全国の書店員が日本一売りたいレシピ本を決める、レシピ本大賞。第8回となる今年は、滝沢カレンさんが手がけたレシピ本『カレンの台所』(サンクチュアリ・パブリッシング)が、料理部門の大賞を受賞しました。
そんな滝沢さんにESSEonlineがインタビュー。『カレンの台所』に掲載されている鶏の唐揚げレシピと共に、料理を始めたきっかけやレシピ本についても伺いました。


滝沢カレンさんにインタビュー

料理は感覚でつくるから楽しい。滝沢カレンさんの物語のようなレシピ



まずは滝沢さんのレシピをひとつ、ご紹介します。その独特の物語のような世界観を味わってみてください!
続いて、滝沢さんの話し言葉で、レシピや普段の料理について語っていただきます。

●滝沢カレン流!「鶏の唐揚げ」レシピ



ヘルシーに見えてそうじゃない、高カロリーに見えてそうでもない、
どちらも決めるのは胃袋ですってことにします。

今回はただただ食べたい、知らない人を知らない唐揚げを久しぶりにつくってみました。

油物がほんとは大好きで、でも油物はカロリーやら太るやらと可哀想な扱いされがちなので、なるべく外では油物を食べないで家で自分がつくるときだけは食べていい、という決まりにしてます(たまにはご飯屋さんでもそりゃ食べる)。

なぜなら、やはり味つけから肉の種類、油まで全部自分で確認できるからです(こだわり強そうに見えてそこまで強いわけでもないのでご安心を)。

だれだって熱い油は嫌いだが、口に入れる油は大好きですよね。
私もその1人です。「油物こそ、目で見ろ、自分でつくれ」と言ってるのが私で、これは家系が続くかぎり言い伝えに残したいです。

私が家で唐揚げをつくるときのお決まりをご紹介します。

唐揚げは鶏もも肉がおすすめですので、ご自分の食べたい分だけお買い上げください。それを子どもの頃に集めたガチャガチャサイズくらいの形に切ります。

私は味が濃いのが好きなので、今から話すことは味濃いと思いながら聞いてください。
薄いのが好きな方はこれから話すよりは自分で決めてくださいね。

そうしましたら、スタートです!

まず、透明度まではいかないがスーパーでよく見かけるしもらうビニール袋を二重にします(豪快な方はジップロックなど)。
そこに冷たいなにも知らない鶏肉を入れてあげます。


やれやれとボッタリくつろぐ鶏肉に、上からいくつかかけ流していきます。
まずリーダーとして先に流れるのは、おしょうゆを全員に気づかれるくらいの量、お酒も同じく全員気づく量、乾燥しきった粒に見える鶏ガラスープの素を、こんな量で味するか? との程度にふります。
入れすぎても入れなさすぎても、あまり変わるわけではないので気にしすぎもよくないです。


そして匂いが取り柄なニンニクすりおろしかチューブ、ショウガすりおろしかチューブを、鶏肉ひとつにアクセサリーをつけるくらいの気持ちでつけてあげてください。
あとはゴマ油をご褒美あげるくらいにします。

最後に気前よく塩コショウして鶏肉への刺激は終わります。
順番は自由です。

そうしましたら開きっぱなしの入り口を柔らかく結んでください。
あとでまたあけます。

自分が二の腕気にして触ってるくらいの力で鶏肉をさらに最終刺激します。
男のみなさんは自分の力を見せない程度にしてあげてください。

うわっこりゃすごい色だ! と濃さや匂いに驚かれてる方は、15分くらい冷蔵庫で冷やしたらもう漬けるのをやめましょう。

わぁもういい匂いだお腹すいた! と笑顔になる方は、そのまま30〜60分冷蔵庫にて鶏肉を休ませてあげてください。

あっという間に、待たせている鶏肉を思い出す時間になります。
おもしろいくらいにブったりした鶏肉があるはずです。

好き好きな入れ物に片栗粉と少しの小麦粉を入れて、潤い満タンの鶏肉を一気にパサパサ雪世界にしてあげます。

あ、その前にみなさん激熱油は用意できてますか?

