イオンモバイルが音声プランを月額一律220円値下げ! 大胆な戦略の裏にある「地域密着型MVNO」の信念とは

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●イオンモバイルが音声プランの月額一律220円値下げなどを発表
イオンモバイルは12日、料金改定に関するオンライン発表会を開催しました。

・音声プランおよびシェア音声プランを一律220円値下げ
・シェア音声プランの音声SIM追加利用料を1枚あたり月額440円から220円へ値下げ
・すべての国内音声通話料を11円/30秒に値下げ

これらの改定は10月1日より自動適用されます。

さらに新サービスとして、誰とでも通話がかけ放題となる完全定額制の「フルかけ放題」が月額1650円のオプションとして発表されました。
2021年内サービス開始予定で、完全な通話し放題ではなく、ユーザー公平性などの理由から120分で一旦通話が切れる仕様となっています。

2020年冬から始まった移動体通信事業者(MNO)による携帯電話料金の値下げ競争は仮想移動体通信事業者(MVNO)にも波及し、MNO以上に激しい値下げ競争となっています。

イオンモバイルは今年4月にも料金改定を行っており、わずか半年でのさらなる値下げとなります。
同社が限界ギリギリの値下げを続ける理由とは一体何でしょうか。


すべての音声プランで一律に220円の値下げとなる



●激化する値下げ競争の裏側
音声プランの料金改定の背景には、MNOとの音声通話接続料金の値下げがあります。

MVNOは事業において、MNOから通信回線を借りて運営しています。
そのMNOから借りる際の音声接続料が段階的に値下げされ続けているため、消費者還元を目的としてさらなる値下げを行ったものです。

発表会でイオンモバイルは、新プランの増設や新規顧客の優遇施策ではなく既存ユーザーにも値下げを一律で自動適用する点について、

「(物流業界には)『一物一価』という考え方がある。通信業界ではあまり当たり前ではないが、物流の当たり前を適用した」

このように述べ、ユーザーが不公平さを感じない料金プランとすることが重要だとしています。


全国に物流拠点や大型ショッピングセンターを数多く展開するイオングループらしい考え方だ


度重なる値下げで気になるのはサポート品質などの低下ですが、イオンモバイルはこの点について以下のような自信を見せます。

「我々は全国に店舗を構え、地域のお客様に根付いたサービスを目指している」
「地域のお客様に最適な料金とサービスを提供していけるよう努力していく」

MNOのオンライン専用プランなどとも比較しつつ、地域経済に密着したショッピングセンターという「地の利」を活かした販売戦略とサポート体制こそが、イオンモバイルの最大の強みであるとしています。


各社のサブブランドMNOや楽天モバイルとも比較しつつ料金メリットをアピール



●事業安定化のためのフルかけ放題と法人展開
しかしながら、ただ値下げばかりを繰り返していてもMVNOの運営は成り立ちません。
そこで用意されたのが、前述したフルかけ放題や法人契約の強化です。

フルかけ放題は、以前イオンモバイルが検討中としていたサービスです。
これまで、

・5分かけ放題
・10分かけ放題
・050かけ放題

このような音声オプションサービスを展開していました。
フルかけ放題は、顧客からの要望に応えるかたちで追加されました。

一般的にシニア層を中心に音声通話需要は高くなりますが、各社が通話の比重を下げていく中、地域のショッピングセンターを利用する層の需要をしっかりと捉えた戦略と言えます。


年齢層が高くなるほど長時間の通話オプションへの加入が増えている


また、法人展開の強化もMVNOにとって非常に重要です。

前述のように、MVNOはMNOから通信回線を借り受けて運営されます。
そのため、通信回線の容量には限界があり、混雑する時間帯になると回線容量が逼迫し通信速度が大きく低下することがあります。

ピーク時の通信速度の低下を抑えるにはより大容量を借りる必要がありますが、それでは低料金での運用が難しくなりMVNOのメリットが損なわれます。
そこで、個人が多く利用する通勤通学の時間帯や昼食時間帯ではなく、その他の閑散時間帯を有効に利用できる法人契約が重要になるのです。

ピーク時と閑散時の通信量の差を少なくすることで効率よく回線を利用してもらい、低コストで安定した通信を実現しようという戦略です。


法人向けと言っても高額な設定ではなく、個人向け同様に低料金から初められるのが特徴だ


イオンモバイルの法人戦略は独特です。

一般的に法人展開というと企業への営業活動が中心となりますが、イオンモバイルでは積極的に企業へ足を運んで売り込むことはしません。
飽くまでも店舗営業を中心に、

「小売業としてやっているため、法人部隊で訪問して積極的に営業をかけて……というより、店舗を活用した営業を目指している」
「手軽で気軽な法人サービス」
「大規模・長期間といった感じではなく、中小企業相手に『数カ月間だけ使いたい』などの需要を狙う」

このような戦略であるとしています。


法人ではIoTプランを中心にニッチな地域需要を拾い上げていく



●消費者本位の戦略を掲げ続けるイオンモバイル
このほか発表会では、10月1日より原則としてスマートフォン販売時のSIMロックが禁止されることから、
大手MNOが販売する、いわゆる「キャリアスマホ」とイオンモバイルSIMのセット販売の計画なども発表されました。

大手MNOが販売するAndroidスマートフォンの場合、利用できる通信周波数(バンド)に制限がかけられているため、利用するSIM(回線)によっては通信エリアが狭くなる、もしくは使用できないといった状況も想定されます。

しかしながら、MVNOが自由にキャリアスマホを販売するという戦略には、新たな可能性とMVNOらしいチャレンジ精神を感じます。


通信キャリアに拘らず消費者に最適なプランを提供できるのが大きな強みだ


・一物一価の信念
・消費者ニーズを捉え迅速に料金プランを改定・追加
・地域の中小企業にターゲットを絞った「敢えて乗り込まない法人営業」
・通信キャリアに拘らないマルチキャリア展開

これらの戦略には、物流の世界から消費者の本音と長年向き合い続け、地域密着型のショッピングセンターとして成長してきたイオングループだからこその一貫した思想が感じられます。

キャリアスマホとイオンモバイルSIMのセット販売について、記者から「MNOからのプレッシャーはなかったのか」という質問に対し、

「小言を言われるかも知れないが、注意はされないとは思っている」

苦笑しつつもこのように答える姿には、強い自信のようなものを感じざるを得ませんでした。
企業側の論理や慣習ではなく、消費者本位で何が求められているのかを追求してきた企業だからこその「本気」を見た思いです。


執筆 秋吉 健