大谷翔平も乗るテスラ車! なぜ150万円の値下げが出来た? テスラ「モデル3」大幅値下げの理由とは

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「モデル3」異例の大幅値下げ、その背景は?

 最近では、メジャーリーガー大谷翔平選手の愛車が「モデルX」ということでも話題となっているテスラ
 
 そうしたなかで、2021年2月にテスラは「モデル3」の大幅値下げをおこないました。グレードによっては150万円を超える異例の大幅値下げにはどんな理由があるのでしょうか。

なぜテスラは「モデル3」を150万円も値下げしたのか?

 安全装備が義務化されたり、多数の電子デバイスが搭載されるようになったりと、クルマの高機能化が進むのにともない、車両価格も上昇を続けています。

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 モデルチェンジごとに車両価格が上昇するのが当たり前のようになりつつあるなかで、テスラは2021年2月に、同社のラインナップのなかでもっともコンパクトな車種である「モデル3」の値下げを発表しました。

 値下げそのものが異例ですが、驚くのはその値下げ幅です。「スタンダードレンジプラス」と呼ばれる通常グレードが511万円から429万円に、より大型のリチウムイオン電池を搭載して航続距離を伸ばした「ロングレンジ」は655万円から499万円となり、それぞれ82万円と156万2000円の値下げとなっています。

 為替の影響を受けやすい輸入車は、経済情勢によって車両本体価格を調整することがあります。しかし、ほとんどの場合、車両本体価格の数%程度で、今回のテスラのように20%以上の値引きをすることはまずありえません。

 では、なぜこれほどの値引きがおこなわれることになったのでしょうか。

 そのもっとも大きな理由は、モデル3の生産国がアメリカから中国に変わったことにあります。これまで日本向けのテスラ車は、基本的に米・カリフォルニア州のフリーモント工場で生産されたものが輸出されていました。

 しかし、テスラ初の海外生産拠点である中国・上海工場が2019年に稼働を開始したことで、中国国内向けはもちろん、日本向けのモデル3も上海工場で生産されたものへと変更されました。

 中国メディアによると、効率化された上海工場はフリーモント工場に比べて20%以上の生産コスト削減に貢献しているとされ、それに加えて輸送コストの削減が車両本体価格の引き下げの要因となっているようです。

 さらに、テスラは、各部品の現地調達比率を100%にすることを目標にするとしています。つまり、EVにとって最重要部品であるバッテリーも中国製になることを意味しています。

 中国には、CATLやBYDなどのリチウムイオン電池を世界的にリードする企業があり、また韓国LGといった取引先も近くに存在するなど、バッテリーの調達には最適な環境といえます。

 現在生産されているモデル3はすでに、現地調達のバッテリーに置き換わっているともいわれています。

 いうまでもなく、中国は世界最大の自動車販売市場であり、なおかつ世界でもっともEVの普及に熱心な国のひとつです。

 テスラにとって中国は最重要市場のひとつであり、そこでシェアを拡大するためには、現地生産による生産コストの低減が必要でした。

 そんなテスラの戦略は、結果として日本市場の人々にとってもポジティブな影響をもたらしたといえます。

テスラは大衆車となっていくのか?

 この10年間でEVの選択肢はかなり増えました。とくに近年では、欧州自動車メーカーの急進的ともいえるEVシフトの影響もあり、輸入車のEVラインナップが増えていますた。

 ただ、アウディ「e-tron」やポルシェ「タイカン」といった1000万円を超えるようなEVは、一部の人をのぞいて簡単に手が出せるクルマではありません。

 多くの人にとって手の届きやすいクルマとなるには、補助金や各種減税、ランニングコストなどを考慮したとしても、せめて車両価格が300万円台となる必要があります。

 現在、日本市場において車両本体価格が300万円台のEVは少数ですが、価格だけ安ければ良いというものではありません。

 EVの心臓部であるバッテリーの容量を引き下げれば、価格低減はそれほど難しいことではありませんが、航続距離が実用に向かなければ意味はありません。

 ただ、EVの価格については、遅かれ早かれ、今後引き下げられていくものと考えられます。テスラがおこなったように、EVには生産拠点の見直しや部品調達の見直しなどまだまだコスト削減の余地が多くあります。

 また、今後少なからずEVの需要が増してくれば、量産効果によって個々の部品、ひいては個々のクルマの生産コストは現在よりも大きく下がることでしょう。EVはまだまだ発展途上だからこそ、さまざまな改善の余地があるといえます。

 ただ、価格が“こなれて”きたとしても、テスラが大衆車化するとは考えにくいのも事実です。

 そもそも、大衆車の条件は価格だけではありません。多くの人々の日常の足となるためには、必要なときにすぐに手に入り、困ったときにはすぐに修理やメンテナンスができることも重要です。

 その視点でいえば、納期が1年以上かかることがもはや当たり前となっているテスラは、たとえ低価格化したとしても大衆車とはいえません。

 同様に、ディーラーも少なく、修理のできる工場なども限定されているテスラは、大衆車の条件を満たしてはいないでしょう。

 もちろん、「より低価格の電気自動車とエネルギー関連製品を通して、世界の持続可能エネルギーへのシフトを加速すること」をミッションとしているテスラにとって、納期の短縮化とディーラーネットワークの強化は喫緊の課題といえます。

日本でグレードによっては150万円の値下げをおこなったテスラ「モデル3」のインテリア

 一方で、現在の軽自動車、あるいはコンパクトカーのような立ち位置をテスラが狙っていると考えるのは間違いでしょう。

 低価格帯のEVは、中国の民族系自動車メーカーが得意とするところであり、中国国内ではすでにかなりの数の国産コンパクトEVがすでに走っています。

 1000万円オーバーの高級EVをメインとしてきたテスラにとって、そうした低価格EVに対抗することはブランド価値の低下をまねく恐れがあります。

 そのため、現実的には、メルセデス・ベンツやBMW、アウディといったプレミアムブランドのような立ち位置として、ラインナップを広げていくものと考えられます。

※ ※ ※

 自動車業界の常識を幾度となく打ち破ってきたテスラ。今回も、異例の値下げでEVをより手の届きやすい存在へと変えました。

 しかし、各国自動車メーカーのEVシフトが進むなかで、先行者としてリードし続けられるのか、これからも目が離せません。