私はたまにの油物なので、ここは贅沢御免でオリーブオイルを170度くらい熱々にします(飛び跳ね、指を入れるなど命かけてしないでください)。

熱々に見えなくてもそこは想像を絶する熱さです。

170度にいきましたら、パサパサ鶏肉をおにぎりを一握りの気持ちで「いってこい」の後押しで油へ。
すぐさまなんかしらの反応を見せたら、あ、楽しくやってるな、と見過ごしてあげてください。

なんの反応もしてくれなかったら一旦取り出してください。油がまだ170度ではありませんそれは。


そして全体的に薄茶色になったら、一旦油取り紙(料理用)みたいのに移し、さらなる高温に油を熱くします。180〜190度にして、懲りずにまた唐揚げを油へ沈めてください。

だんだんとキャピキャピ音が高くなってきたら、ほんとに出してくれの合図です。

しっかりここではコミュニケーションとってください。
これ以上茶色な唐揚げ見たくない! ってタイミングでもいいです。

みなさん、「何事も早くがいい」と言われても、先に190度など高温にしてしまうと焦げたり中はまだあったまってないですから、気をつけてくださいね。

そんな鶏の唐揚げの物語でした。

安全第一で無理矢理なときは油物は控えてくださいね。
でもたまーの大量油は身体もそこまで困らないと思います。

ぜひ、よろしくお願いします。

●レシピ本大賞はノミネートされていることも知らなかった



『カレンの台所』は、私と食材たちの物語を1冊にまとめたレシピ本。私は数字に惑わされずに、ただ自由に感覚を頼りにして料理をつくるんです。だから分量や具体的な手順はこの本には載っていません!


レシピ本を出すのはもちろん初めてで、初めて足を踏み入れた世界。プロの料理人さんやすごい主婦の方々の時短レシピなど、いっぱいある中で私が大賞をいただくなんて妄想すらしていませんでした。そもそもノミネートされていることすら知らなくて、授賞式の日が来るまでドッキリじゃないかと疑っていたほど。
授賞式では大号泣。この世に「料理」があってよかったです。

●17歳で料理デビュー。ジャングルでさまよっている人でした



料理を始めたのは17歳になってからです。どこで料理の情報を得たらいいかすらもわからない。ジャングルでさまよっているみたいに、感覚がまったく違う方向を見ていたと思います。

がんばってつくっても、「あぁ、今日も食べられない」という日が続いたり。でも私、負けず嫌いなんです。失敗ばかりして、あともう少しで料理を嫌いになっていたかもしれないけれど、「なんでから揚げなんかに負けなきゃいけないんだ!」と思うと悔しくて。これから先、から揚げの扉が遮断されたまま残りの人生を過ごすのはイヤだ」って思ったんです。料理ができればモテるはず、という気持ちも当時はありました(笑)。

●スマホと手元だけ見てつくっていたら、なんだか寂しい気持ちに




インスタライブより

そのうちにクックパッドの存在を知り、テレビの料理番組のレシピ画面を写メして「よし、今晩つくってみよう」ということを繰り返して、だんだん料理はできるようになりました。でもあるとき台所で「あれ、私は今なにをやってたんだっけ?」と思ったんです。

スマホでレシピを見て、ずっと下を見て料理していたから、たとえばハンバーグは完成していてもハンバーグをつくった記憶がない。「これでいいのかな、これって料理できるって言えるのかな?」と寂しい気持ちになりました。

だれかが考えてくれたレシピに私は助けられているけれど、感情のない味になってしまっている気がして。何度つくっても同じ味、感情のない味。毎回同じレシピを見て同じものをつくることを繰り返すだけで、レシピとはそのときだけのつき合い。親友にはなれない、と気づいてしまったんです。今思うと、だれかの道をずっと歩くだけだったんですね。

