気候変動は自然環境を破壊するだけでなく人間社会にも大きな影響を及ぼすことが知られており、海水面上昇による湾岸都市の浸水や熱帯地域の都市における経済的ダメージが問題視されています。新たに、オーストラリア北部のノーザンテリトリー準州で行われた調査から、「気候変動によって夏が暑くなりすぎることで医師不足が発生する」可能性があると判明しました。

Is climate change exacerbating health-care workforce shortages for underserved populations? - The Lancet Planetary Health

https://www.thelancet.com/journals/lanplh/article/PIIS2542-5196(21)00028-0/fulltext

Too hot, heading south: how climate change may drive one-third of doctors out of the NT

https://theconversation.com/too-hot-heading-south-how-climate-change-may-drive-one-third-of-doctors-out-of-the-nt-156959

近年、ノーザンテリトリーの夏は記録的な猛暑となっており、特に2019年12月〜2020年1月のノーザンテリトリーの平均気温は例年より4度も高かったとのこと。猛暑は地域医療への実害も及ぼしており、慢性的な水不足と高温によって、腎臓透析に用いる大量の冷水を確保することが難しくなっていると報じられています。

ノーザンテリトリーで特に暑さが厳しい場所の1つに、ダーウィンから南西へ320kmほど離れたキャサリンという町があります。以前からキャサリンは暑い町として知られており、2004年にオーストラリア連邦科学産業研究機構(CISRO)が発表した(PDFファイル)レポートでは、「気候変動の影響で、2030年までにキャサリン地域で最高気温が40度を超える日数が最大35日まで増える」と予測されていました。

ところが、2019年には最高気温が40度を超える日が54日を記録し、既にCISROの予測を大幅に上回っています。ノーザンテリトリーの準州政府が発表したレポートでは、今後も極端に暑い気候が持続する可能性が高く、大雨や熱帯低気圧の発生、海面上昇といった気象問題にさらされると予測されています。

ノーザンテリトリーのような遠隔地では、以前から医療従事者不足が問題となっています。キャサリンでは2020年に唯一のクリニックが閉鎖されてしまった結果、住民はかかりつけの医師に診察してもらうために300km以上離れたダーウィンまで移動することを余儀なくされていますが、気候変動は遠隔地の医療にさらなる打撃を与える可能性があるとのこと。

気候変動がノーザンテリトリーの医療に及ぼす影響を調査するため、オーストラリア国立大学の公衆衛生研究者であるSimon Quilty氏らは、ノーザンテリトリーに住む362人の医師を対象にしたアンケートを実施しました。

アンケートの結果、医師の85%が「気候変動は患者の健康に悪影響を与える可能性がある、または既に悪影響を及ぼしている」と回答したほか、74%が「気候変動によってノーザンテリトリーの一部地域が居住不可能になる可能性がある、または既に居住不可能になっている」と回答。さらに34%の医師は、「気候変動のせいでノーザンテリトリーを離れることを検討する可能性がある、または既に検討している」と回答しており、気候変動によってノーザンテリトリーで医師不足が深刻化する危険性があると判明しました。

極度の猛暑は高齢者や慢性疾患のある人にリスクをもたらしており、実際に猛暑は病気や死亡率の増加と関連しているとの研究結果があります。暑い気候は心臓や肺、腎臓の病気を悪化させたり、精神障害を悪化させたりする可能性があるとのこと。

ノーザンテリトリーの暑さに耐えられない人にとって、より涼しい場所に移動することは有望な選択肢に思えます。しかし、実際には仕事や経済的な問題で移住できない人も多く存在するため、ノーザンテリトリーの医師不足は移住できない人にとって大きなリスクとなってしまいます。今回の調査では60%以上の医師が「猛暑によってノーザンテリトリーを離れることはない」と回答しましたが、それでも3分の1近くの医師が移住する可能性を示唆したことは、ただでさえ医師不足が目立つノーザンテリトリーの地域社会にとって脅威です。

もちろん、気候変動によって猛暑が増えているのはノーザンテリトリーに限った話ではないため、同様の問題は世界中のさまざまな地域で現れる可能性があります。Quilty氏らは今後、医療従事者の採用を検討する際に気候変動のリスクを組み入れたり、気候変動リスクの評価において「特定地域における医療従事者の不足」を含めたりすることが必要だと主張しました。