【栄枯盛衰】ひっそりと終焉ホンダ・オデッセイ なぜか最近売れているワケ
オデッセイに異変が起きている?text:Takahiro Kudo(工藤貴宏)editor:Taro Ueno(上野太朗)
盛者必衰。
「オデッセイの終了」というニュースを知り、その言葉を思い浮かべた人も少なくないことだろう。
盛者必衰とは「栄えている者もいつかは必ず衰える時が来る」を意味する言葉。
いまは火が消えかかっているオデッセイだが、かつて大盛況だったことは多くの人の記憶に残っているに違いない。
そう、オデッセイはかつて大ヒットした車種なのだ。
そんなオデッセイの販売状況をみると、このところ奇妙な現象が起きている。
生産終了が明るみになったのは2021年6月だが、その翌月となる7月の販売台数が対前年同月比で230.4%をマークし販売ランキング24位と健闘しているのだ(販売台数は2131台)。
昨年7月はコロナ禍の影響で新車販売台数が少なかったのは否めないが、それにしても230%とは尋常ではない伸びである。
参考までに、昨年7月のオデッセイの販売ランキングは42位。
順位が大きく上がっていることから、オデッセイに何かが起きていることは間違いないだろう。
一時代を築く オデッセイ成功の軌跡
人気上昇の理由を探る前に、まずオデッセイの歴史を振り返ってみよう。
初代のデビューは1994年。翌年の1995年には年間12万5560台を販売して、乗用車(軽自動車を除く)の販売ランキングで4位に入っている。
人気の理由は、セダン感覚ながら広い室内を持つワゴンだったことだ。
セダンに近い感覚で乗れる3列シーターは、当時は極めて少なかった(日産「プレーリー」や三菱「シャリオ」などが存在したが)。
一方で当時はまだ「ミニバン」と呼べる車種がほとんどなく、多人数乗用車といえば商用バンを豪華装備にしてワゴンとして仕立てたワンボックスが一般的。
乗り心地や運転感覚などでセダンとの違いが大きすぎた。
そこで、セダンのような快適性や運転感覚を持ちつつ3列シートのオデッセイが発売されるやいなや、大ヒットしたという図式だ。
オデッセイはその後、2000年にも年間販売ランキング4位に入っている。このときの年間販売台数は12万391台。
フルモデルチェンジして2代目が登場した翌年にあたるが、1995年に初代オデッセイを買ったユーザーが2回目の車検となる5年目に、新型へ買い替えた需要が大きかったと考えるのが順当だろう。
だから前回のピークからちょうど5年後なのだ。
そして3度目のピークは2004年のランキング7位。
この時は9万7849台を販売したが、これもフルモデルチェンジの翌年に当たる。
この時は前回のピークから5年後ではないが、新型は思い切って背を低くした挑戦的なプロポーションで、それが市場から受け入れられたことで新規ユーザーも多かったと推測できる。
逆に、2005年の販売台数がそこまで多くなかったのは、従来型モデルに乗る既存ユーザーの買い替えが進まなかったのだろう。
ここまでが、オデッセイの成功の歴史だ。
その後は販売台数が大きく下がっていき、2007年以降はランク30位よりも下へ。
その後30位より上に浮上したのは2014年(3万2749台を販売して24位)と2016年(3万858台を販売した25位)だけとなる。
2014年は前年に5代目となる新型オデッセイが登場し、2016年は2月にハイブリッドが追加されている。
盛者必衰 ニーズの変化に取り残された
なぜオデッセイは人気が落ちてしまったのか。
それは「ミニバン」というジャンル内における人気パッケージングの変化に尽きる。
トヨタ・アルファード トヨタ
ミニバン黎明期といえる2000年代前半までは、背の高いモデルに一定の重要があった。
オデッセイのほか、トヨタ「イプサム」や「ガイア」、「ウイッシュ」、ホンダ「ストリーム」など後席にもヒンジドアを組み合わせた背の低いミニバンが存在し、大きなマーケットを作っていた。
しかしその後、ボックス型と呼ばれる、トヨタ「アルファード」や日産「セレナ」、ホンダ「ステップワゴン」のような箱型ミニバンが主流となり、室内が狭い(現実は比較対象によっては必ずしもそうではないが、そういうイメージが付いてしまった)タイプは淘汰されてしまったのだ。
オデッセイは、2013年に登場した5代目では従来よりも背を高くし、スライドドアを組み合わせるなどパッケージングの刷新を図ったものの、時代の流れには逆らえなかったということである。
時代の先駆けとしてわが世の春を謳歌していたオデッセイだが、時が流れると独自のパッケージングゆえに時代に対応できなかったといっていいだろう。
まさに盛者必衰だ。
マイチェン効果? 駆け込み需要が発生
ところで、生産終了のニュースが自動車メディアで報じられた後となる7月の販売データで、気が付けば人気が対前年同月比で驚異的な高まりをみせている理由はどこにあるのだろうか?
それは、マイナーチェンジの効果である。
実は今年2月以降、オデッセイの販売は対前年同月比200%超え(6月のみわずかに届かない197.1%だったが販売台数は3474台とかなり多い)が続いていて、5月には対前年同月比345%という数字もマーク。
現在同車の納期は2か月ほどだが、昨年11月に大規模マイナーチェンジを実施し発売してからオーダーを受けた車両が本格的にユーザーの手に渡り始めたのが今年2月以降。
そこから大きく台数を増やしているという理屈だ。
では、この先販売が終了するまでオデッセイの売れ行きはどうなるのか。
おそらく、大きく減ることはないだろう。
2つのパターン エスティマとの共通点も
なぜなら2つのパターンの層の購入が考えられるからだ。
1つは「いつか買おうと思っていた」という人たち。
トヨタ・エスティマ トヨタ
独自のパッケージングでミニバンにしては孤高のドライバビリティに優れる3列シーターを求める層が、オデッセイが無くなると知り、最後のオデッセイを購入することになるだろう。
もう1つは「今もオデッセイに乗っていて、オデッセイが無くなる前に新車に乗り換えておこう」という熱烈なファン層。
オデッセイに代わるクルマが見当たらないから、買えるうちに買っておこうというパターンだ。
実はこのパターンは、トヨタ「エスティマ」が終了する際に多く発生した。
従来型エスティマから最後のエスティマに買い替える人が少なくなかったのだ。
オデッセイは、2021年内に生産を終了するというから、納期を考えると10月頃までの契約が購入できるかどうかの1つの目安となるだろう。
筆者が考えるオデッセイの魅力は、他のミニバンでは味わえない走りの楽しさである。
もし、そんなミニバンを新車で買おうと思っているのなら、決断に残された時間は多くない。
ちなみに、オデッセイが終了する理由についてホンダからの正式なコメントはないが、販売台数的な話ではなく生産している狭山工場の閉鎖に伴うものと思われる。