●なにも見ずに感覚でつくってみよう! 失敗したって自分が食べる



きちんと計量せずに感覚でつくり始めたのは、この思いがきっかけでした。最初はもちろん失敗もたくさんしました。でも、「失敗したっていいじゃん! 自分が食べるんだから」と思うとなにも怖くなくなったんです。


インスタライブより

感覚は狂うもの。ずっと同じではないし、狂うために感覚があると言ってもいいくらい。わからなくなるし失敗もするから料理って楽しいんです。もともときっちりするのが苦手な性格。私があのとき「計量はもういいや! 感覚でつくろう」って思えたから、料理の楽しい扉が見つかったんだなと思っています。

●食材や調味料は登場人物とスタッフ。不本意な姿はさらさない



私にとって、台所は食材と調味料たちの舞台。レシピが作品で、食材や調味料は登場人物&スタッフです。たとえば『カレンの台所』で紹介している鶏の唐揚げは鶏もも肉、ニンニク、ショウガが登場人物。スタッフがしょうゆ、酒。片栗粉、小麦粉、塩コショウ、鶏がらスープの素、ゴマ油、オリーブオイル、ビニール袋、キッチンペーパー。料理をしているときは、頭の右斜め上あたりで食材たちだけの世界が浮かんできます。登場人物とスタッフが繰り広げる物語です。


『カレンの台所』では、この世界をイラストで表現してもらっています。この妄想に入っていく瞬間がすごく好き。自分と食材たちの物語に会えるから、また料理したいって思えるんです。

つくり方を写真でなく絵で描くのは、本づくりで強くこだわったポイントです。写真だと食材にとっては不本意な姿で見られてしまうからです。私はモデルのお仕事もさせていただいていますが、食材にとって、料理中の姿は着替える前の下着姿を撮られているようなもの! 『カレンの台所』には巻末にレシピごとのキャスト&スタッフリストをつくってエンドロールも流しています。

●唐揚げのハードルはエベレスト級。準備運動を軽くしたかった



唐揚げに使うニンニクやショウガは、すりおろし、チューブどっちでもOK。


揚げ物の中でも、鶏のから揚げはエベレスト級。揚げ物が怖くてできないという知人はたくさんいるし、私もから揚げにばかり負けていた時代がありました。いっぱい向き合ったのに喧嘩ばかりして、全然うまくいいきませんでした。今は少し仲よくなれましたが、揚げ物に困っている気持ちはとてもよくわかります。だから、揚げるという山を昇る前の準備運動をできるだけ軽くしたいと思ったんです。面倒なこと(すりおろし)をひとつでも減らして肩の荷が降りるなら、から揚げに挑戦する気持ちが湧いてくるかもしれません。私自身も、すりおろしを使ったところで味の違いはよくわかりませんし(笑)。

料理は生物なので、このから揚げもつくるたびに味は変わります。この本に載っているから揚げと同じものは、もうつくれません。入れる調味料の種類や量が毎回違うから、違う物語になるんです。

自分だけの味、自分だけの作品。いつも違うから、料理って楽しいんだなと思います。


インスタライブより

滝沢カレンさんへのインタビュー、次回は料理を楽しむコツや大好きな器について。10/7(木)公開予定なのでお見逃しなく!
『カレンの台所』掲載のシュウマイレシピもお届けします!

【滝沢カレンさん】



1992年東京生まれ。2008年、モデルデビュー。現在は、モデル以外にもMC、女優と幅広く活躍。主なレギュラー出演番組に『全力! 脱力タイムズ』(フジテレビ)、『沸騰ワード10』(日本テレビ)など。11月には出演する「土竜の唄 FINAL」の公開も控えている。初めての料理本『カレンの台所
』(サンクチュアリ・パブリッシング)が、レシピ本大賞、料理部門の大賞を受賞。

<取材・文/佐藤望美>