9月29日に投開票が迫る自民党総裁選。「政治に関心が薄い」とされる若者たちは、連日繰り広げられる論戦をどのように見ているのでしょうか。若者世代に詳しい原田曜平さんが、12名の大学生を緊急招集。彼らの目に映る「政治の今」に迫ります――。
写真=時事通信フォト
自民党青年局・女性局主催オンライン討論会に臨む左から、野田聖子幹事長代行、高市早苗前総務相、岸田文雄前政調会長、河野太郎規制改革担当相=2021年9月20日、東京・永田町の同党本部 - 写真=時事通信フォト
【座談会参加者】
井上/慶応義塾大学2年生
落合/早稲田大学2年生
加藤/東京理科大学2年生
山田(仮名)/立教大学3年生
阪口/慶應義塾大学4年生
鈴木/桜美林大学3年生
坂本(仮名)/慶応義塾大学4年生
高橋(仮名)/立教大学2年生
橋本/立教大学4年生
森/青山学院大学4年生
八木/東京女子大学3年生
安田/慶応義塾大学3年生

■「石破さんに出てほしかった」

【原田】総裁選、メディア上では盛り上がっているけれど、学生の間ではどう受け止められていますか?

【加藤】確かに過去の総裁選と比べて、報道の量は多いような気がします。ただ、学生の間ではとくに話題にはならないですね。

【鈴木】友だちに河野太郎さんの話をしてみたら、「え? 誰それ?」って。でも、私もTwitterのタイムラインでよく発言を見かけるくらいで、全然説明できないんですけど……。友だちはTwitterでは見るけど、秒でスクロールしちゃうから中身は読んでないって。

【坂本】確かに河野さんはTwitterをかなり活用しているから、発信を目にする機会は多いかも。感覚が若そうだな、という印象があります。

blossomtheprojectは、メンタルヘルス、性教育、ジェンダーなど様々なテーマで発信している

【安田】私はインスタグラムでよく総裁選のニュースを見ますよ。学生団体がポイントをまとめた動画を作って流してくれているので、それをフォローしています。blossomtheprojectというアカウントです。いろいろ見ていると、本当は石破さんが出てくれたらよかったのになーって思っちゃうかな。石破さんって、インスタでも政策をかわいくデコレーションした画像をアップしたりとか、手話で自民党の歌を歌ってみたりとか、若者に政治を伝えようという姿勢がいいな、と思っていて。

【加藤】僕も石破さんに出てほしかった。長いものに巻かれない一匹狼的なスタンスは自民党の中でも珍しいと思うし、国民が求めていることを意識して政治をするべきだという発信にはすごく共感します。ただ、石破さんは出馬しなかったけれど、河野さんを応援するということなので、二人がタッグを組んでガシガシ政治をしてくれたらいいな、と期待を持つようになりました。

【原田】河野さんや石破さんなど、積極的なSNSでの発信は、若者にも届いているということですね。政治家の声がダイレクトに届きやすくはなっているようです。

■近隣国との対立が懸念点

【原田】河野さんは発信力があると言われるけれど、主に活用しているのはTwitterのみで、若い世代が見ているTik Tokやインスタグラムは使えていませんよね。ほかの候補者も含め、みんなは4人の候補者にどんな印象を持っていますか?

【坂本】岸田さんはなんかやさしそう、いい人そうに見えます。「岸田ノート」も好印象ですよね。たとえパフォーマンスだとしても、国民の声を聞く姿勢が伝わる。反対に高市さんはちょっと……。安倍元首相の傀儡なんじゃないかという気がしちゃいます。毎年の靖国参拝とか、天皇の地位を高めようとしていたりとか、保守的な国家観が個人的には好きではないです。

【加藤】同じく。靖国神社への参拝自体はどちらでもいいと思っているけれど、それによって近隣国との対立が深まるのが問題。ただでさえ日中、日韓関係って冷え込んでるのに、いま高市さんが首相になったら関係はさらに悪化するんじゃないかって思ってしまいます。

写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

■改革は期待していない、せめて波風を立てないで

【山田】河野さんもよく旭日旗をバックに撮影した写真をアップしたりしていて、植民地支配を受けたアジア諸国の人がどう思うのかって考えていないですよね。それに、Twitterでも意見が違う人はブロックしまくっていて、私たちの意見を聞いてくれる人なのかはかなり疑問だと思う。

【阪口】そうそう、河野さんは記者会見でも、都合が悪い内容だと「次の質問どうぞ」。今回の候補者の中ではいちばん発信を目にする機会が多いけれど、マイナス面のイメージのほうが強いです。

【原田】隣国から非難されているのに靖国参拝を続けるとか、Twitterでブロックをするとか、トラブル、衝突、摩擦を起こす人は嫌だという意見が多いですね。これはこの世代の1つの特徴でもあります。でも、摩擦や衝突なくして、改革が実行できるんだろうか?

