが変化したり、所有だけでなくシェアという選択肢が出てきたことなどで、単に「若者に新車が売れない」という事実によるところが大きいということがわかってきました。

 実際に、免許保有者数の割合を見てみると、19歳までの男性は21%、女性は15.5%と低いものの、20歳〜24歳までになると男性は76.7%、女性は69.3%と高い割合になり、25歳〜29歳まででは男性89.2%、女性83.7%にまで上がります。これは決して少ない割合ではないですよね。昔は18歳になるのと同時にみんなが免許を取っていたものですが、その年齢が少し上がってきているところはあるものの、若者がクルマから離れていったわけではなく、クルマに対する価値観が変わったことが大きいと考えられます。

 ただ、変わりつつあるのは持っている免許の種別です。2000年代に入ってからとくに、MT免許の取得者数が減っていく代わりにAT免許の取得者数が伸び続け、ついに2009年。MTとATの取得者数が50%対50%と並びます。そしてじわじわと引き離し、令和元年にはMTが32.4%、ATが67.6%と圧倒的な差に。男性でも約半数がAT免許を選ぶという時代になっています。

1)教習所が高額

 その理由はいくつかありますが、1つ目は教習所の料金と教習時間数。普通自動車の基本教習料金表を見ると、AT限定が教習料金29万8650円、入校金が5万7200円で合計35万5850円なのに対して、MT免許は教習料金32万5160円、入校金6万8200円で合計39万3360円となっています。

 差額は3万7510円ですが、学生や若者にとってこの差は大きいかもしれません。そして教習時間数は、学科はどちらも26時限ですが、技能はAT限定が31時限、MTが34時限と多くなっています。これも、忙しい若者にとっては嫌われる要因の1つです。ただ中には、「MTのほうが予約が取りやすかったのでMTで取りました」という若者も。春先や夏休みなど、混み合う時期に通う場合はそうした理由でMTを選ぶこともありそうです。

2)MT車が圧倒的に少ない

 理由の2つ目は、日本で販売される新車にはたった2%しかMT車がないということ。せっかく苦労して高いお金を払ってMT免許を取得しても、運転する機会がほとんどないのでは取る意味がわからないですよね。

 実家のクルマがMT車だからという人や、よっぽどスポーツカーに憧れのある人、仕事などでバスやトラックを運転する可能性のある人、という理由でもなければ「AT限定でいっか」となるのも納得です。

限定免許のほうが習得が手軽かつ、スポーツカーがそもそも不人気

3)乗りたいクルマに対する憧れが変化

 理由の3つ目は、若者が乗りたいと思うクルマが変化したことでしょう。昔は男性が乗りたいクルマとしても、女性がデートで迎えに来て欲しい、彼氏に乗って欲しいクルマとしても、スポーツカーの人気が高かったため、「モテたい」という理由で頑張ってMT免許を取ったものでした。

 でも今は、SUVやコンパクトカー、N-BOXなどの軽ワゴンが若者に人気です。それらにもほとんどMT車はありませんから、無理してMT免許を取る理由がないというわけです。

4)渋滞中にMTに乗るのが面倒

 理由の4つ目は、日本特有とも言えるものですが、どんな地域でも慢性的に発生する渋滞。MT車で渋滞の中をノロノロと走ることほど辛いものはありませんが、この辛さを経験して懲りると、多くの人が「次はAT車にしよう」と思うものです。

 また、エンストをしたりギヤチェンジをミスしたりして、怖い思いをしたという人もMT車に苦手意識が芽生えてしまう可能性もあります。

5)その気になれば限定解除をするだけでMTに乗れる

 そして理由の5つ目は、「限定解除」ができるということ。仕事の都合でどうしてもMT車に乗らなければいけなくなった、一目惚れしたクルマがMT車だった、といった理由でMT免許に変更したい場合。そんな時は最初から教習所に通い直さなくても、AT限定免許の限定条件を解除する方法があります。

 教習所で限定解除教習(4〜6時間程度)を受講して、審査に合格したあとに運転免許センターで手続きを行うか、運転免許センターで技能審査を受けて合格すればOK。費用は教習所の場合は5万円前後が一般的。最初からMT免許を取るよりは高くなりますが、とにかく早く免許が欲しいという場合や、とりあえずATで取っておいて、必要になったら限定解除をすればいい、と考えれば、AT限定免許を選ぶのもわかりますね。

 というわけで、教習所のブログやアンケートなどを参照すると、教習所を卒業後になかなか自分でクルマを所有するところまで実現する若者は減っているものの、レンタカーやカーシェアでドライブに出かけたり、実家のクルマでガマンしつつ、いつか憧れのクルマが欲しいと考えているような若者はいまだに多いということがわかっています。そこにクルマ離れやクルマ嫌いといった事実はなく、新車販売の98%がAT車なんだからAT免許が当たり前、という時代の流れだと捉えるべきではないでしょうか。