【加藤】正直、僕たちは政治家がそれほど大きなことをしてくれるとは期待していないんですよね。半径30cmくらいにしか興味なくて。だからこそ、周囲と衝突するような人には好感が持てないのかもしれないです。

■高市さんで女性活躍が進むわけがない

【高橋】今までの意見とはちがって、僕は高市さんを支持しています。岸田さんは物事をあまり明言しない印象があり、強いリーダーシップを発揮できるとは思えない。河野さんは過去に女系天皇を容認する発言をしていたことが、僕の考えとは相入れないので……。

【落合】高市さんは、過激なゲームやアニメを規制したいという話をしていたことがあり、それはちょっと抵抗感があるかな。

【原田】なるほど、それは困る、と。やはり若者にむけた政策を打ち出したり、発信したりすると、その部分はしっかり届いているんだね。

【橋本】岸田さん、河野さんともに、コロナ対策でよくメディアにも登場していたけれど、結局大したことができていないのではないか、という気がします。河野さんは、外務大臣時代にイージス・アショアの配備計画を進めていたけれど、頓挫しちゃいましたよね。それで何百億円という税金が無駄金になった、というニュースもあった。最後に立候補した野田さんには「なぜ急に?」という疑問が大きいし、旦那さんが反社会組織に属していたという判決も出ている。そう考えると、消去法的に高市さんがいいかな、という気がしますね。100代目の総理大臣に女性がなければ、日本にも新しい風が吹くんじゃないかな、みたいな。

【山田】女だから高市さんにっていうのには、強く反対したい。高市さんは同性婚にも夫婦別姓にも反対していて、それでどうやって女性が活躍できるのって思う。もう一人の女性候補、野田さんは、選択的夫婦別姓への賛成、森友問題への再調査にも言及していて、弱い者の立場に立った政策をしていくという思いは伝わります。ただ、やはりほかの人より行動が遅かったこともあって、本当にその政策を実現できる力がある人なのかはまだよくわからないです。

■おじいちゃん議員ばかりじゃなくフレッシュな内閣を見たい

【井上】野田さんは、高市さんに票が集まらないように、誰かが放った刺客的要素が強いんじゃないかな、と思います。最後になって急に出馬表明をしたことを見ても、野田さん自身にはあまり勝つ気がないように感じました。

【落合】それに、野田さんは「女性が抱える孤独感や困難に寄り添うために」として、閣僚の半分は女性を起用したいと言っているけれど、それってあからさまに性別による区別というか……。能力ではなく性別で閣僚を選ぶなんて非合理的だし、逆差別なんじゃないかって思う。

【八木】うん。でも、おじいちゃん議員ばかりじゃなくて、フレッシュな内閣を見たいな、という気持ちはありますね。正直、政策のことはよくわからないけれど、自民党を新しく変えてくれる人がいい。そう思うと、いちばん近いのは河野さんなのかな。

■意外にも高い菅政権への評価

【原田】候補者への印象、意見も、それぞれに割れていますね。今回の総裁選は、菅総理が急に「出馬しない」と言ったところからも注目を集めているけれど、そもそもこの1年の菅政権については、みんなはどのように評価していますか?

【橋本】コロナ禍では誰がやったところで、どうにもならない状況だったと思う。菅さんには、「難しい時期にわざわざやってくれてありがとうございました」という気持ちです。

【坂本】デジタル庁をつくったり、不妊治療を保険適用にする道筋をつけたりとか、かゆいところに手の届く政策を進めていたと思います。でもコミュニケーションが下手なので、総理の器ではなかったのかな。

【八木】きちんとやることはやっていたんだと思うけれど、官房長官が適任だった気がします。リーダーシップに欠けるというか、誰かの原稿を読んでいるんだなってわかっちゃう情けなさがあって。もったいないですよね。

【高橋】僕はオリンピック・パラリンピックをとても楽しみにしていたので、無観客開催になったことが残念。ワクチンの確保をもっと機敏にできていたら、有観客で開催できたのではないか、と思ってしまいます。

【井上】いくらなんでも緊急事態宣言の延長を連発しすぎましたよね。ロックダウンまで行かなくても、もっと一点集中で効率よく感染を減らす対策ができなかったのかな、という不満はあります。

【加藤】よくコロナ対策が後手後手だったというのは言われるけれど、それは他の人でも同じだっただろうな、と思いますね。菅さん個人の問題ではなく、日本の政治の特徴というか……。デジタル庁もいまさら感があるし、全体を見たときに後手に回るのが日本の政治だよな、と。

【原田】支持率の低迷や菅総理の急な不出馬宣言の中でも、学生は冷静にいいところ、悪いとこを見て判断していますね。みんなの感想で共通しているのは、菅さんにはリーダーとしての言葉の重みが足りなかったというところでしょうか。では、若者たちは次の政権にどんなことを期待しているのか。次回は、コロナ禍で我慢を強いられている若者世代が「これからの政治に求めること」を聞いていきたいと思います。

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原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年よりマーケティングアナリストとして活動。信州大学特任教授。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『新・オタク経済』『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』などがある。2019年1月より渡辺プロダクションに所属し、現在、TBS「ひるおび」、フジテレビ「新週刊フジテレビ批評」「Live News it!」、日本テレビ「バンキシャ」等に出演中。「原田曜平マーケティング研究所」のYouTubeチャンネルでは、コロナ禍において若者の間で流行っていることを紹介中。
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(マーケティングアナリスト 原田 曜平 構成=浦上藍子)